13章 ハワイ攻略戦

13.1章 オアフ島空襲 前編

 深夜にもかかわらず、翔鶴の会議室では、五航戦参謀の三重野少佐と大谷少佐、加えて手空きの士官も動員して机の上に広げられた多数の写真を確認していた。これらの写真は、ミッドウェー島から飛来した一式陸攻が落としていった大きな通信筒に入っていたものだ。ミッドウェーの偵察機が撮影したオアフ島の航空基地や、真珠湾の工廠、司令部施設などの焼き増した拡大写真を運んできたのだ。多数の航空写真には識別のために番号が記入されている。その中にはつい最近の2、3日前に撮影したと思われる写真も含まれていた。


 既に、連合艦隊の司令部ともつないで、合同の写真のチェック会となっていた。司令部側にも同じ番号を付与した写真が届いていて、優先すべき攻撃目標を決めていた。連合艦隊航空参謀の佐々木中佐が、疲れた声で説明している。他の戦隊に対しても、同じことを繰り返しているのだから、確かに疲れるだろう。


「……次は、15番のベローズ基地の写真だ。右上の4つ並んだ円形の構造物は燃料タンクなので、最優先となる。写真中央の灰色の構造物は、弾薬庫だと思われる。燃料を備蓄している建築物と弾薬は全部優先だ。滑走路右下の格納庫の前に駐機している機体は、米陸軍の新鋭ジェット機で、駐機されていたら攻撃してくれ。鈴木少佐の話ではP-80シューティングスターというそうだ。単発のジェット戦闘機で、紫電改でも手ごわい相手だが、前線では既に交戦しているはずだ」


 三重野少佐が尋ねる。

「航空基地の目標については了解した。26番のココ岬にある電探の写真なのだが、中央に見えるアンテナを破壊すればいいのかな?」


「アンテナだけ破壊しても、予備に取り換えて短期間で修復できる可能性が高い。やや離れた左下に見える黒っぽい建物に電子機器の本体が入っている。こちらも攻撃目標だ。噴進弾攻撃でも破壊できるはずだ」


「航空基地周囲の米軍設備については攻撃すべきだろうな?」


「基地の周りの対空砲については、基本通り最初につぶさないと攻撃隊に被害が出る。基地周囲の建物については、格納庫などの直接敵の航空戦力の削減につながるものだけにしてくれ。建築物を攻撃し始めたら、きりがないからな」


 連合艦隊司令部は、オアフ島への攻撃を開始する以前に、偵察写真を分析して優先すべき攻撃対象を絞り込むことを決めた。私も参加して、司令部要員で攻撃方法を検討した結果だ。空母の攻撃隊が投下できる兵器の量は限られている。効率よく攻撃するために、出撃前に各部隊と目標を決めることにした。攻撃隊の隊長には印をつけた写真を渡して、目標について説明しておけば、漏れや重複は少なくなるはずだ。


 第一次の攻撃対象は、オアフ島上空での制空権を確保するために必要な目標に絞っていた。すなわち、航空基地と電探が主目標となった。


 ……


 1月24日の朝になって、連合艦隊はオアフ島への本格的な攻撃開始を命令した。空母から一斉に攻撃隊が発進してゆく。


 四航戦と五航戦の艦隊は、オアフ島の南側の海上に回り込んで航行していた。米軍の迎撃態勢を事前に探知するために、オアフ島上空に三式艦偵を飛行させた。更に、艦隊の北側にも艦偵を飛ばして接近する米軍機を早期に発見する態勢を整えていた。


 そのおかげで、艦隊に向けてオアフ島から1機のPB4Yが南下してきたが、艦偵の電探で探知した結果、直衛機により直ちに撃墜できた。


 翔鶴艦上で大橋参謀が大西司令長官に報告する。

「オアフ島から飛来した偵察機を1機撃墜しました。位置から考えて、我々を視認する前に撃墜したはずです」


「わかった。いずれ発見されて、攻撃が強襲になるのは覚悟の上だが、見つかるのは遅いほど良いからな」


 四航戦と五航戦の航空戦力は、翔鶴、瑞鶴、昇龍、黒龍の搭載機を全て合計すると270機弱だった。それから、損耗機や上空直衛機を除いた200機程度を、オアフ島の攻撃隊として発進させた。


 攻撃隊は大きく2群の編隊に分かれて飛行していた。


 第一群は68機の紫電改、24機の烈風改により編成されていた。米戦闘機が迎撃してくることを想定して、全て戦闘機として後続の攻撃隊の道を切り開くのが第一の任務だ。烈風改には、噴進弾により、ココ岬とフォートシャフターの山側に設置された2カ所のレーダー基地の破壊任務も与えられていた。


 後続の第二群は、20機の紫電改、60機の流星、40機の彗星から構成される爆撃機主体の攻撃隊だった。攻撃隊が目標としたのは、オアフ島南東部に存在する航空基地の無力化だった。


 指示された攻撃目標としては、陸軍のベローズ基地とヒッカム基地、海軍のカネオヘ基地となった。攻撃の優先順位が高いのは、多数の戦闘機と爆撃機が配備されているベローズ基地とヒッカム基地だ。それに比べて、哨戒機や水陸両用機が配備されているカネオヘ基地は優先度が下がるはずだ。しかし、実際には、戦闘の推移により空母の搭載機が避難しており、基地に配備された機体も分散化などで移動しており、最新状況がはっきりしていないため同じ扱いで攻撃対象になった。


 第一群の攻撃隊はオアフ島の南方から飛行してゆくと、一度、西方に方向を変えて、オアフ島の南西方向から回り込むルートをとった。オアフ島に80浬(148km)あたりまで接近すると、米軍のレーダーに探知されることを警戒して高度を下げていった。


 ところが、攻撃隊は想定よりも早く探知されていた。米海軍は、オアフ島への攻撃隊の襲来を想定して、空母機動部隊が殲滅された後も、警戒のためにところどころ駆逐艦を単独で航行させていた。ダイヤモンドヘッドの南方海上を航行していた駆逐艦オバノンがレーダーに大編隊を探知した。続いて真珠湾の南側の駆逐艦バートンもレーダーで編隊を探知した。すぐに太平洋艦隊司令部に通知する。


 ダイヤモンドヘッドが水平線上に見え始めると、一群の戦闘機部隊は攻撃のために急上昇してゆく。この時点で、日本編隊は米軍の戦闘機に迎撃されることはなかった。


 上昇したために、オアフ島南端のココヘッドに設置されたレーダーが日本軍の大編隊を探知した。レーダー基地の指揮官は、手順に従い司令部に味方機の飛行についてまずは問い合わせた。友軍機ではないことを確認してから、司令部に未確認機の編隊が接近していることを通報した。


 ……


 マケイン長官とマクモリス少将は、深夜になっても仮眠をしただけで、日本軍発見の報告を待っていた。そこにピケット駆逐艦からの報告が入ってきた。


 レイトン少佐がメモを見ながら報告する。

「この島の南方を航行中の2隻の駆逐艦が、日本軍の編隊をレーダーで探知しました。反射波から、恐らく大編隊だと思われます。オアフ島の南方で約100マイル(161km)です。それと陸軍からです。カワイロアとワイナエのレーダー基地が未確認目標を探知しています。ホイラー基地からレーダー装備の4機のB-17が飛び立って、確認をしているとのことです」


 マクモリス少将がひったくるようにメモを取り上げて、見入った。

「西の編隊と南東の二方向からの攻撃ということか? まさか、アルミ箔による偽の探知ということはないだろうな。陸軍同様に、南方の敵を我々も確認する。PB4Yに空中の編隊を目視確認するように指示してくれ」


 しばらくして、通信士官がメモを持ってきた。マクモリス少将がメモを受け取った。

「南方に飛行していたPB4Yからの報告です。オアフ島を目指して飛行している大編隊を確認しました。2群に分かれて飛行している編隊を視認しています。こちらはおとりではありません。すぐに、南方に迎撃隊を出すべきですが、西方の状況がまだ不明です」


 その時、マケイン長官宛てに電話がかかってきた。

「マケインです。ああ、エモンズ中将ですか。西から飛行してきているのは日本軍の大編隊だと確認ができたのですね。じつは、我々も南方向から接近してきた日本軍の編隊を発見しました。偵察機が目視で確認していますので、アルミ箔の欺瞞ではありません。なるほど、私も同じ意見です。日本軍は、この島の航空兵力をまずつぶしに来るでしょうね。はい、わかりました。その作戦に賛成です」


 電話を切ってから、周りの参謀たちに説明を始めた。

「陸軍が探知した目標は、複数の編隊に分かれてオアフ島の北側、中部、南方を目指しているらしい。敵の攻撃目標は、航空基地やレーダーステーションを想定しているとのことだ。陸軍は、西方の日本軍を全力で迎撃するから、南の方面は海軍で対処してほしいと言われた。もちろん、私もその作戦に賛成した」


 周りの全員が賛意を示すように首を縦に振っている。

「すぐにわが軍の全戦闘機隊を南に飛行している敵に向かわせる。敵の編隊はダイヤモンドヘッドに迫っているはずだ。オアフ島の南方にある基地や真珠湾の施設、レーダー基地は、今すぐにでも攻撃を受ける可能性がある。各基地に大規模な日本軍接近の警報を出したまえ。空襲警報を発出するように指示してくれ」


 オアフ島の上空を飛行させている偵察機から南方海上から接近する編隊の情報が向かっていた。続いて、ココ岬のレーダー基地から電波反射を探知したとの報告が、レイトン少佐に入ってきた。

「ココヘッドのレーダーが日本軍機の編隊を探知しました。オアフ島に接近するように移動していることを確認しています」


 ……


 翔鶴戦闘機隊の新郷少佐に上空の電探警戒機から連絡が入った。

「電探3号機、野中です。前方の海上に航行中の船がいます。2時方向に1隻と10時方向にもう1隻が航行中です。距離から考えて、編隊は電探で探知されています」


「了解した。我々戦闘機隊には、撃沈は無理だが電探はつぶした方がいいだろう」


 隊長の指示で、それぞれ4機の烈風改の小隊が北東に降下していった。2隻の駆逐艦を発見すると全速で低空から接近する。5門の5インチ砲と機関砲で反撃してくるが、4機の烈風改は機体を横滑りさせて回避した。4機から72発の噴進弾が発射された。20発以上の近接信管弾頭が駆逐艦の艦上で爆発した。船体や主砲に影響はなかったが、船体上のマストが折れ曲がり、むき出しになっていた装備が弾頭の破片と爆風で被害を受けた。レーダーアンテナも吹き飛んでしまう。同じころ別の4機の烈風改が攻撃したもう1隻の駆逐艦も攻撃を受けて、レーダーが無力化された。


 ……


 バーバーズポイント基地では、哨戒機により日本艦隊を発見した昨日から既に戦闘態勢に移行していた。空襲を想定して、戦闘機も爆撃機も準備を終わらせて出撃命令を待っていた。未明になってオアフ島の南方海上から日本機が飛来しているとの報告と同時に司令部から出撃命令が出た。


 基地の配備機が一斉に出撃準備に入ってあわただしくなる。ハンクス中尉の中隊にも今回は、出撃命令が出た。昨日の戦闘では、F6FからFHファントムに機材を変更して間もない彼の部隊は出撃命令から除外されていた。エンジンを始動して、離陸待ちしていると、隊長から命令があった。

「真珠湾の南方、60マイル(96km)から接近してくる敵編隊を迎撃する。敵はジェット戦闘機の大編隊だ。無事に帰りたいならば、とにかく速度を落とすな。編隊からも絶対にはぐれるな」


 渋滞を始めた誘導路の中から、いち早く滑走路に進んだ彼の部隊は先行して離陸を始めることができた。ハンクス中尉は僚機と並んで、6番目に離陸した。離陸して脚を引き込んでから振り返ると、後方から4機のFHファントムが上昇してくる。バーバーズポイントには、24機のFHファントムが配備されていたが、昨日の第30.3任務部隊への護衛戦闘で被害を受けていた。撃墜されずに基地に帰っても、要修理となった機体は出撃できない。そのために、今日のジェット戦闘機の編隊は10機だけだ。


「後方からF8Fの編隊がやってくるはずだ。エヴァ基地からは、FO-1シューティングスターとF4Uも上がって来ることになっている。友軍機を敵機と間違えるなよ」


 FO-1シューティングスターやプロペラ機の編隊と合流して、ホノルルの沖合を経て南東へと飛行してゆくと日本軍機の編隊が見えてきた。敵編隊を見てハンクス中尉は一安心した。大編隊と聞いていたが、中尉の眼には20機程度の編隊に見えたのだ。


「敵の編隊に接近しているはずだ。向こうから攻撃してくる可能性がある。周囲に注意せよ」


 隊長の言葉で、見張りが不足していたと気がついた。思わず周りを見回した。その時、今まで見逃していた50機を超える大編隊が上空から降下してくるのを発見した。


 ……


 新郷隊長機に電探警戒機から再び通話が入った。

「前方11時方向に米軍の編隊だ。電探では3群に見える。恐らく、違う機種の編隊が分かれて飛行している」


「了解だ」


「前方11時に3群の敵編隊だ。上昇して、先頭の編隊を上空から攻撃する。烈風改は3時方向に迂回せよ」


 瑞鶴戦闘機隊の吉村大尉は、オアフ島への攻撃に参加するのは2度目だった。前回は開戦時に零戦で攻撃隊に参加したが、今回は噴進弾を備えた紫電改に搭乗していた。既に彼は、前方に米戦闘機を見つけていた。指示に従って、ゆるく旋回しながら機体を上昇させていっても、眼下のジェット戦闘機の編隊はまだ直進している。


 戦闘機隊には、昨日の戦闘経験から米軍は2種類のジェット戦闘機を運用していることが周知されていた。翼が大きくて胴体幅の大きな機体とスマートな単発の機体だ。その2種類のジェット機がそれぞれ編隊になって飛行している。後方の大きな編隊はグランマンのプロペラ機のようだ。もちろん、脅威度の高いジェット戦闘機を先にかたづけるつもりだ。米軍機の様子を見て、思わず独り言をつぶやいた。


「それにしても、いまだにまっすぐ何もしないで飛行をしているとは、未熟な連中ばかりなのか?」


 新郷隊長の部隊は、幅広のジェット戦闘機に向かってゆくようだ。そうであれば、スマートな機体を攻撃すると決めた。紫電改でも油断できない相手だと注意を受けていた。無線で列機に命令した。

「11時方向のジェット戦闘機の編隊を攻撃する。噴進弾攻撃だ。相手は我々とほぼ同じ性能だ。油断するな」

 吉村大尉の後方には後続機として11機が続いていた。


 上空から噴進弾を発射するのと、FO-1シューティングスターが、一斉にロールして四方に降下を始めるのがほぼ同時だった。


 噴進弾が狙った空間には何もいなくなったが、それでも何発かは、降下してゆくジェット戦闘機に背後から追いつくことができた。数発の弾頭が爆発すると、その周囲で黒煙を上げて墜落してゆく機体が見える。


 そのまま、降下してゆく米戦闘機を吉村隊は追尾した。速度がほぼ同じなので、なかなか追いつけない。

「事前に聞いていた通りだ。本当に速いぞ」


 やがて、マッハで表現するような速度になってくると、じりじりと距離が縮まってくる。直線翼のFO-1シューティングスターよりも後退翼の紫電改の方が、遷音速での限界速度が大きいのだ。後方から20mmを撃つと、限界速度に近づいていた米戦闘機は一瞬でバラバラになった。


 一方、新郷大尉の編隊も10機程度のFHファントムを噴進弾で攻撃してから、バラバラになった編隊を追い詰めていた。


 ……


 ハンクス中尉は、上空から一斉にロケット弾が発射されるのを見ると、ためらわずに機体を急降下させた。機体の制限速度も構わずに、ほとんど垂直に近い降下に入れて全速で逃げた。機体が舌を噛みそうな振動を始めたが、スロットルを緩めることもなく、海面近くまで降下を続けた。おかげで助かることができたが、周りには友軍は1機も見えない。仲間はみんなやられてしまったのだろうか。


 ……


 残りの約30機の紫電改編隊は、F8FとF4Uから構成された50機以上の編隊を攻撃していた。小林中尉の編隊が、一斉に噴進弾を発射すると、米海軍機はプロペラ機の旋回性能を生かして回避した。しかし、訓練飛行のような緩慢な旋回をした機体は、噴進弾の爆発で撃墜されてゆく。戦闘経験の浅いパイロットが撃墜されても、まだ機数では米軍機が上回っていたが、ジェット機との圧倒的な性能差でまともに対抗することができない。少なくとも3倍くらいの機数が必要だ。


 小林機は後方から追いつくと20mm機関銃4門で射撃した。F8Fの右主翼に命中した20mm弾が爆発すると外板がバラバラに飛び散って炎が噴き出した。クルリと反転してそのまま錐もみになって機首を地上に向けた。僚機が並行して飛んでいたもう1機のF8Fに射撃をすると、その機体は胴体の背面の外板が飛び散って落ちていった。


 小林中尉は、9時方向にF4Uの編隊がまだ飛行しているのに気がついた。バンクで列機に合図すると、一気に距離を詰めてゆく。


 全速でコルセアの前方から接近すると、そのまますれ違った。上昇旋回して後方につこうとするが、ベテランパイロットのコルセアも既に旋回を開始していた。互いに後方につけようと水平に円を描く旋回戦となったが、小林中尉は空戦フラップを最大限に引き出した。F4Uよりも速い旋回速度で紫電改が旋回してゆく。小林中尉は猛烈なGに耐えながらも操縦桿を引き続けた。びりびりと失速寸前まで迎え角を増した主翼が水蒸気の白い尾を引いて小さく振動している。それでも旋回の外側に機体が振り出されないのは、空戦フラップの効果だ。


 やがて頭上に見えていたF4Uがするすると下方に降りてくる。F4Uはたまりかねて、水平飛行に移った。小林機は旋回からの切り返しの瞬間に射撃すると、左翼とエンジンに数発が命中して爆発した。エンジンから黒煙をまき散らしながらF4Uは落ちていった。


 小林中尉は、F4Uを射撃した直後に、後方から迫ってくるもう1機のF4Uを発見した。左に滑らせながら天地がさかさまになるようにロールするとほとんど垂直に急降下した。一旦、敵機の照準を降下で外したところで再び急上昇に移る。上空のF4Uに対して、突き上げるように射撃すると、機首からどす黒い煙を噴き出して落ちていった。


 戦闘機同士の戦いは、米軍機が落とされたり、逃げたりして空域からいなくなると自然に終了した。オアフ島の海岸が見えてくると、後方の20機余りの烈風改が電探基地を目指して編隊から分かれてゆく。あらかじめ、偵察で突き止めていたレーダーの基地に向かっていった。ココ岬のレーダー基地とフォートシャフターレーダーのレーダー基地に向けて、それぞれ12機の烈風改が飛行していった。偵察写真に従い、レーダーアンテナの破壊だけでなく、無線機器がおさめられた建物も特定して噴進弾で攻撃した。あらかじめ地上攻撃を想定して、噴進弾は着発信管付きの榴弾だ。10センチ砲と同等の威力のある100mm噴進弾の弾頭は通常の建物であれば、充分破壊することができた。


 戦闘機の戦いが一段落するころ、流星と彗星を中心とする第二群は、ダイヤモンドヘッドが見えるところまで近づいて2方向に分かれた。西側に分かれた編隊は、ヒッカム基地に向かって飛行していった。東に向かった編隊は、ベローズ基地とカネオヘ基地を目標とした。


 陸軍のヒッカム基地を、20機の流星隊と15機の彗星隊が攻撃した。まず、数機の彗星が急降下すると、対空砲を打ち上げている周囲の対空陣地を噴進弾と爆弾で攻撃した。1機の彗星が対空機銃で撃墜されたが、すぐに後続機が噴進弾により沈黙させた。


 次に流星隊が降下して、飛行場を狙って各機が2発の50番(500kg)爆弾を投下した。滑走路には、500kg爆弾がめり込んだ。数メートルの地下まで突入してから、遅働信管により炸薬が爆発した。15m以上の直径で深さ数メートル以上の穴が開いて、たちまち滑走路は使用不可能となる。1本の滑走路に10カ所程度の穴をあけて1カ所の修復くらいでは使用できないようにする。続いて、基地の建物や格納庫にも爆弾が投下されて粉々に吹き飛ばされた。格納庫には、噴進弾を発射して内部に収容された機体ともども破壊してゆく。突然、噴進弾の爆発の後に大きな炎が上がる。航空機用のガソリンタンクに彗星の投下した25番が命中したのだ。基地の北側エリアの3分の1ほどが炎に包まれてしまう。


 3機の彗星が写真で示されていた弾薬庫と思われる建物に急降下爆撃を行う。さすがにコンクリート製の構造物により、防御がされているので、80番(800kg)4号爆弾で攻撃することになっていた。米軍は、弾薬庫を2000ポンド(907kg)弾頭に対する防御としていたが、徹甲榴弾の80番4号は分厚いコンクリート製の天井をかろうじて貫通した。弾薬庫の爆発が引き起こされた。数キロ先まで響き渡る雷のような爆発音と、周囲の建物も吹き飛ばすような大爆発が起こった。


 ベローズ基地とカネオヘ基地に向かった爆撃隊も、流星と彗星をあわせて、30機余りの攻撃隊が同様に攻撃を行っていた。遠くからでも見える黒煙が幾筋も立ち上って、燃料タンクや弾薬にも被害を与えたのがわかった。

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