12.14章 四航戦、五航戦の戦い 艦隊攻撃
戦艦マサチューセッツは、数隻の駆逐艦を従えて、空母機動部隊の西側を航行していた。西南方向から日本の攻撃隊がやって来るならば、最前面で迎え撃つことになる。
東方のエンタープライズⅡの輪形陣では、空母の右舷側に軽巡洋艦のクリーブランド、左舷側に重巡クインシーが航行していた。更に巡洋艦の間を埋めるように駆逐艦を配置していた。後方の小型空母のプリンストンの輪形陣は、右舷側に軽巡コロンビアを配備して、周りを駆逐艦が囲んでいた。
西方のマサチューセッツが、接近してくる日本軍の攻撃隊を探知した。キンケード少将に探知報告が通知される。
「敵編隊を戦艦のレーダーがとらえました。かなりの大編隊です。前方の編隊の後方にも続いているようですが、前面に戦闘機が飛行して、後方は爆撃隊だと想定されます」
少将は黙ってうなずいた。すぐに次の報告が上がってくる。
「新たな敵編隊を、南と北に探知しました。敵は3方向から攻撃してきています」
「後方に爆撃隊を引き連れている隊が主力部隊だ。艦隊を攻撃するのは爆撃隊だ。中央の敵編隊はジェット戦闘機が相手をしろ、プロペラ機は、後方の爆撃隊を目標として攻撃するのだ」
……
3群に分かれた戦闘機隊は直進していた五航戦の紫電改の編隊が、南と北に迂回した部隊よりも先行して米艦隊に近づくことになった。
新郷少佐の戦闘機隊が飛行してゆくと、米艦隊のジェット戦闘機群が向かってきた。
「敵はジェット戦闘機だ。しかも2種類の戦闘機が飛行している。油断するな」
FO-1シューティングスターが迎撃隊の先頭を飛行している。タワーズ少将のジェット機開発の加速対策のおかげで、英国開発のエンジンを搭載してかなり前倒しで完成した機体だ。まだ空母への適合試験は途中だが、エヴァ基地の海兵隊には空母に先立って配備されていた。ちなみにほぼ同時期に、陸軍もP-80シューティングスターとして、このロッキードの戦闘機を採用している。推力1.4トンのエンジンにより、時速530マイル(853km/h)の速度を記録していた。公称最大速度453ノット(839km/h)の紫電改でも、全く油断できない相手だった。
新郷隊の紫電改に向かってきたジェット戦闘機は、12機のFO-1シューティングスターと30機のFHファントムによる混成部隊だった。それに対して、新郷少佐の部隊は、翔鶴と瑞鶴からの紫電改が38機だ。
米軍戦闘機は、高性能なFO-1が日本軍のジェット戦闘機とまず戦うつもりで先行している。紫電改の編隊から牽制のために噴進弾が遠距離で発射されると、それに対応して米軍もロケット弾を発射した。高速のジェット戦闘機に対して、遠距離から発射された噴進弾は命中率がかなり悪くなる。しかも戦闘機は運動性も良好なので、発射した瞬間さえ見ていれば、比較的回避は容易だった。日米両軍が2機を落としたが、大きく戦力が変わることはない。それよりもロケット弾の回避により、双方ともに編隊が崩れてしまった方が影響は大きい。最初は互いに編隊になって旋回していたが、次第に距離が近づけば、近接戦闘へと移行してゆくことになった。
新郷少佐は、戦いながら2種類の米軍ジェット戦闘機の実力を見極めようとしていた。単発のスリムな戦闘機は、エンジンの性能が同じ程度なのだろう。紫電改と同等の性能のようだ。一方、主翼付け根に小型のエンジンを搭載した双発機は、大きな主翼で旋回性能が優れているが、加速力と速度は明らかに紫電改が優れている。
高速機による旋回戦闘は、短時間で乱戦になっていった。新郷少佐は、近接戦闘になっては、主翼の大きな米戦闘機が有利になると判断した。
「敵機を振りきって上昇しろ。焦るな。大部分の敵戦闘機は我々よりも低速だ」
少佐の指示を聞くことのできた機体が、ばらばらになりながらも上昇してきた。約20機が上昇してきたのを見計らって降下攻撃を命令する。
「急降下で攻撃する。旋回戦に巻き込まれるな。降下したら上昇だ」
命令により、上昇した機体は一撃離脱に切り替えて攻撃を始めた。
ミッドウェーの戦いに参加しなかった五航戦には、珊瑚海の戦いでは消耗したものの、真珠湾以来のベテラン搭乗員がいまだに数多く残っていた。彼らは自分自身が今までの戦いで習得したやり方で、米軍戦闘機と渡り合っていた。
瑞鶴戦闘機隊の岩本飛曹長が指揮する4機小隊もその中の一つだった。敵戦闘機が見えてくると、新郷隊長の指示よりも早く、編隊の後方から上昇した。そのまま上空から米軍とすれ違うと、スプリットS字機動により、背面から垂直降下、もと来た方向に向き変えてから機体を引き起こしていった。米ジェット機の背中が斜め下方に見えたところで一呼吸接近してから噴進弾を発射した。噴進剤の推力と重力により加速した噴進弾はほとんどまっすぐな軌道で、米軍戦闘機に向けて飛翔していった。米戦闘機も回避行動に移るが、想定外の方向からの攻撃で発見が一瞬遅れた。しかも重力による加速も加わって弾速が早い。
4機の紫電改が発射した72発の噴進弾のうちの6発の近接信管が作動して爆発した。至近弾の爆発をまともに食らった4機のFO-1が落ちてゆく。
岩本小隊は、噴進弾を発射してから再び上昇してから攻撃対象を上空から見極めた。手前を飛行中のFHの編隊に狙いを定めて、降下を開始した。FHは水平旋回で回避しようとする。岩本機は斜め上方から降下しながら、旋回してゆく敵機の先を読んで、その方向に機首を向けた。距離を詰めて20mmを一連射すると、旋回中の敵機がスーッと機銃弾と交差するように飛行してきた。胴体の背面に命中すると銃弾の爆発により外板が飛び散って、エンジンからも黒い煙が噴き出した。煙が炎に変わってそのまま落下してゆく。列機の伊藤一飛曹も同じ要領で1機を撃墜していた。
墜落してゆく機体を避けて、岩本機は列機を引き連れて、そのまま米戦闘機編隊の中を急降下していった。下方を飛行している米戦闘機の編隊を見つけて、その方向に降下の向きを変える。速度を生かして背後につけると再び一連射で双発のジェット戦闘機を撃破した。
当初は紫電改が数では不利だった。しかし、米海軍では前線に出たパイロットの消耗が繰り返されたために、戦闘未経験のパイロットが多い。性能で紫電改に匹敵するFO-1シューティングスターもベテランパイロットに撃墜されてしまった。残りの大部分は紫電改よりも性能が劣るFHファントムだ。このため、新郷隊がより多くの機体を撃墜することになった。20機余りの米軍戦闘機が撃墜された時点で、日本の戦闘機が2倍以上の数となり、圧倒的に米軍が不利となった。米軍ジェット機の急降下による空戦域からの離脱が始まった。
昇龍戦闘機隊の牧野少佐は、電探警戒機の誘導に従って、米艦隊の北側を迂回してから、米機動部隊の方向に南下していった。
「牧野少佐、前方に米戦闘機の編隊だ。かなり規模が大きい。注意せよ」
電探警戒機から注意されるまでもなく、牧野少佐は薄墨を空に引いたように見える編隊を既に視認していた。接近してゆくと、2時方向のやや下側に見えたのはプロペラ機の編隊だった。26機の紫電改に対して、機数は米軍機が圧倒的に多い。それでもプロペラ機に対して不利だとは思わない。牧野少佐にとっては、目の前の戦闘機は、今まで見たことがない機体だった。若干ずんぐりしているが、無駄なぜい肉を絞った小型の機体は、F4UやF6Fよりも高性能と思える。少佐が観察している間に米軍機は紫電改の方に向きを変えてきた。牧野隊の紫電改も機首を敵編隊に向けて下げてゆく。
「降下攻撃を開始。噴進弾を発射せよ」
44機のF8Fベアキャットの部隊の先頭を飛行していたブラックバーン少佐は、左翼側で始まったジェット戦闘機同士の戦闘を北側へと進むことで避けようとしていた。戦闘機よりも、日本の戦闘機隊の後方を飛行している爆撃機群を攻撃するように命令されたからだ。しかし、目的とする爆撃機群へと接近する前に、レーダーで日本編隊の位置を確認していた母艦から警告が行われた。
「ブラックバーン少佐、北側から日本機の部隊が接近してきている。そちらの部隊を攻撃するつもりだ」
舌打ちしながらも、直ちに部隊に指示を出す。
「北方から日本軍が接近中。攻撃される恐れあり。警戒せよ」
少佐は指示を行いながらも、機首を右翼方向の北側に向けていた。北方からやってくる敵機に対応するためだ。日本軍の戦闘機は真北ではなく、東北方向からやって来た。ちょうど太陽の方向だ。
高速で降下してきた20機以上のジェット戦闘機が、一斉に自分たちの編隊に向けて噴進弾攻撃を撃ってきた。1機あたり十数発としても300発を超える噴進弾が雨あられのように飛んでくる。
「ジェット戦闘機のロケット弾攻撃だ。急降下、緊急回避せよ」
ブラックバーン少佐は叫びながら、北側に向けた機首をやみくもに突っ込んで、急降下してロケット弾攻撃をかわそうとした。自分にとってジェット機との戦闘は初めてだなどと、今さら言い訳しても仕方ない。
周囲を見ると、半数以上のF8Fは急降下により加速して回避しようとしていた。それでも上空から飛来してきたロケット弾は、簡単に追いついて爆発した。運の悪いF8Fに接近した噴進弾の近接信管が爆発した。爆発の結果、10以上の煙が地上に向かって伸びてゆく。すぐに、噴進弾の後を追いかけるようにジェット戦闘機が上空から突っ込んできた。100km/h以上高速の紫電改に狙われたF8Fは急旋回による回避以外は逃げることができなかった。
ブラックバーン少佐機の右翼側を日本軍のジェット戦闘機が上空から降下してきた。恐らくジョージ(紫電改)と呼ばれる機体だ。急旋回から更に機首を突っ込んで、下方に抜けようとする日本戦闘機の方向に機首を向けると、長い連射を放った。幸運なことに、遠ざかるジェット戦闘機に機銃弾が命中して後部胴体からバラバラと破片が飛び散るのが見えた。そのまま、ジェット戦闘機は遠ざかっていったが、母艦まで戻るのは難しいだろう。しかし、冷静に周囲を見回してみると、ジョージに撃たれて落ちてゆく友軍の機体の方が圧倒的に多い。
「海面まで急降下せよ。空域に留まるな。とにかく逃げろ」
どれだけの機体が指示を聞いているかわからないが、少佐は、全力で逃げるように指示を出しながら自らも海面に向けて降下していった。
牧野少佐は、一旦降下攻撃してから再び上昇してくると、まだ戦闘空域を飛行していたF8Fを見つけて追尾を始めた。F8Fは、高速の紫電改に後ろにとりつかれるとすぐに追いつかれてしまう。左右に切り返しながらF8Fが逃げてゆくが、背中を向けた瞬間に射撃すると、20mm弾が胴体に命中した。やがて米軍機は低空へと四散して逃げていったために、周りを飛行している機体は友軍機ばかりになった。
……
南方に飛行していった小林大尉の黒龍戦闘機隊は、米戦闘機群の左翼を飛行する20機のFHファントムと24機のFJ-2ムスタングの混成編隊と対峙することになった。FHファントム編隊のファイトナー大尉は、南方から接近してくる敵編隊を発見した。
「9時方向に敵編隊。繰り返す。9時方向に敵だ」
直ちに向かってくる方向に機首を向けると、まだ遠いと思ったが、装備していた2.5インチロケット弾を発射した。高速で接近してくる敵機は急激に距離を詰めたので、結果的に適切な距離で発射したことになった。
小林大尉は噴進弾の発射煙を見て、機体を急降下させた。後続の機体も隊長機にならって降下してゆく。後方で回避の遅れた紫電改にロケット弾が命中して、2機が撃墜された。先手をとられたと思ったが、上昇して攻撃する以外にできることはない。
小林大尉は、編隊に上昇を命じた。
「敵編隊に向けて突入。ジェット戦闘機が優先だ。噴進弾を発射せよ」
斜め上空のFHファントム編隊に向けて噴進弾が飛んでゆく。たちまち4機が撃墜される。上昇してから、FHファントムとの旋回戦に持ち込んで後方から銃撃した。空戦フラップを使用して、速度が落ちても一気に旋回していって敵機の後方につけた。主翼の上面で水蒸気が霧状になって、短い白煙を後方に引いている。小林機の一連射で、FHファントムの後部胴体が吹き飛んだ。隊長自身が切り込み隊のような戦い方をしたために、南の空域は乱戦状態になった。それでも紫電改の速度性能が勝っていた。撃墜されるのはほとんどが米軍機だ。
FJ-2ムスタングはジェット機の戦闘の合間を縫って、日本編隊後方へと抜けていった。しかし、爆撃機の編隊の前で飛行していたのはほぼ同数の烈風改の編隊だった。警戒機からの情報により、彗星隊の護衛から流星隊の前方に出てきていたのだ。同数の戦闘機の戦いになった。
速度性能はほぼ同等だが、翼面荷重が小さくてエンジン馬力の大きな烈風改は、旋回性能と上昇力で勝っていた。空戦フラップも利用して旋回すると、FJ-2ムスタングの後方につけることができた。烈風改との空戦により、FJ-2が流星隊を攻撃することは不可能になった。
紫電改の後方を飛行していた流星隊には、米軍の戦闘機をすり抜けるための指示が入ってきた。
「こちら電探警戒機3号機だ。爆撃隊の隊長に通話している」
「翔鶴爆撃隊の高橋だ。聞こえている」
「爆撃隊の進行方向、10時方向に敵戦闘機がほとんど飛行していない空域がある。約5分飛行して、その先で2時方向に進路を変えれば、米軍の空母機動部隊が見えるはずだ」
「誘導に感謝する。戦果を期待していてくれ」
流星隊は、指示された方向に飛行してゆくと、米艦隊上空に向けて一気に加速した。爆撃隊には、あらかじめ12機の紫電改が爆撃隊の護衛として随伴していた。
高橋少佐に、電探機から再び無線が入る。
「電探警戒機の野中だ。高橋隊長に通知する。爆撃隊後方、東北東から敵機が飛行してきている。速度から恐らくジェット戦闘機だ。回避方法は判断を任せる」
「了解。警告に感謝する」
すぐに編隊列機に確認する。
「9時か8時方向に敵機だ。誰か見えないか?」
「瑞鶴爆撃隊、津田です。8時方向、2機、高度はやや低い。距離10浬程度。双発ジェット機」
爆撃隊に随伴していた戦闘機隊から2機の紫電改が、無線を聞いて翼を翻して降下してゆく。新郷隊の戦いから抜け出た2機のFHファントムと紫電改との戦いが始まった。
流星隊が飛行してゆくと、既に前方には、空母機動部隊が見えていた。艦隊は西方のオアフ島方面に向けて航行していた。しんがりは戦艦が駆逐艦を従えていた。その先の2つの輪形陣の中に空母が見えた。
戦艦1と空母2の艦隊編制は偵察機からの報告の通りだ。高橋少佐は、事前の偵察情報に従って各中隊に目標を割り振っていた。
「目標は、戦艦1と空母2で事前情報の通りだ。各部隊は予定通りの目標を狙え。電波攪乱紙を発射せよ。妨害電波の放射開始」
流星の翼下から、小型の噴進弾が発射された。しばらく山なりに飛行してゆくと、弾頭が破裂して、キラキラ光る内容物が拡散した。ジェットエンジンが電波攪乱紙を吸い込まないように注意して、人口雲の上を飛行してゆく。編隊周囲への高射砲射撃が始まるが、時限信管弾の射撃をしているために電波攪乱紙の効果は少ない。
……
エンタープライズⅡからも接近してくる日本爆撃隊は良く見えた。
CICに入ってくれという要請を無視して、キンケード少将は艦橋に上がってきていた。この目で戦いの状況を自分の目で直に確認したいというのが理由だ。
「ミッドウェーの時とは違うぞ。日本軍からの妨害電波には引っかからないぞ。VTヒューズから時限信管への切り替えは徹底しているな。オアフ島の司令部からの通達通り、マジック・ヒューズは使用禁止だ」
……
米艦隊の対空砲火を無視するように、爆撃隊についてきた10機の紫電改が急降下を始めた。増槽を投下した後退翼の機体は、降下による重力の助けも得てマッハ0.7に到達した。その後も加速してゆく。
6機の紫電改がエンタープライズⅡに降下すると、空母と右舷を航行していた軽巡クリーブランドが猛烈な射撃をしてきた。しかし、マッハで表現するような高速のために、ほとんどの対空射撃が後追いになってしまう。それでも5インチ(12.7cm)対空砲を12門備えた巡洋艦のクリーブランドからの射撃が命中して1機が撃墜された。紫電改は、40mm対空機関砲の攻撃を受けることを警戒して遠距離から噴進弾を発射した。90発の噴進弾が空母を目指して飛んでゆく。
噴進弾は対空戦闘にも使うことを考慮して、全てが近接信管を装着していた。しかも、半数が通常弾頭の榴弾で、残りが三式弾と同じ焼夷弾だった。空母の上空で一斉に噴進弾が爆発した。全て10m程度上空での爆発だ。何の防御もない機関砲やキャットウォークや飛行甲板にむき出しの装備が爆風で被害を受けた。続いて、降り注いできた焼夷弾による火災が甲板上の10カ所以上で発生した。噴進弾自身の推進剤の燃焼もそれに加わる。
離れて航行していたプリンストンにも、4機の紫電改が同様の攻撃を仕掛けていた。その結果、甲板上から猛烈な炎が上がっている。対空砲も被害を受けて、砲火が散発的になっていた。
キンケード少将が様子見をしていた艦橋にも噴進弾の爆風と熱波が襲ってきた。艦橋側面の窓ガラスが爆風で飛散する。
かろうじてガラスの破片を避けたバレンタイン艦長が指示を出していた。
「被害を報告しろ。落ち着け、火災さえ消せば大丈夫だ。放水を開始しろ」
しかし、噴進弾は攻撃の幕開けに過ぎなかった。上空には既に爆撃体勢に入った流星隊が飛行していた。
エンタープライズⅡを狙ったのは、15機の流星だった。対空機銃を避けて、6000mあたりから水平爆撃と同様の編隊を組んで、100番(1,000kg)赤外線誘導弾を投下した。約200kgの推進剤に点火すると、空母めがけて加速が始まった。1トンの誘導弾が内蔵する弾頭は約800kgの徹甲榴弾で、装甲板の貫通力は120mm程度として炸薬量を300kgまで増加させていた。戦艦に与える威力は低下するが、空母への破壊効果を増大させた設計となっていた。
流星が投下した15発の誘導弾にとって、高熱を発して燃えている焼夷弾は探知が容易な目標だった。正常に動作しなかった4発を除いて11発が赤外線目標を捕まえて、音速近くの速度で落下していった。エンタープライズⅡの右舷側に2発が至近弾となって落下した。更に艦の後方の海上に2発が落下した。残りの7発の誘導弾が命中した。後方にたなびく炎の影響で、船体の中央部から後方にかけて全て命中して船首部分には命中弾がない。
高速で命中した誘導弾は、格納庫下の2.5インチ(64mm)装甲板を軽々と破って機関室上部の1.5インチ(38mm)装甲を貫通したところで爆発した。艦内で爆発した7発の800kg弾頭がボイラーとタービンを全て破壊して、格納庫上にも爆風が吹き上がって巨大な穴が甲板上に開いた。後部エレベータは上に吹き飛んでから飛行甲板上に落下した。舷側にも、後部船体の下面にも亀裂が発生して浸水が始まる。海上に停止したエンタープライズⅡは、後半部の船体上部は複数の爆発の破孔で原形をとどめていなかった。
エンタープライズⅡは、動力が完全停止したため、亀裂からの浸水を止めるポンプも動かなくなくなって、やがて後部から沈み始めた。
同時刻、プリンストンには、12機の流星が誘導弾を投下していた。12発の誘導弾のうちの8発が正常に動作して、焼夷弾頭の赤外線に向けて誘導された。3発が至近弾となり、5発が船体に命中した。船体中央部から後部にかけて命中した800kg弾頭が次々と船殻の底部で爆発すると、船体の上部構造そのものが周囲に飛び散った。船体後部の3分の1が側壁以外ほとんど何もない状態となって、船尾から急速に沈み始めた。
戦艦マサチューセッツを狙ったのは、12機の流星だった。噴進弾攻撃を受けていないこの戦艦は全力で対空射撃を続けていた。しかも、妨害を受けていた近接信管を時限式に換えて、高射砲も光学測定により照準をしていた。日本機が攪乱紙の散布と電波妨害をしているにもかかわらず、爆撃進路に入って投弾するまでに5インチ高射砲により2機が撃墜された。
10機が投弾して、8発が正常に作動して戦艦に向かっていった。2発が左舷の至近弾になった。更に2発が右舷艦尾の至近弾となって外れたが、4発が命中した。煙突近くの左舷側に命中した2発は、上甲板の1.5インチ(38mm)装甲板を貫通して、強度甲板の6.05インチ(154mm)に当たって貫通できずに爆発した。機関部に被害はなかったが、左舷側の上構付近のほとんどの5インチ砲や40mm機関砲が吹き飛んだ。甲板下の高射砲の弾薬が爆発して、爆煙を噴き上げる。右舷側に命中した一弾も装甲板を貫通できずに爆発して、上部構造物を破壊した。船体後部に命中した一弾は第3砲塔の天蓋に命中して、7.25インチ(184mm)上で爆発した。周囲の機銃を破壊したが、砲塔内部は破壊できなかった。4発ともに装甲板の上部で爆発して爆風が上方に吹き上がったために、艦橋上のレーダーや射撃式装置に被害が出た。
上空に残っていた12機の流星は、激しく対空砲を放っていた巡洋艦を攻撃目標とした。4機が重巡クインシーを狙って、後部甲板と船体中央部にそれぞれ1発が命中した。船底まで貫通した弾頭が船底下の水中で爆発した。全ての動力が停止して、船底の巨大な破孔から始まった浸水を止めることが不可能になってしまった。クインシーは徐々に艦尾から沈んでいった。
4機の編隊が軽巡クリーブランドを狙い、同様に軽巡コロンビアを4機が狙った。クリーブランドには2発が命中して、ほとんど船体が破断するような被害を受けて急速に沈んでいった。コロンビアには左舷寄りに1発が命中した。船底で爆発した弾頭が船底と舷側に大きな亀裂を作った。コロンビアは次第に左舷に傾いて、横転して沈んでいった。
攻撃隊の最後尾を編隊で飛行していた40機の彗星隊は、紫電改が撃ち漏らした数機のF8FとFJ-2から攻撃を受けた。直衛として随伴していた烈風改が直ちに、米戦闘機に反撃した。米戦闘機は2機の彗星を撃墜したが、それ以降は烈風改からの攻撃で逆に2機が撃墜されて、残りの機体は退避していった。
雷撃装備の14機の彗星は、まだ25ノットの速度で航行していた最大の目標であるマサチューセッツを狙って高度を下げ始めた。上空の彗星が左右の翼下に装備した4発の噴進弾を発射した。前方で爆発して電波攪乱紙がばら撒かれた。一方、マサチューセッツは、爆撃によって対空砲や機銃、レーダーを破壊されてまばらな対空砲しか撃てない。周囲を航行していた4隻の駆逐艦からは激しく5インチ砲と40mm機関銃を撃ってくる。妨害電波の放射と電波攪乱紙を散布したにもかかわらず、対空砲火により、2機が撃墜された。それでも12機が挟撃して魚雷を投下した。マサチューセッツの右舷側に7本、左舷側に5本の魚雷が航走していった。戦艦は面舵で艦首を右に向けて、雷数の多い右舷側を優先して避けようとした。結局、右舷に2本、左舷に3本が命中した。
右舷の1本目は水雷防御区画を破壊したが、そこで止まって機関部は浸水しなかった。2本目の爆発は、かろうじて破壊を免れていた水雷区画の内側の隔壁を破壊した。その結果、前部機関室への浸水が始まる。左舷への被雷も同様の浸水を発生させたが、既に誘導弾の爆発により左舷側の一部の隔壁が破壊されていたので、より大きな浸水となった。喫水が増して、速度が落ちてきたところに、更に6機の彗星が左舷を狙って突っ込んできた。3本が左舷に命中すると、最新型の戦艦も浸水に耐えきれずに左舷へ大きく傾いた。左舷側の上甲板が水浸しになる。やがて横転しながら沈んでいった。
まだ投弾していなかった20機の彗星は、巡洋艦より大型な艦は全て撃沈されていたので、駆逐艦を狙って攻撃することになった。5本の魚雷が投下されて3本が命中した。15発の100番赤外線誘導弾が投下されて、9発が命中した。この結果10隻の駆逐艦が沈むことになった。第30.2任務部隊を構成していたほとんどの艦が撃沈されたことになった。
……
第30.2任務部隊の戦闘状況は、太平洋艦隊司令に通知された。
マケイン長官は、報告を聞いて、思わず大きな声を出してしまった。
「私の聞き間違いなのか。全ての空母と戦艦、巡洋艦が撃沈されて、駆逐艦もほとんど撃沈されたということなのか? オアフ島の航空基地から応援の戦闘機隊を向かわせたにもかかわらず、全く攻撃を阻止できなかったということか?」
通信メモを持ってきたレイトン少佐はうなずいた。
「ただし、30.2任務部隊の攻撃機は、オアフ島方向に避難していて被害を受けていません。日本艦隊を攻撃させますか?」
「ダメだ。オアフ島から発進した戦闘機隊も多数の日本機と戦って被害を受けているはずだ。中途半端に護衛戦闘機をつけても、撃破されるだけだ」
横で聞いていた参謀長のマクモリス少将も賛成した。
「私もその意見に同意します。今後はフィッチ少将の部隊と連携して攻撃する方が、戦果は大きくなると考えます」
マケイン長官はうなずくと、少佐に向かって命令した。
「基地の攻撃隊には、出撃の準備をさせておいてくれ。フィッチの部隊もすぐに戦闘を開始するはずだ。それほど待たずに出撃することになる」
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