12.13章 四航戦、五航戦の戦い 戦闘開始

 太平洋艦隊司令部は、第30.2任務部隊にもオアフ島周辺の日本艦隊の情報を通知した。参謀のクラーク大佐が通信文を見ながら日本艦隊の情報を説明していた。

「……以上が、太平洋艦隊司令部が通知してきた日本艦隊の位置と編成です。オアフ島から発進した索敵機が取得した情報です」


 キンケード少将が、メモをのぞき込む。

「我々に最も接近しているのは、このオアフ島の南西海域を東に航行している部隊だな。偵察報告では、大型空母4隻とのことだぞ。かなり歯ごたえのある相手だ。追加で想定される海域に偵察機を発進させる。今飛んでいる偵察機にも南西の日本艦隊の想定位置を伝えてくれ。とにかく相手艦隊のできるだけ詳しい状況を知りたい」


 作戦参謀のコナリー中佐が尋ねる。

「まだ攻撃隊を出すには遠いと思いますが、西方に進んで艦隊を接近させますか? 艦隊司令部からは、オアフ島から離れすぎるなと言われていますが」


「日本艦隊が接近してくるならば、オアフ島から離れない位置で待ち構える。どうせ相手がやって来るのだからな。それよりもオアフ島基地の状況をまず確認してくれ。現在の我々の位置から頼れるのは、島の南側に位置する基地の航空隊だ。幸いバーバーズポイントやエヴァ、フォードなど南側は海軍の基地が多い。一度、現在の様子を問い合わせてみてくれ」


「北方に日本機の大編隊が現れたので、オアフ島基地の航空隊は、迎撃に向かったと聞いていますが、大丈夫でしょうか?」


「オアフ島の北側の基地ならば、攻撃されることを考えて全力で迎撃するだろうが、南の基地は自分の基地をがら空きにしてまで、迎撃機を飛ばすとは考えられん。半数ぐらいは残っているだろう。何しろ相手は4隻の正規空母だぞ。南西の日本艦隊が攻撃隊を出して来たら、援軍をこちらに飛ばしてもらうように要請するのだ」


 ……


 連山の編隊がモントゴメリーの艦隊に接近していたころ、日本艦隊は第30.2任務部隊に対しても接近を開始していた。この艦隊には、空母翔鶴と瑞鶴の五航戦に加えて、新編された四航戦が並走していた。四航戦は元グラーフ・ツェッペリンこと黒龍とホーネットを改修した昇龍から編成されていた。


 艦隊は4隻全ての空母が32ノット超えという高速艦隊で、しかも全艦が240m級の飛行甲板を備えていて、ジェット機が運用可能な艦だった。


 ミッドウェー島を暗いうちに離陸した電探警戒3号機は、3機の警戒機の中では最も南側の空域で索敵を行うこととなっていた。そのため、オアフ島の南西海域へと機首を向けて飛行していた。連合艦隊が、米機動部隊の存在する可能性が最も高いと想定していた海域だ。しばらく、高度を上げて南西方向に飛行してゆくと、案の定、航行している米艦隊を電探がとらえた。電探3号機は大淀に直接無線電話をつないで報告した。


 ……


 大淀の司令部に警戒機からの連絡が入ってきた。

「宇垣少将、オアフ島南西空域の警戒機から通信が入っています」


 すぐに宇垣少将はマイクのスイッチを入れて、通話を始めた。警戒機からの音声はスピーカから流れてくる。

「聞こえているぞ。連合艦隊司令部の宇垣だ」


「こちら電探3号機、野中です。電探で敵機動部隊を探知。オアフ島から南西、90浬(167km)。電波反射から大型艦は4と推定、詳細な緯度と経度は……」


「新たな、米艦隊を発見したということだな。了解した」


 発言を一度やめて、周りの参謀たちに向かって話しかけた。

「何か、今後の作戦に対して伝えることはあるか?」


 連山を改修した警戒機ならば、遠距離探知可能な電探をうまく使って、上空から友軍部隊の管制ができるはずだ。手を上げてから、私は自分の意見を説明した。

「四航戦と五航戦は、ジェット機の比率が高い艦隊です。燃料消費の大きいジェット機にとっては、長距離の編隊飛行は苦手です。攻撃隊が、できるだけ最短距離で米艦隊に行きつけるように電探警戒機から誘導させてはどうでしょうか? 電探警戒機ならば友軍の編隊も敵の編隊も双方が見えるはずなので、友軍戦闘機隊を敵編隊に向かわせて、爆撃隊はそれを避けて艦隊に向かうというような誘導も可能なはずです」


「電探を使った防空戦の迎撃法を攻撃にも応用するということだな。戦闘機には敵戦闘機を引き付けさせ、爆撃機は敵戦闘機を回避させるということか」


「電探警戒機3号機です。今の話は聞こえていましたよ。電探の探知で敵戦闘機の位置を確認しながら、我々が飛行経路を誘導することはもちろん可能です。我々は複数の無線器を搭載していますので、戦闘隊と爆撃隊に対して異なる周波数で同時に指示することが可能です。もちろんその間も司令部とも通話できます。従って、戦闘機の誘導途中で米迎撃機が爆撃隊に向かってきたら、それを迂回するように爆撃隊に指示することも可能です。後でいいので、友軍の攻撃隊の隊長たちと通信できる無線の周波数を教えて下さい」


「各機動部隊には、君たちが発見した米艦隊の情報を伝達する。米艦隊への攻撃隊は四航戦と五航戦から出すことになる。空母から発進する攻撃隊が決まったら、攻撃隊の情報をそちらに伝える。もう一つ我々から伝えておくことがある。ミッドウェーから給油機が飛び立ったとのことだ。まだ戦闘は続くから、基地に戻るわけにはいかないはずだ。一度、空中給油してくれ」


 連合艦隊司令部は、五航戦旗艦の翔鶴に対して電探警戒機から得た情報をすぐに伝達した。状況説明を聞いてから、新任の五航戦司令官である大西瀧治郎少将は、すぐに偵察により詳細情報を得ることを決断した。

「電探機の位置情報が正しいとすると、我々から米艦隊までは330浬(661km)以上あるな。我々の艦隊からも敵の推定海域を偵察するぞ。三式艦偵を何機か出してくれ」


 大橋首席参謀が直ぐに応答する。

「既に偵察機の準備は完了しています。ジェット機の速度ならば、300浬(556km)でも1時間で飛んで行きます。すぐに情報が入ってくるでしょう」


「我々の艦隊ならば、1時間も航行すれば30浬程度はすぐに距離を詰められる。300浬(556km)以内に距離を詰めたら攻撃隊を出すぞ。各艦の準備を確認してくれ」


 翔鶴と瑞鶴から流星の爆弾倉に電探と増槽を搭載して偵察機に改造した三式艦偵が、独特のジェットエンジンの排気音を残して発艦していった。


 ……


 戦艦マサチューセッツのSK2レーダーは、西方から飛来してきた大型機をとらえていた。空母の低いマスト上のアンテナでは何も受信できないが、戦艦の高い位置に設置された新型のレーダーアンテナは、遠距離でも大型機からの電波反射を受信することができた。しかも、艦橋上の逆探アンテナもその方向からのマイクロ波を受信していた。


 クラーク大佐が探知状況を少将に報告する。

「レーダーが西方を飛行中の大型機を補足しました。150浬(278km)以上の遠距離です。このところ日本軍が偵察のために、さかんに飛ばしている偵察型のリタ(連山)だと思われます。逆探では、レーダーから発信されたマイクロ波を受信していますので、発見された可能性が大です」


「我々の偵察機からの報告はまだか? このままだと先手をとられて攻撃されるぞ」


 第30.2任務部隊から発進した偵察機は、12機の複座型のSB2Dスカイレーダーだった。SB2Dは、それぞれ担当域を分割して米機動部隊の南西から北西の扇型の海域を目指していた。偵察機が高度を上げてゆくと、日本艦隊よりも東側に出ていた上空の電探警戒3号機が探知することになった。


 ……


 五航戦の司令部に大橋参謀が報告にやって来た。

「上空の電探警戒機が、我々に向けて飛行している機体の探知を報告してきました。向かってくるのは4機です。おそらく偵察機です。迎撃させますか? 電探警戒機から機上電話で戦闘機を直接誘導すると言っています」


「すぐに紫電改を迎撃に上げてくれ。偵察機が向かってきている以上、こちらから電波を発信して位置を教える必要はない。我々はしばらく無線封止だ」


 小林中尉の紫電改が発艦して上昇してゆくとすぐに、無線が入ってくる。

「こちら、警戒機3号機だ。そちらの機体も電探で探知している。今から敵機に誘導する。方位、東南東。そちらの進路の3時方向だ」


 あまりの手際の良さに驚きながら、小林中尉はすぐに返事を返した。

「了解。指示に従う」


 10分ほど飛行すると、小林中尉は前方11時方向に単機の機影を発見することができた。初めて見る機体だ。大きな垂直尾翼がかなり目立っている。列機にバンクで合図すると上空から後ろに回って、20mmを射撃した。一撃で煙が噴き出す。続いて列機の阿部二飛曹が射撃すると盛大に破片をまき散らしながら、ひっくり返って墜落していった。

「なんという、あっけない撃墜だ」


 小林中尉が独り言を言いながら、墜落している機体を確認していると、またも無線が入ってくる。


「そちらの北方にもう1機飛行している。真北に向かってくれ。5分も飛べば見えるはずだ」


 小林中尉は言われた通りに北方に飛行していって、先ほどと似たような手順で敵機を発見してから攻撃を行った。攻撃した相手も同じ機体だ。更に、もう一度電探機から、北東方向に1機飛行しているとの連絡が入る。なんの苦労もなく、通知された位置を飛行していた1機のTBFアベンジャーを発見して撃墜した。


 同時刻、小林中尉の小隊以外にも四航戦の昇龍を発艦した紫電改が、電探3号機に誘導されて3機の米偵察機を艦隊の南東から東にかけての海上で撃墜していた。全ての偵察機は日本艦隊が視認できる距離に接近するよりも手前で、突然奇襲されて撃墜されたために何の報告もできずに無線通信を絶ってしまった。


 ……


 キンケード少将は、早朝以降の日本艦隊の動向がつかめない状況に置かれてイライラしていた。

「いったい、我が艦隊を発艦した偵察機は何をしているのか? 敵艦隊の想定海域は太平洋全部じゃない。怪しいところは我々の西側から南西側の範囲に絞られているはずだ」


 そこに通信士官が報告にやってきた。

「定時報告もせず、艦隊からの問い合わせにも応答しない偵察機が、多数発生しています。今のところ、消息を絶っているのはこれだけの機体です」


 メモを少将に手渡した。

「なんと6機も行方不明なのか?」


 すぐにコナリー中佐が説明を始める。

「戦いの最中に、偵察機が消息不明になる理由は、一つしかありません。これ以上待っていても日本艦隊の情報は得られません。対策が必要です」


「早朝に報告された日本艦隊の動向から考えて、間違いなく我々に接近してきているだろう。大雑把な推定だが、一時間から二時間後には我々を攻撃可能な距離に接近してきてもおかしくない。その前提に従って全力で迎撃するぞ。マケイン長官にも連絡してくれ。日本軍の攻撃隊がやってくれば、オアフ島の戦闘機の派遣を要請する必要がある」


 クラーク大佐が答える。

「オアフ島の長官には支援要請を出します。それから、我が艦隊の爆撃機は退避ですね? 万が一空母が爆撃されたら格納庫の機体は全滅ですから」


「もちろんだ。迎撃戦闘機以外の爆撃機は全機がオアフ島方面に退避だ。日本軍の攻撃後に呼び戻せばよい」


 キンケード少将の要求はすぐにマケイン長官に伝えられた。長官の元には、直前にモントゴメリーの艦隊が日本の大型機に爆撃されて壊滅したことが報告されていた。3分の1の艦隊が無力化されたのだ。これ以上艦隊の被害を増やさないためにも、第30.2群への基地航空隊の応援は必須だと長官も考えた。


 すぐにでもオアフの基地に戦闘機を上げるように指示する必要がある。マケイン長官は参謀のレイトン少佐に命令した。

「オアフ島の海軍と海兵隊の戦闘機を出撃させる。まずは、バーバーズポイント基地とエヴァ基地に命令だ。キンケードの艦隊に向けて戦闘機を送り出すように指示してくれ。もちろん陸軍の部隊にも要求する。北方の敵のおとりに時間をとられるなと伝えてくれ。今は西方に出現した日本艦隊が最優先だ」


「1時間ほど前に第30.2任務部隊から基地航空隊について、問い合わせがあり、出撃可能な機体の確認をしています。基地には、北方の敵迎撃には参加しなかった機体がいくらか残っています。既に、FHファントムとF8Fベアキャットが出撃準備を進めています」


「日本軍が襲来する時刻から逆算して、基地から戦闘機を発進させる必要がある。キンケード自身が基地からの発進時刻を判断して、指示するように伝えてくれ。第30.2任務部隊と航空基地が直接やり取りしてもらって構わん」


 レイトン少佐は連絡のために走っていった。横で聞いていたマクモリス少将が口を開く。

「第30.2任務部隊の空母が、攻撃により被害を受ける可能性もあります。日本の攻撃隊が出てくれば、キンケード少将は爆撃隊を一時的に退避させるでしょうが、空母に戻るよりも、一旦、オアフ島の基地に降りるように指示した方がいいでしょう」


「日本軍への反撃作戦については、いくつかの案を検討しておいてくれ。まずは迎撃に全力を尽くす」


 ……


 五航戦と四航戦に三式艦偵の偵察結果が届いた。大橋参謀が偵察情報を知らせに来た。

「三式艦偵がさっそく米軍機動部隊の情報を送ってきました。空母2、戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦多数です。距離290浬(537km)で、現在は東に航行しています。我々から逃げようとしているのですかね?」


「オアフ島の戦闘機の支援を受けやすいように、島に近づいているのだろう。どうも攻撃よりも自分たちの防御を優先するつもりかもしれないな。直ちに、攻撃隊を発進させる。敵の戦闘機が多数待ち構えていることが想定される。まずは、ジェット戦闘機と流星を優先して先行させる。彗星は米戦闘機の壁に穴が開いたところで突入させる」


 今までの戦訓から、制空権の確保が最重要だとの方針により、五航戦の翔鶴と瑞鶴は、140機余りの搭載機のうちの6割に相当する92機を戦闘機としていた。更に戦闘機のうちの半数の48機をジェット戦闘機の紫電改に更改していた。残りの戦闘機は、いざとなれば戦闘爆撃機としても運用できる48機の烈風改を搭載している。四航戦の昇龍と黒龍は、戦闘部隊としては、偵察機を除いて、2隻合わせて72機の紫電改と52機の流星を搭載機の中心としていた。日本で初めての事実上のジェット機専用艦とも言える編成となっていた。


 大西司令の方針に従い、ジェット機から構成された攻撃隊が、第一次攻撃隊として編成された。先行する攻撃隊は紫電改100機、流星52機から構成された。もともと搭載していた120機の全紫電改のうちの100機を攻撃隊として差し向けたことになる。ジェット機群からやや距離を空けて、烈風改24機、彗星44機から構成される第二次攻撃隊が続いた。


 ……


 エンタープライズⅡもマサチューセッツもレーダーにより飛来してきた三式艦偵をすぐにとらえた。

「キンケード少将、偵察機が飛来してきました。反射波の大きさから、大型機ではありません。現在も艦隊の周囲を飛行しています。電波放射も逆探が探知していますので、レーダーを搭載した偵察機に間違いありません」


「撃墜したのかね?」


「それが素早い機体で、FHファントムを向かわせましたが、逃げられました。目撃情報からだと、FHファントムによく似た外形の主翼付け根に双発ジェットエンジンを搭載した機体です。ジョージ(流星)と我々が呼んでいるジェット艦爆を偵察機に改修した機体だと思われます」


「わかった。そのジェット偵察機からの報告により、攻撃隊がやってくるだろう。日本軍が編隊で攻撃してくる前に防空体制を整える。まずは、艦隊から全戦闘機を飛び立たせる。オアフ島の基地にも緊急出撃を要請してくれ。30分で艦隊上空に来ることが希望だ。オアフ島からの戦闘機はどのようになっているのか?」


「陸軍基地にも要求を出しているのですが、北方の敵を迎撃していた戦闘機隊がまだ戻らないという理由で、良い返事はもらえていません。結局、マケイン長官から強く要求してもらったバーバーズポイント基地とエヴァ基地の戦闘機が我々のところにやってくる手筈になっています」


 しばらく、オアフ島の地図を見ていたキンケード少将が尋ねた。

「それで、2つの基地からやってくる海軍と海兵隊の戦闘機は、100機くらいは援軍に来てくれるのだろうな? 2つの基地を合わせれば、それくらいの戦闘機が配備されていたはずだ」


「北方の不明機のために出撃した機体があるようで、それを除く約50機がやってきます。それでも我々の艦隊と合わせれば120機を超えます」


 キンケード少将は何も言わずに天井を見た。


 エンタープライズⅡからはジェット戦闘機のFHファントムが30機、FJ-2ムスタングが28機飛び上がった。小型空母のプリンストンからはF8Fベアキャットが20機発艦した。しばらくして、太平洋艦隊司令の要求に従ってオアフ島のバーバーズポイント海軍航空基地とエヴァ海兵隊航空基地から飛び立った戦闘機隊が、上空に飛来した。海軍への配備が始まったばかりの新鋭のジェット戦闘機であるFO-1シューティングスターが12機、FHファントムが20機、F8Fベアキャットが18機だった。


 オアフ島からの航空機と空母から発艦した戦闘機を合わせて、120機を超える戦闘機の大編隊が、第30.2任務部隊の上空に出現した。しかも、そのうちの60機以上がジェット戦闘機だ。


 キンケード少将は、空を覆うような戦闘機の編隊を目の当たりにして自信を取り戻していた。

「こんな大編隊を今まで見たことがあるかね。しかも半数が高性能なジェット戦闘機だ。日本の攻撃隊がいくら高性能機を揃えても、この戦闘機の防御を打ち破ることは不可能だろう」


 クラーク大佐は、日本艦隊も多数のジェット機を保有していて、それで攻撃してきますよ、と言いかけたが言葉を飲み込んだ。どのみち、この上空の戦闘機隊が日本軍を撃退する以外に、勝てる方法はないのだ。


 しかし、クラーク大佐も、戦闘機の数では米軍が有利だろうと想定していた。さすがに、日本軍が戦闘機の比率を大幅に増やしたことで、攻撃隊の戦闘機が自軍の迎撃機とほぼ同数なことと、そのうちの8割がジェット戦闘機になっていることまでは想像できなかった。


 オアフ島から飛び立ったレーダー装備のPB4Yは、第30.2任務部隊の位置から、西南方向に150浬(278km)まで進んでから、その空域に留まっていた。そこから西方に飛行しないのは、多数の偵察機が日本軍に撃墜されたと想定されるエリアに足を踏み入れることになるからだ。PB4Yは日本艦隊を発見できなかったが、東南へと飛行してくる大編隊をレーダーの大きな反射としてとらえた。直ちに、艦隊に通報する。キンケード少将のところに、その情報はすぐに届いた。

「PB4Y索敵機からの通報だ。日本軍の大編隊がこちらに向かっている。おそらく、ジェット機を含む日本機の編隊だ。日本攻撃隊の接近を各艦に伝達せよ。上空の戦闘機にも接近する日本の攻撃隊に注意するように伝えるのだ。すぐにやってくるぞ」


 ……


 機動部隊の前方で編隊を組むと、紫電改の戦闘機隊は3群に分かれて飛行していった。五航戦の紫電改は翔鶴戦闘機隊の新郷少佐が編隊長だった。東北東の方向を目指して飛行を始めると、さっそく上空の警戒機から連絡が入る。

「こちら、電探警戒機3号機、野中だ。五航戦の戦闘機隊長は応答してくれ」


「五航戦の新郷だ。聞こえているぞ」


「しばらく、そのまま東北東に飛行してくれ。こちらの電探にそちらの編隊が映っているから、迷子になることはない」


「誘導に感謝する。ところで、そちらの警戒機は早朝から飛行しているが、燃料は大丈夫なのか?」


「先ほど空中給油を受けて、腹いっぱいになった。このまま飛行を続けて問題ない」


 四航戦の紫電改部隊は、空母毎に編隊を組んでいた。昇龍戦闘機隊は高橋少佐が率いていた。黒龍戦闘機隊は小林大尉だ。


 しばらくして警戒機から無線をつないできた。

「警戒機3号機だ。電探の映像からは敵は上空で3つの部隊に分かれていると思われる。こちらも中央と南北の3方向から攻めることとしたいがいいか?」


 すぐに新郷少佐が答える。

「こちらも3群だ。その方が好都合だ」


 通話を聞いていた牧野少佐が割り込む。

「昇龍戦闘機隊の牧野だ。そういうことであれば、我々は、北方から回り込む」


 その会話を聞いていた小林大尉が話し出す。

「黒龍戦闘機隊の小林です。我々は南の方向から攻撃することとしたい」


「了解した。それでは、新郷隊が中央から攻撃、高橋隊が北側から、小林隊が南側から挟撃するということで誘導する」

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