8.6章 ミッドウェー島への再攻撃
日本艦隊が攻撃を受けているころ、第二次攻撃隊がミッドウェー島への接近を開始していた。米海軍の戦闘機は第一次攻撃隊との空戦で被害を受けていたが、まだ少数のF4Uが滞空していた。第二次攻撃隊をミッドウェー島北方の海上で迎撃できたのは8機のF4Uだった。護衛の烈風がF4Uを発見すると翼下の噴進弾のポッドを落として空戦に入る。正面から戦いを挑んだF4Uは2倍以上の烈風の攻撃でたちまち全てが撃墜された。
しかし、烈風の攻撃を避けて3機のF4Uが低空を飛行していた。一旦ミッドウェー島の西方に出て、一航艦攻撃隊の側面から彗星に攻撃を仕掛けた。しかも、高度を下げて下方の死角から彗星に接近する。思わぬところから米戦闘機の奇襲を受けて、あっという間に2機の彗星が撃墜された。
攻撃隊隊長の友永大尉が、戦闘機隊に向けて警報を出した。
「友永だ。西から敵機の攻撃を受けている。友軍機が2機落とされた」
彗星隊の上空前方を飛行していた赤城戦闘機隊の大原飛曹長は、3機の列機を率いて旋回降下して彗星編隊の後方に回り込んだ。旋回しながら短く答える。既に前方に敵機を発見していた。
「了解。敵機を視認した」。
目の前の爆撃機を攻撃しようと飛行していくF4Uに向けて、烈風は後方から接近した。攻撃することに気をとられて後方の見張りがおろそかになっている。
大原飛曹長は、こいつら練度が低いぞ、などと思いながら引き金を引いた。高品質ガソリンにより、烈風の速度性能が向上していたおかげで、短時間で距離を詰めた烈風が射撃すると、F4Uはあっけなく落ちていった。残りのF4Uも列機が撃墜している。
サンド島の海岸が迫ったところで、友永大尉は攻撃開始を命令した。
「全機突撃せよ」
22機の攻撃隊がサンド島の上空へ侵入すると、まだ残っていた島の南側の機関砲が射撃してきた。直衛の10機の烈風が急降下していって、機関砲陣地に噴進弾を浴びせると噴進弾の爆発と共に陣地は沈黙した。
その間に彗星隊が上空から急降下爆撃を行った。それぞれ2発の25番(250kg)爆弾を搭載した彗星は、対空陣地に向かう隊と、基地設備、燃料タンクを攻撃する隊、それに海岸の守備隊陣地を目標にする隊に分かれて爆撃した。着弾により次々と爆炎が上がる。飛行場の周りに置かれていた弾薬が盛大に爆発して倉庫と共に吹き飛ぶ。爆弾がガソリンタンクを直撃して猛烈な火災が発生する。
残った18機の攻撃隊はイースタン島の海岸で、まだ攻撃されていなかった海兵隊の陣地を爆撃した。目についた目標を次々と攻撃してゆく。烈風も低空に舞い下りて、地上のめぼしい目標を銃撃した。この時点ではミッドウェー島の各地に設営された守備隊の陣地がまだ残っていた。
……
一航艦はミッドウェー島からの攻撃隊を退けると、すぐに周辺に偵察機を飛ばした。山口中将は、表に出てこない空母をまだ警戒していた。
主席参謀の大石中佐が報告する。
「攻撃隊は、第一次と第二次攻撃隊を合わせて航空基地と対空陣地はかなり破壊しました。一方、上陸作戦に備えた海兵隊の陣地はかなり破壊したものの、半数程度は残っているとのことです。まもなく攻撃隊が帰艦する時刻になります。収容に向けて艦隊を南下させますがよろしいですね?」
すぐに山口中将が自分の意見を話し始めた。
「もちろんだ。直ちに攻撃隊の収容準備をしてくれ。草鹿君、第三次攻撃隊について、私は必要と考えるがどうかね? 私の中国での戦いの経験なのだが、陸上の基地は爆撃を受けても、離着陸可能な範囲の穴を埋めて整地すれば直ぐに機能が回復する。それに滑走路外であっても平らなところが残っていれば、すぐにでも滑走路として使用することが可能だ。つまり沈まない飛行場に対して、爆撃の効果を過信すると痛い目に会うぞ」
草鹿少将は兵器としての航空機がなくなれば、無力化できると考えた。
「おっしゃる通り、一見、地上の基地を破壊しても修復は短時間で可能でしょう。明日になれば最低限の長さの滑走路を修復できている可能性も否定できません。一方、この島では被害を受けた航空機の補充は容易ではありません。飛べる機体がなくなれば、この島の航空戦力は消滅します。我々は既にかなりの数の敵機を落としています。ミッドウェーの航空戦力は、ほぼ壊滅状態だと想定されます。あと1度、攻撃すれば、米軍機の出方で航空戦力が残っているか否かは、はっきりするでしょう」
山口中将と周囲の参謀が黙ってうなずいた。そこに後方から声が聞こえた。
「B-17は、オアフ島から直接ミッドウェーまで飛んでこられます。今日の敵の攻撃隊に参加していた液冷の戦闘機も、航続距離が長いので、気象条件の良い日ならば、オアフ島から一気にミッドウェーまで飛んでくる可能性がありますよ。まあ、飛行場も基地の設備も破壊したようなので、すぐにそんなことにはなりそうもありませんが」
私が艦橋に上がってゆくと、山口中将と草鹿少将は既に議論を始めていた。しばらく黙って聞いていたが、口をはさんでしまった。振り返った二人から何も聞かれる前に急ぎの要件に切り替えた。
「秋月と照月の二号四型電探が米軍により妨害されました。今回は橘花改の攻撃により凌いだとのことですが、一時的に混乱して敵機の艦隊上空への侵入を許しています。我々が珊瑚海で行った電波妨害作戦を、さっそく米軍も真似してきたということです。今後も米軍は電波妨害をやってきますよ」
山口長官が最も気になることをずばり聞いてきた。
「電探に乱れが出たということは聞いている。それを防止する策はないのか?」
「一応、最新型の電探には故障や混信を考慮して、予備の回路に切り替えができるようになっています。予備の送信回路にはわずかに波長が違う送信管を取り付けるように日本を出るときに通知しています。それにより、最初の波長が妨害されても切り替えて使えます。但し、限られた2種の波長での切り替えです。2つの波長に対して次々に妨害をかけられれば、使用できなくなります、いわば、追いかけっこの状態になりますね」
「ならば、敵が艦隊の上空に攻めてきた時間帯だけでも、その追いかけっこに勝てないのか?」
「電探自身の設計を変更する時間はありませんでした。今は2波長の切り替えしかありません。この事実を他の艦隊にも通知してください。二号四型に対して、妨害電波を受けたら直ぐに波長を甲から乙に切り替えるように至急通達を出してください。両方の波長が妨害されたら、ためらわずに光学照準です。一瞬の空白時間で攻撃を受けます」
「無論、それはしっかりと伝えよう」
山口長官が別の質問をした。
「ちょうどいいので、大尉の意見を聞かせてほしいのだが、これからの敵の空母の出方をどのように考えるかね?」
「敵空母は我々の偽電を信じてフィジー・サモア方面を目指していると考えられます。それが、ミッドウェー島に向かう日本艦隊が発見されたとの連絡を受けて、今頃は、回れ右して北上してくる途中でしょう。但し、ミッドウェー島への我々の攻略を防ぐことが任務なので、空母戦力の差も考えて、輸送船団を狙ったり、夜襲を掛けたり変則的な戦い方を仕掛けてくる可能性があります。上陸部隊に大きな被害が出れば、作戦は継続できなくなります。敵もそれは心得ているでしょう。一航艦は既に位置を知られていますので、我々とは離れた位置から輸送船団を攻撃してくることを警戒すべきと考えます」
草鹿少将はすぐにこの考えを理解してくれた。
「輸送船団を敵艦隊が狙ってくる可能性があることは、角田長官に伝える必要があります。フィジー・サモア方面に一度向かって、それから引き返してくる前提で考えると、この海域にやって来るのは明日以降でしょう。ミッドウェーの南方には我が軍の潜水艦隊が哨戒線を張っているはずです。それに引っかかってくれれば、戻ってくる敵艦隊の動向がはっきりします」
「了解だ。今日のところはミッドウェー島を攻撃して、明日は空母出現に備える必要がありそうだな」
……
一航艦は、攻撃の手を緩めずに第三次攻撃隊を送り出した。既にミッドウェー島上空では、米戦闘機は全て撃破されて飛んでいなかった。一航艦を攻撃して戻った機体も滑走路が爆弾により穴だらけなので、無事に着陸できた機体はほとんどなかった。一度降りると、燃料タンクが破壊されたので、補給もできずに再び飛び上がれない。
第三次攻撃隊は戦闘機に加えて彗星も噴進弾を装備していた。彗星は、搭載能力を生かして両翼下に噴進弾と胴体下に25番を搭載していた。地上攻撃なので、噴進弾は着発信管の通常弾だ。地上の塹壕や陣地に対しては、噴進弾と銃撃により破壊していった。ベトンで強化された陣地は、噴進弾でも破壊できない強固なものがあったので、25番爆弾で1つずつつぶしていくことになった。
三次の空襲により、今やイースタン島もサンド島も目につく目標はかなり破壊された。飛行場や格納庫も破壊されて、航空基地としての機能は完全に壊滅状態で、当面復旧も困難に見える。そんな島の上空を二式艦偵が飛行してきた。
偵察員の野坂一飛曹が前席の山田大尉に話しかける。
「それにしてもたくさん爆弾を落としましたねぇ。あちこちが穴だらけだ」
「いやよく見てみろ。まだ海岸沿いに陣地が残っている。トーチカのような陣地も無傷なものがあるぞ。不用意に上陸しようとすれば被害が出そうだ」
「この島はサンゴ礁なので海岸よりも手前の海中に壁のような浅瀬がありますよ。これじゃあ大発で上陸しようにも、水深があるところを探さないとかなり苦労しそうですよ」
「どれだけ苦労しそうなのか、それを判断するための材料を集めるために我々が飛んできたのだ。しっかり写真を撮ってくれよ。いい写真を見ることができれば、頭のいい司令部の連中がうまい上陸作戦を考えてくれるさ」
二式艦偵は何度か島の上空を往復した後に飛び去っていった。
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