8.4章 ミッドウェー島への空襲

 6月5日になって、一航艦によるミッドウェー島への攻撃が開始された。その日は早朝から周辺の海域に何機もの偵察機が索敵していた。その結果、400浬(741km)周辺には敵艦隊を発見していない。一航艦からの攻撃隊の準備が始まった。


 草鹿少将は、第一次攻撃隊の目標を航空基地だと考えていた。但し、強襲となるので、迎撃機が待ち構えているだろう。しかも、ミッドウェー島からも日本艦隊に向けて攻撃隊が出てくる可能性が高いので、直衛機は既に上空に上げている。


 その時、草鹿参謀のところに電探室に詰めていた鈴木大尉から連絡が入った。

「赤城の逆探が不明電波を受信しています。電波の方位は、東南東。また電探に不明機を探知しています。恐らくミッドウェー島から飛来した敵の偵察機です。我が艦隊の位置がミッドウェー島の敵部隊に知られました」


 すぐさま、草鹿少将から迎撃の指示が出た。

「上空の烈風に迎撃の指示を出してくれ。敵機の方位は電探室からの指示に従うように」


 山口長官が航空参謀の方を向いた。

「源田参謀、敵の攻撃隊が今からミッドウェー島を離陸したとして、我々が攻撃を受けるのは何時間後か?」


「距離から考えて、1時間半から2時間程度で我が艦隊まで来る可能性があります」


「敵からの攻撃前に、飛行甲板と格納庫はできる限り空にしておきたい。攻撃隊をすぐに発艦させてくれ」


 第一次攻撃隊が一航戦と、二航戦から発艦してゆく。第一次攻撃隊は、敵の航空戦力を奪うことを主目標として、烈風36機、零戦12機、彗星36機から構成されていた。攻撃隊は空母を飛び立つとミッドウェー島に向けて南下を始めた。北方から接近する日本攻撃部隊は、ミッドウェーのイースタン島に設置されていた早期警戒レーダーにより、70マイル(113km)の地点で捕捉された。すぐに全島に空襲警報が発令されるとともに、上空の戦闘機には北側に向かうように命令が出た。基地に残っている航空機も空襲による被害を避けるために、次々と離陸してゆく。


 30機以上のF4Uコルセアが地上からの誘導で、ミッドウェー島の北側30マイル(48km)の地点で待ち構えていた。一方、日本の攻撃隊の前方には護衛として36機の烈風が飛行していた。


 加賀戦闘機隊の飯田大尉は、逆ガルの機体を見るのは初めてだったが、正面から見ても特徴的なシルエットから、識別表で見たF4Uだとすぐにわかった。前方にF4Uを見つけると、操縦席左側の燃料タンク切り替えコックを操作して増槽から胴体内に切り替えた。コックの位置を確認して、次に増槽を落とした。無線でも中隊の烈風に指示を出す。

「敵編隊、正面。胴体内タンクに切り替えろ。増槽を落とせ」


 指示を受けるまでもなく、後続の烈風は中隊長機が増槽を落とすのを見て、同じ動作をしていた。


 増槽の抵抗が減ったのと、ハイオクタンの燃料に切り替わったことにより速度が上がってゆく。飯田大尉がスロットルを目いっぱい押し込むとエンジンの振動と騒音が一気に増加した。加速が始まると、この高度でも水平で370ノット(685km/h)をたたき出した。増速した余力で上昇する。


 前方から飛行してくるF4Uは、上昇した飯田機よりも低い所をまだ飛行していた。飯田中隊の後方の烈風に向けて左旋回してゆく。上を抑えられたのに、別の機体を狙うとはうかつな奴だ。飯田大尉は、この新米パイロットが一瞬哀れになったが、躊躇なく降下攻撃を仕掛ける。下方を飛行してゆく敵機は、恐らく340ノット(630km/h)は出ているだろう。しかし、水平飛行でも優速な烈風がF4Uに向けて降下で加速しているのだ。ぐんぐんと距離を詰めてゆく。やっとのことで、敵機は後方から接近する機体を認識して、エンジンスロットルを緊急に入れた。速度が10ノット(18km/h)程度増加したがそれでも烈風が高速だ。F4Uはエンジンの馬力を生かして、引き離そうと上昇に移った。悪い判断だ。烈風の上昇力は零戦以上に優れている。上昇するF4Uの後方になんの苦労もなく接近して、射撃をすると、20mm機銃弾が胴体に吸い込まれていく。胴体内で爆裂弾が爆発すると外板が飛び散って真っ逆さまに落ちてゆく。飯田大尉が列機を振り返ると、後方で3機のF4Uが既に撃墜されていた。


 戦闘機同士の戦いは乱戦になったが、しばらくすると優劣がついてきた。本来、烈風とF4Uは飛行性能については、ほぼ互角だったが、高品質燃料に切り替えた場合には、烈風が有利になった。落ちてゆく機体は圧倒的にF4Uが多い。しかし、戦闘を回避した数機のF4Uが烈風隊の西側を迂回してから、後方の彗星編隊に取りついた。F4Uが攻撃を仕掛けてくるのを見て、加賀爆撃隊の小川大尉が、烈風隊に通報する。


「艦爆隊の小川だ。後方から敵機が接近中。救援求む」


 飯田小隊は急旋回で駆けつけてF4Uの上空から攻撃をしたが、既に彗星には3機の被害が出ていた。


 上空で烈風とF4Uの戦いが続いている間に、噴進弾を備えた零戦は、イースタン島の航空基地めがけて突入した。飛行場が見えるところまで突っ込むと、艦爆顔負けの急降下を始めた。急降下の途中で、飛行場の周囲から撃ち上げられる対空砲により2機が撃墜された。残った10機の零戦は、滑走路脇の対空砲と基地の南側の防空陣地を狙って噴進弾を発射した。一斉に爆煙が沸き起こる。上昇した零戦は再度急降下に移る。更に1機が撃墜されたが、それに構わず噴進弾の命中を免れた高射砲や高射機関銃に機銃掃射を行って、しらみつぶしに沈黙させてゆく。


 迎撃してきたF4Uの攻撃により、3機の彗星が撃墜されたが、25機はイースタン島への攻撃を開始した。零戦の攻撃により、ほとんどの対空砲が沈黙しているため、急降下でも彗星の被害はない。小川大尉の中隊は、陸上攻撃が目的なので、25番2発を搭載していた。航空基地の建物や格納庫や燃料タンク、滑走路に向けて1発ずつ爆弾を投下していった。3本の滑走路も爆撃の穴で使用不能になった。基地のレーダー設備も重要な目標と指示されていたので、アンテナを見つけて攻撃された。


 爆撃を終えた機体は、地上の目標を見つけると13.2mm機関銃で地上を銃撃した。しかし、ほとんどの基地の航空機は飛び立った後だったため、地上で破壊できた機体は、修理中の機体などわずかな数だった。


 サンド島に向かった8機の彗星は、航空機の無力化を優先して島の東海岸の飛行艇基地を集中的に攻撃した。1機の彗星が飛行艇基地の高射砲に撃墜されたが、残りの機が格納庫や桟橋、陸揚げ用のスロープを破壊した。桟橋に係留されていた3機のPBYカタリナが目標になって、銃撃で次々と炎を上げる。


 第一次攻撃隊の地上攻撃は、彗星が投下するものを落とし終って、しばらく地上を銃撃した後に攻撃隊の引き上げが始まった。地上にはまだ破壊されない目標が残っていたが、最初から一度の攻撃ですべてを破壊できるなどとは考えていない。

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