8.3章 ミッドウェーでの戦闘開始
ミッドウェー島のPBYカタリナが日本の攻略部隊を最初に発見した頃、スプルーアンスの第20任務部隊はツバル方面に向かって南方へと航海していた。
スプルーアンスにニミッツ提督から送られた電文が届けられた。スプルーアンスの表情が一瞬で驚きに変わる。
「ミッドウェー近海で日本艦隊を発見したとのことだ。敵の攻撃目標はミッドウェーだった。我々ははめられたんだ。すぐに北上するぞ。できるだけ早くミッドウェーに到着したい。遅れる艦は後においてでも、急行する。ミッドウェーまではどれほどの時間がかかりそうかね?」
すぐにムーア大佐が答える。
「我が艦隊はちょうどフィジーとミッドウェーの中間あたりに来ています。ミッドウェー島までは、1,500マイル(2414km)はあります。直ちに艦隊をミッドウェーに向けますが、この距離では、25ノットでも50時間近くかかります。つまりミッドウェーへの到着は、丸々2日はかかります。到着は6月6日の昼から午後になりますから、その時点では日本軍の攻撃が開始されているでしょう」
「25ノットと言わず、艦隊が出せる最大の速度でミッドウェーに急行する。護衛空母は艦隊から遅れるが、やむを得ない」
「我々が到着する時点での状況を想定すると、航空機による戦闘が開始されてから次の段階に進んでいる可能性があります。ミッドウェー島の航空部隊が反撃して、何らかの結果が出ている可能性が大きいでしょう。島の地上部隊への攻撃が行われている可能性も大です。状況によりますが、ミッドウェーの基地を攻撃中の日本軍に対して我々が背後から攻撃するような作戦を考えるべきです」
「敵も周囲を警戒して、偵察も行っているはずだから、背後から攻撃しようと思っても、その前に発見されるだろう。到着までには、まだ時間はある。我々にとって実行可能な作戦を考えよう」
……
角田少将にも輸送部隊が発見されたことは知らされた。
「明日には発見されると思っていたが、1日ばかり早かったな。ミッドウェーの米軍機が爆撃にやってくる可能性がある。上空に上げる戦闘機を決めて警戒してくれ。当面は交代制で上空を警戒させる。周辺の海域の偵察も強化する。もし敵艦隊が近くにいれば、そちらにも存在を知られたことになるからな」
参謀の宮崎中佐が答える。
「予定よりも数を増やして艦偵を発艦させます。まずは我が艦隊の東方と南方を中心として捜索を実施します。一航艦からも索敵を出してくるはずです。何か見つければ、彼らから連絡が来るかもしれません。上空警戒は当面12機の烈風を交代させることでよいですね」
その日は三航戦が警戒していたにもかかわらず、暗くなるまで何も現れなかった。
「今日のところは、敵は現れなかったな。敵の艦隊は少し離れたところにいる可能性もある。そうであるなら、若干時間が経過した後に現れることもあり得る。今後も充分注意してくれ」
角田少将はミッドウェー基地からの攻撃と、同時に空母から攻撃を受ける2面作戦となることを懸念していた。しかし、山口長官から直々に教えられた極秘情報によると、米機動部隊は何らかの手段でフィジー・サモア方面に一時的に誘引されている可能性が大らしい。それでも、日本艦隊がミッドウェー近海で発見されたので、すぐにこちらに向かってくるであろう。敵艦隊がやって来るまでの間に、まずは目の前のミッドウェー島の航空兵力を全力で無力化することだ。敵の空母がやってくる前に、ミッドウェー島の戦力をつぶすことができれば、2面作戦は避けられる。それが可能な時間を稼ぐことができれば、敵機動部隊の誘引の効果があったと言えるだろう。
日没時に、石森大尉がメモを持ってやってきた。
「山口長官から電文です。『夜間攻撃に注意されたし。電探搭載の二式艦偵と戦闘機の組み合わせで迎撃可能』とのことです」
「夜中でも、電探付きの艦偵に戦闘機を誘導させて、爆撃機を迎撃させろというのか。なかなかうまい作戦だが、実際はどうなるかな。まあやってみればはっきりするな。すぐにも発艦できるように、準備をしておいてくれ」
日が暮れてしばらくしてから、攻略部隊から前に出て南東方向を航行していた護衛部隊の戦艦金剛の電探が、東方から飛来してくる不明機をとらえた。時間と方向から考えて味方機であるはずがない。同時に逆探が、不明機からの電探の電波を検知した。恐らく機上の電探により、大型艦は発見されている。
「金剛から連絡、東方に不明機。距離40浬(74km)。電探を装備した複数機のもよう。単機ではありません。我が艦の電探はまだ遠いので探知していません」
角田少将は直ちに迎撃を命じた。
「船団を守る。直ちに電探装備の二式艦偵と烈風を上げよ」
ベテランの田中上飛曹でもこんなに暗くなってから、空母から発艦するというのは数えるほどしか経験がなかった。ましてや、飛行している敵機の捜索など全く経験がない。覚悟を決めて飛び立つとすぐに母艦から指示が来た。
「東方、距離35浬(63km)。電探反応から複数機」
指示された通り東に向かった。後方からは烈風の小隊がついてきている。しばらくすると後席の森田一飛曹が叫んだ。
「前方14時方向に目標探知。20浬(37km)」
後方の戦闘機隊にも敵機を探知したことを無線で教えてやる。それにしても、本土で載せ替えた新型の空六号は調子がいい。本体は小さくなったのに、対空での探知性能が上がって、すぐに敵を探知できた。空いたところに、いくつかの別の機材を載せることになったが、それはまた別の話だ。
隼鷹戦闘機隊の宮野大尉は発艦してから、薄明りでぼんやり見える二式艦偵の後ろを飛行していた。艦偵の排気管の青白い炎が後方から見るといやに目立つ。彼の小隊も後方から前方の機体だけを頼りにしてついてきている。二式艦偵は電探で敵機を探知しているので、敵機のそばまで誘導してくれるはずだ。
二式艦偵の森田一飛曹が後席からまた叫ぶ。
「13時方向、恐らく下方です。肉眼で見える距離です」
森田一飛曹は電探の表示管を注視していたおかげで、しばらく夜目がきかない。田中上飛曹は操縦席の明かりを落として、目を暗闇に慣れさせていた。
指示された方向を凝視していると薄黒い影を発見した。後方の戦闘機隊に通知する。
二式艦偵が軽くバンクをすると宮野大尉に無線で指示が入った。
「下方に双発機の編隊。13時だ。肉眼で見える。敵編隊後方に誘導する」
艦偵に従って高度を下げてゆくと、薄明りの中に飛行している敵編隊の黒い影がはっきり見えてきた。
宮野大尉は、三角形の編隊で飛行している双発機の一番後方の左端の機体を狙って降下していった。排気炎が大きくならないようにスロットル操作に注意する。小隊の2番機と3番機は右側を飛行している敵機を狙っている。後方から近づいて、充分に接近したと判断すると20mm機銃を発射した。驚くほど明るいオレンジ色の弾が飛んでいった。直線飛行している敵機に、ほとんどの弾丸が命中して主翼と胴体上で爆発した。がっくり機首を下げて落ちてゆく。恐らく、夜間に戦闘機から攻撃されるとは、想定していなかったに違いない。宮野機が射撃開始するまで、PBYカタリナは回避することはなかった。ほぼ同時に2番機と3番機が右端を飛行するPBYに射撃を行った。胴体中央部に命中すると激しく炎が噴き出して落ちていった。
宮野大尉はその頃には、編隊前方を飛行する別のPBYに狙いをつけていた。友軍気が攻撃された炎で、さすがに攻撃に気づいて、PBYの胴体上の銃座から反撃してきた。12.7mmの機銃弾が、オレンジ色の光の軌跡としてよく見える。しかし暗闇の中で狙いが正確とは言えない。左側に旋回してゆく機体に狙いをつけて射撃すると、主翼中央部から右エンジンにかけて命中した。列機の烈風も更に1機を撃墜していた。烈風小隊が3機目、4機目を撃墜している頃、残ったPBYは魚雷を投下してもと来た方向へと急旋回しながら急降下していた。
PBYカタリナが方向を変えながら降下して距離が離れると、二式艦偵の電探も一時的に機体を見失った。
二式艦偵から宮野大尉に失探の報告が行われる。
「海面すれすれに高度を下げてミッドウェー島の方向に戻っていったようです。現状では、電探からは反応が消えています」
「我々が攻撃中に、残りの機体が海面に魚雷を投下したところを確認している。艦隊への攻撃はないと判断する」
その日の彼らの夜の戦いは終わった。
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