2章 スンダ海峡戦
2.1章 英国首相
日本がアメリカ合衆国に対して宣戦布告を行ったことはルーズベルトからチャーチルに直接連絡が入っていた。その後、日本軍が真珠湾を攻撃したことも、すぐにチャーチルに英国の情報局から報告された。
この時点では真珠湾の艦艇が空襲を受けて被害が発生しつつあることまではわかったが、アメリカ海軍の詳細な被害はまだ不明だ。しかし、チャーチルは自らの海軍が行ったタラント空襲の経験から、真珠湾の軍艦に大きな被害が発生しているであろうことを想像できた。港に停泊した船は航空機の魚雷と爆弾の犠牲になりやすいのだ。
報告書を一瞥すると、彼はわずかに口元を歪めてニヤリとした。
「うむ、真珠湾を攻撃するとはトーゴーの子孫もまた投機的な作成をしたものだな。しかし、わが軍のタラント空襲も成功したのだから、それを見習った作戦ということか。湾内の多くの船が沈められるぞ。もう一度、ルーズベルトと話さなければならんな」
思わず笑いが漏れたのは、アメリカが本格的に戦いに参加することになったからだ。欧州でも太平洋でもアメリカが本気で参戦すれば、戦況は劇的に変わるだろう。秘書官にアメリカ大統領に電話をつなげるよう指示する。すぐにルーズベルト大統領につながりましたという連絡が来る。
「日本のハワイへの攻撃の件、聞きましたぞ。しかし、これからは日本軍を恐れる必要はありません。貴国と我が国が手を携えて戦えば、必ずや日本軍を圧倒することができるでしょう。我が国も連合国として、直ちに日本への宣戦布告を行います。これからは、我が国も全力で日本と戦っていくことになります。もちろん太平洋でも我が国の部隊はあなた方と手を携えて日本軍と戦いますよ」
ルーズベルトが答える。
「かの国は宣戦布告の後に、真珠湾のわが軍の基地を攻撃しました。あなた方と我々は同じ敵と戦争状態となりました。これで同じ船に乗ったことになったわけです。無論わが軍は太平洋だけでなく、ヨーロッパでも銃を持って英国と共に戦います。差し当たって、多くの部隊をあなたが暮らす国にも送ることになりそうだ」
短い会話が終わると、秘書官を再び呼ぶ。
「我々も日本に対して宣戦布告を行う。外務大臣のイーデンが布告書類の準備をしているはずだ。すぐに持ってきてくれ。書類の準備ができれば、すぐにサインする」
数時間の休憩の後、チャーチルは秘書官に起こされた。職務に戻ると世界の反対側での戦争は想定以上に進んでいた。
日本軍が英国領であるマレー半島のコタバルに上陸して、現地守備軍と戦闘が発生していた。真珠湾では、数度の空襲で大きな被害が発生したことが報告された。オアフ島沖の海戦では、エンタープライズと護衛の巡洋艦が撃沈されていた。更に、フィリピンのアメリカ軍のクラーク基地が日本の航空部隊から空襲を受けて大きな被害を受けたことも報告される。
秘書官に太平洋での戦いの様子を確認したいので、パウンド海軍卿につなぐように指示する。
「日本軍の太平洋での活動について確認したい。まず真珠湾の攻撃だが、空母で基地を攻撃してその後にアメリカの空母も沈めたのか?」
「はい、真珠湾で日本海軍の複数の空母は、二百機を超える攻撃隊を繰り出して何度も空襲をくり返しました。真珠湾では、停泊していた全ての戦艦が大きな被害を受けて、湾内は燃える重油が流れ出て今も火の海になっています。日本海軍の艦隊については、オアフ島からの偵察機が少なくとも4隻の空母を確認しています。その後に、オアフ島沖で日米の空母による海戦が発生して、空母エンタープライズはあっという間に沈められたようです」
「日本軍はフィリピンにもほぼ同時に攻撃をしたはずだ。これも空母機が参加しているのか?」
「フィリピンの基地攻撃時には、双発爆撃機を単発の戦闘機が護衛していたことを確認しています。戦闘機は米軍の情報によると、我々がゼロファイターと呼んでいる艦載の戦闘機です。台湾からフィリピン中部まで艦戦を往復飛行させることは不可能ですので、恐らく真珠湾作戦に参加しなかった空母が2隻程度作戦に参加していると思われます。我々は、小型空母も含めて作戦投入可能な空母を日本は9隻保有していると考えています。従って、真珠湾攻撃と同時にこの作戦は可能なはずです」
実際には台湾からフィリピンまでは、零戦と一式陸攻がともに飛行して空爆したのだが、単座戦闘機はそんなに遠くまで飛べないという前提で会話をしている。
「フィリピン近海に空母が存在しているとすると、南下すればマレー半島は遠くないな。上陸支援も可能だろうが、わが海軍の兵力をまず削減するならば、シンガポールへの空襲の可能性もあり得る。日本海軍がシンガポールを攻撃する可能性は考えられるかね?」
「セレター軍港が第二の真珠湾になる可能性は充分あります。米海軍の報告によると、日本海軍は浅い湾内でも使える魚雷とスキップボミングにより湾内で効果的な攻撃を行いました。シンガポールでもその攻撃は可能です。日本の空母は巧妙な戦い方をしています。彼らを甘く見るとエンタープライズのようになります。強力な対空砲火を有して、自由に回避も可能な海上を航行していた大型艦が航空攻撃により撃沈されたのです。私はこの事実は大きいと考えております」
「我々の太平洋の戦力がすりつぶされるのを避けるにはどうしたらいいかね?」
「フィリップス中将の戦艦部隊はインド洋の艦隊とまずは合流して、東洋艦隊を一群の強力な部隊とすべきです。真珠湾の戦いで、日本海軍の空母の打撃力は証明されました。空母の攻撃力を侮るべきではありません。高速戦艦は空母と組み合わせることにより、大きな威力を発揮します。戦艦に戦闘機の傘をかぶせられれば、日本の空母も簡単に手を出すことはできないでしょう。機動部隊の高速性を生かして日本軍を振り回せば我々にも充分勝機があるでしょう。我軍は、兵力を分散して、各個撃破されることを避けねばなりません」
「うむ、私もその意見に賛成だ。新鋭艦のプリンス・オブ・ウェールズを簡単に損傷させるわけにはいかない。それよりも、空母と戦艦を合流させて機動部隊を編制することにより、インド洋と太平洋で活動させるべきだ。直ちにフィリップス中将に一時的にインド洋に退避するように伝えてくれ」
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