1.4章 第二次攻撃隊の戦い
第二次攻撃隊は、第一次攻撃隊が出発して数十分後には艦隊から発艦した。このため、真珠湾の戦艦部隊に対する水平爆撃隊の攻撃が終わって、入れ替わるように嶋崎少佐を隊長とする第二次攻撃隊が真珠湾上空へと侵入してきた。
第二次攻撃隊は以下のような編成だった。
制空隊:零戦35機
急降下爆撃隊:九九式艦爆78機
爆撃隊:九七式艦攻54機
あらかじめ工廠とその周りの工場やドックを攻撃目標の一つとして指示されていた第二次攻撃隊は、フォード島南側の対岸にある乾ドックおよび、そこに入渠中だった戦艦ペンシルベニアを目標とした。ドックに入っているにも関わらず、ペンシルベニアからは激しく対空砲が打ち上げられてくる。
まず9機の水平爆撃隊が、上空に侵入するとドックの戦艦を狙って80番爆弾を投下した。続いて、6機の九九式艦爆が急降下に入って、50番爆弾を投下した。
乾ドックにはペンシルベニアとその前方に駆逐艦カッシンとダウンズが入渠していた。このためこれらの駆逐艦も爆撃を受けることになった。ペンシルベニアには、水平爆撃による2発の80番徹甲弾が艦の前方に命中し、急降下爆撃による50番爆弾2発が艦の中央部に命中した。最初の1発は、第2砲塔の左舷側寄りに命中して、甲板と3インチ(76mm)装甲を軽々と貫通して爆発した。内部の居住区が破壊されると共に左舷側の舷側に亀裂が生じた。次に命中した80番爆弾は第1砲塔より更に前方に命中して、そのまま右舷側壁を貫通して爆発した。艦首右舷に大きな破孔が開いた。急降下爆撃による50番爆弾は1発が第4砲塔の天蓋に命中した。しかし、5インチ(127mm)装甲に阻まれて弾体が破壊されて不発となった。もう1発は煙突基部に命中して3インチ装甲を貫通してボイラー室で爆発して、半数のボイラーを使用不能とした。連続した爆発により、ペンシルベニアは復旧にかなりの日時を要する被害が発生した。駆逐艦カッシンとダウンズにもそれぞれ1発の50番爆弾が命中した。装甲のない駆逐艦は、命中部分が修理不可能なほどに大きくえぐられて巨大な破孔が生じた。
第二次攻撃隊が真珠湾に到着した時、機関の始動に成功したネバダは停泊地から攻撃を避けるために、ゆっくりと港湾の出入口に向けて移動を開始していた。戦艦の列の北端に少し離れて係留されていたネバダは、周りに邪魔な艦もなく単独で動くことができたのだ。ネバダは艦首を南西方向に向けると、真珠湾の出入口となっている水道を目指していた。
嶋崎少佐は、源田中佐から真珠湾の出入口に大型船を沈めることができれば、軍港として利用することが当面困難になるだろうとの意見を聞いていたので、優先してネバダを攻撃することを決断した。もともと、第二次攻撃隊には反跳爆撃の効果を実戦で確かめるために、九七艦攻の一部に25番反跳爆弾を搭載していた。島崎少佐は、直ちにネバダに反跳爆撃による攻撃を命じた。
真珠湾の太平洋への開口部に向けてゆっくりと移動してゆくネバダに向けて、南東側から6機の九七艦攻が接近して反跳爆撃を行った。ネバダはこんな狭い湾内ではもちろん回避行動はできない。6機が投下した12発の25番爆弾はネバダの左舷の艦尾側から飛び跳ねていって、4発が命中した。2発は左舷の装甲板がカバーしていない舷側上部に命中し、艦内に飛び込んで爆発した。ネバダは被雷により既に喫水が深くなっていたため、水面上の舷側装甲のカバーできる面積が小さくなっていたのだ。
2回の爆発が左舷側で必死に防水作業をしていた作業員を吹き飛ばして、魚雷の命中による浸水の応急対策を無効にした。左舷の魚雷の破孔から浸水が再び始まる。1発は舷側装甲板に命中して13.5インチ(343mm)装甲を貫徹できずに表面で爆発した。艦尾に更に1発が命中して、火災を発生させた。反跳爆撃と同時に、9機の蒼龍艦爆隊が急降下爆撃を行った。50番爆弾3発が命中して4発が至近弾となった。砲塔に命中した50番は装甲を貫徹できず表面で爆発した。主砲脇の甲板に命中した爆弾は甲板下の3インチ(76mm)装甲を貫通して、ボイラー室に達して爆発した。至近弾によりネバダを押していた艦首側のタグボードが転覆して沈没した。
ネバダは、攻撃を受けて浸水が増大したため湾外に出ることが絶望的になった。それでホスピタル・ポイントと呼ばれたあらかじめ定められた避難用の浅瀬を目標とした。しかし、その直前で転覆してしまった。結果的に、嶋崎少佐が求めていた目的は完全には達成されなかった。真珠湾の出入口の中央部からやや東よりに大型戦艦が沈没したため、大型艦の出入りには不便になったが不可能とはならなかった。しかも駆逐艦や巡洋艦の出入りには支障がなかった。
別の九七式艦攻の一隊は、転覆したオクラホマの内側に係留されていたメリーランドに向かった。この時点で火災も発生せず、上空からは被害が比較的少なく見えたのだ。南東方向から接近した3機の九七式艦攻が、6発の25番爆弾を次々と低空から反跳爆撃で投下した。海面上を飛んでいった爆弾は、1発が水面上に顔を出したオクラホマの船腹に命中して爆発した。2発は横倒しになった戦艦の舷側を飛び越えて、メリーランドの前部と中央部に命中した。前部に命中した爆弾は水平爆撃で生じた破孔を拡大したが、中央部の命中弾は舷側装甲を貫通せず表面で爆発したため大きな被害は与えなかった。
上空からこの攻撃を見ていた嶋崎少佐は、独り言を言う。
「命中率はなかなかいいが、25番ではやはり威力不足のようだ。戦艦をやるならもっと大きな爆弾が必要だな」
続いて赤城の艦爆隊がメリーランドとテネシーに向けて急降下爆撃を行った。18機の艦爆隊は高い技量を発揮して、7割の爆弾を命中させた。メリーランドに命中した5発は上甲板に命中した50番爆弾は3.6インチ(91mm)の水平装甲を破って内部まで貫通したため、機関室やボイラー室の一部が破壊された。但し、下甲板の2インチ(51mm)装甲は貫徹できずに弾薬庫は破壊を免れた。艦橋などの上部構造物は大きな被害を受けた。テネシーには6発が命中した。主砲塔の表面で爆発した1発を除いて5発が有効弾になった。テネシーは後部艦橋が破壊され、機関室も被害を受けた。
嶋崎少佐が様子を見ていると、メリーランドの南西側で、ゆっくりと沈みつつあるカリフォルニアに向けて、2機の零戦が降下しながら接近して行くのが見えた。魚雷の被害を受けながらも、カリフォルニアの中央部からは激しく対空砲火が放たれていた。銃撃するには、まだ遠い位置で、先頭の零戦の両翼から猛烈な白煙が発生する。一瞬、高射砲の直撃を受けたのかと思ったが、すぐに噴進弾の発射だとわかった。後続のもう1機の零戦も同様に、噴進弾を発射する。白い煙を吐きながら44発の噴進弾が戦艦の中央部一帯に着弾する。海面にも弾着の水しぶきが上がるので何発かは外れたようだが、恐らく半数以上は艦上で爆発したようだ。命中と同時に想像以上に大きな爆炎が巻き起こって、戦艦の中央部が見えなくなる。かろうじて印象的なかご型マストが煙の上に2つの顔を出している。煙が南方に風で流れてゆくと、船体中央のほとんどの高角砲や機銃座はひどく破壊されていた。ところどころ火災が発生しているところもある。左舷側から空に向かって打ち出される砲火は停止した。被弾と同時に艦上に発生した火災が徐々に広がりつつあった。噴進弾の火のついた推進剤が周囲に飛び散って、焼夷剤の役割を果たしていたのだ。
嶋崎少佐は思わずヒューと口笛を吹いてしまった。
「なんてこった。たった2機の戦闘機が攻撃しただけだぞ。まてよ、雷撃や爆撃の前にこの攻撃をすれば、随分と爆撃機や艦攻の被害が減らせるんじゃないか。あの噴進弾を全戦闘機に配備すべきだ。いや、艦爆にも装備させて攻撃させてもいいだろう。もっと威力の大きい噴進弾を開発すれば駆逐艦くらいは一撃で大破できるかも知れないな」
第二次攻撃隊のもう一つの攻撃目標として、石油タンクが指示されていた。目標に石油タンクとタンカーも含むとされていたことから、嶋崎少佐は石油タンク攻撃とタンカーのネオショーへの攻撃を命令した。ネオショーは、もともと戦艦群の泊地に隣接するフォード島東側の桟橋に横付けしていた。第二次攻撃隊が飛来した時には、ネオショーは攻撃を受けている戦艦群の隣の桟橋から北東方向に自力で移動していた。隣に停泊していたオクラホマとメリーランドが南方に脱出できるように進路を開くためだ。
湾内を移動し始めたネオショーに対して、3機の九七式艦攻が港湾の南東に回り込んでから約500メートルの距離で反跳爆撃により6発の25番爆弾を投下した。海面を飛び跳ねた爆弾は艦の前部に2発、後部に1発が命中した。前部への最初の爆弾で航空機のガソリンを搭載していた前方のタンクが破壊された。次の爆弾が再び艦首部に命中すると、爆弾がまずタンカーの艦首を吹き飛ばすように爆発した。次の瞬間、タンクから漏れ出て気化していたガソリンに引火して更に大きな爆発が起こって、炎のついたガソリンが周囲に飛び散った。後部に爆弾が命中して後部タンクを爆破すると後部タンクからは重油が周囲の海面に流出した。前部から流出した燃え続けるガソリンが後部タンクからの重油にも火をつける。
瞬く間にネオショーの周りは火の海になった。爆撃とガソリンの誘爆でネオショーの上部構造物は全て吹っ飛び、残った船体も鉄くずのような残骸となって急速に沈み始めた。ネオショーは、オクラホマと東側の対岸のちょうど中間あたりで沈んだ。船体が沈むとタンク内に残っていたガソリンと重油が海面に浮き上がってきて、炎のついた油がどんどん広がってゆく。爆発により燃えたガソリンと重油は、カリフォルニア、オクラホマとメリーランド、ウエストバージニア、テネシーにまで広がっていって、海面上に出ていた戦艦の上部構造に火災を発生させ被害を拡大した。
嶋崎少佐は、ネオショーの大爆発に驚いていた。このタンカーには重油が搭載されていて容易に火がつかないと思っていたからだ。恐らく船内の一部のタンクに航空機用のガソリンを搭載していたのだ。中佐が見下ろしている間にも、ネオショーを中心にして、炎上するガソリンは急速にフォード島の戦艦が停泊していた東岸側に広がりつつあった。炎に焦がされて、戦艦の修理は不可能になるに違いない。
石油タンクの爆撃に向かった爆撃機は、飛龍の急降下爆撃機だった。フォード島から湾をはさんで南岸に広がる石油タンク群には、九九式艦爆が4発の爆弾を投下した。爆撃の目標になった4か所の石油タンクを完全に破壊した。周囲のタンクにも爆風で亀裂が入って大量の重油の流出が始まった。かなりの数の石油タンクは破壊されたが、石油タンクが広いエリアに設置されているため、破壊したのは全体の3割程度に留まっていた。一方、数か所で破壊されたタンクから流出した重油はどんどん広がってゆく。石油タンク群の周りにプールのように黒い液体がどんどん広がった。
同様に湾の南東側に位置する別の石油タンク群にも、5機の急降下爆撃による攻撃が行われて、破壊されたタンクの重油があふれた。南東の石油タンクからの重油は、タンク群に隣接した太平洋艦隊司令部のビルにも迫って行った。
江草少佐は上空からその様子を観察していた。独り言を言っていた。
「やはり重油は、爆弾くらいでは火がつかないのか。なかなか厄介だな」
江草少佐機がバンクをすると、上空で制空任務に就いていた零戦が降下してきて重油の上に増槽をぽとりと落とした。零戦はクルリと上空で旋回すると自身が投下した増槽を目標にして、噴進弾を発射した。地上で噴進弾が爆発すると増槽に残っていたガソリンに火がついて飛び散った。ガソリンに加えて噴進弾の推進剤も重油の上で燃焼している。相乗効果で重油の上に炎が広がってゆく。数分後にはついに重油にも引火した。同様の攻撃を他の零戦も行ったため、数か所で重油の燃焼が始まり、どす黒い煙が巻き上がった。これが、海軍があらかじめ検討してきた重油の攻撃法だった。
……
真珠湾が攻撃されている間もオアフ島の北西で、最も真珠湾から離れた位置にある小さな基地のハレイワ陸軍基地は、日本軍に発見されることもなく攻撃を免れていた。外出していたテイラー中尉は、空襲を受けたことに驚いて、外出先から電話を入れて、戦闘機の離陸準備をするように要求した。テイラー中尉とウェルチ中尉が基地まで車で乗り付けると、2機のP-40トマホークが準備されていた。彼らは直ぐに2機編隊で飛び立つことができた。幸いにも日本軍の二度目の攻撃には、離陸が間に合った。右側にバーバーズ岬が見える所まで来ると、九九式艦爆が編隊で飛行しているのを発見した。北方に飛行していることから、真珠湾を爆撃した帰路のようだ。
手短に先任のテイラー中尉が指示する。
「初めて見るが、恐らくヴァル(九九式艦爆)の編隊だ。後方から接近して攻撃する」
テイラー機はやや高度を下げて編隊の南西側から接近すると、編隊の左側から後方に回り込んで襲い掛かった。九九式艦爆の後方銃座が発砲を始めたので、下方に位置を変えてから、斜め上方に突き上げるように射撃する。P-40からの2連射が九九式艦爆の左主翼に命中すると、発火してあっという間に炎が広がってゆく。一瞬後には、九九式艦爆はガクッと機首を下げて落ちていった。列機のウェルチ中尉は、更に前方を飛行する機体に向けて全速で接近した。後方から一気に接近すると容赦なく射撃する。この機体も炎を胴体から噴き出して墜落していった。
蒼龍戦闘機隊の藤田中尉はホイラー飛行場の北側に、狼煙のような一筋の煙を見つけた。下方に煙が伸びた先で爆発の光が一瞬見えた。直感的に味方機が落とされた可能性が高いと判断した。藤田小隊の3機が全速でその方向に向かうと、上空に飛行している黒い2つの点が見えてくる。少しずつ高度を上げながら接近すると、鼻先がとがった機体のシルエットが見えてくる。この島の上空を飛んでいる日本機で液冷の機体はいない。藤田中尉は、敵機に対して少しでも有利な態勢をとろうと高度を更に上げてゆくが、さすがに敵から発見された。
テイラー中尉は接近する零戦を発見して、ウェルチ中尉に警告した。
「9時方向敵機、恐らくジーク(零戦)だ」
P-40はスロットル全開で左方向への旋回に移る。
藤田中尉から見るとP-40が急加速して自分たちの方向に旋回してくる様に見えた。藤田中尉も敵機の背後をとろうと水平旋回に入った。結果的に、空の一点を軸にして巨大な車輪が反時計回りに回転するように編隊での旋回戦が始まった。車輪のる片方の戦闘機は2機のP-40、他方は3機の零戦だ。旋回の速度はどちらもほぼ同じだったが、旋回半径は零戦の方が小さい。従って、じりじりと零戦がP-40の背後へと距離を詰めてゆくことになった。零戦が次第に後方に接近してくると、テイラー中尉は、我慢できずに右翼を下げてロールすると旋回している輪の外側へと機首を向けた。P-40のこの機動は藤田中尉の想定範囲内だった。旋回戦で背後につかれれば、いずれ苦しまぎれに機体を翻して反対方向に旋回するだろうと考えていたのだ。そのため、テイラー中尉の機体の主翼がピクリと傾いた瞬間に、同じ機動で追随することができた。
P-40は急速に機首を右側方向へと向けて旋回するが、零戦は急旋回でそれよりも内側を回っていった。P-40は右旋回しながら機首を下げて急降下に移るが、急激な機動により速度が一瞬低下した。藤田中尉の零戦は、既に射程内まで近づいていた。藤田機が右旋回するテイラー中尉のP-40の背面に向けて射撃した。零戦の機軸がぶれていたために、やや広がりながら13.2mmの機銃弾がP-40に向けて飛んでゆくと、左右の主翼と中央胴体にかけて着弾した。13.2mmの炸裂弾が数か所で爆発するのが見える。ほとんど同時に、藤田機の直ぐ後方を飛行していた2番機の高橋一飛曹はテイラー機の斜め後ろを飛行しているウェルチ中尉を狙って発砲した。狙いは正確で左翼あたりに集中して着弾した。テイラー機とウェルチ機は墜落時もペアになって落ちていった。
この戦いが、オアフ島上空での第二次攻撃隊の最後の戦闘となった。
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