1.2章 トラ・トラ・トラ

 12月7日の早朝、オアフ島北方の約200浬(370km)の地点で、6隻の空母から艦載機の発艦が始まった。南雲中将が指揮する第一航空艦隊は、6隻の空母から以下のように編成されていた。


 第一航空戦隊 空母「赤城」「加賀」 司令官:南雲忠一中将(第一航空艦隊司令長官が兼務)

 第二航空戦隊 空母「飛龍」「蒼龍」 司令官:山口多聞少将

 第五航空戦隊 空母「瑞鶴」「翔鶴」 司令官:原忠一少将

 護衛部隊は、戦艦「比叡」「霧島」、重巡洋艦「利根」「筑摩」 他、軽巡洋艦、駆逐艦多数


 この日、北太平洋の波は高かったが、技量の高い操縦員たちは何事もなかったかのように次々と発艦していった。およそ15分の発艦作業で第一次攻撃隊の発艦作業が終了した。艦隊上空を1周すると、淵田中佐を総指揮官とする第一次攻撃隊は、オアフ島に向けて飛行していった。


 赤城の艦橋には、Z旗が掲げられた。

「皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ,各員一層奮励努力セヨ」


 真珠湾への第一次攻撃隊の編成は、以下のような編成であった。

 制空隊:零戦43機

 急降下爆撃隊:九九式艦爆51機

 雷撃隊:九七式艦攻49機

 水平爆撃隊:九七式艦攻40機


 南方に向けて飛んでゆく攻撃隊を見送っていると、南雲長官に宛てた山本長官名の1通の電文が入ってきた。

「ハト、トビタテリ」


 はるばる、ワシントンの横山大佐からの情報が、軍令部を経由して山本長官にもたらされ、一航艦長官に転電されてきたのだ。それは、予定通りの時間に日本からの宣戦布告書がハル国務長官に手交されるであろうことを示していた。これで、淵田中佐に攻撃時間を遅らせろとか、最悪引き返せという命令を発する必要がなくなったことで、南雲長官は内心ほっとしていた。


 草鹿少将は、この電文が発出されるまでの苦労を思い出していた。加来大佐と共に空技廠の鈴木大尉から聞いた話を信じようと決めてから、連合艦隊の司令部に納得してもらうのは大変だった。それでも、山本大将の苦労の方が大きかったに違いない。軍令部総長に何度も説明に行ったり、東郷外務大臣に頭を下げて文案を変えてもらったり、あちこち駆けずり回ったはずだ。それでも、不意打ちや卑怯者と呼ばれなくなれば、やっただけの効果はあったはずだと信じていた。


 第一次攻撃隊が飛び立った後も発艦は続いていた。艦隊防衛のための零戦が直衛機として飛び立ってゆく。続いて、ハワイ近海の米艦偵察のために偵察機が発艦していった。赤城と加賀からは零戦を複座型に改造した零式艦偵と呼ばれる偵察機が発艦していった。巡航速度の早い偵察機が使えると、水偵よりも短時間で広い範囲の偵察ができて都合がよい。同時に二航戦と五航戦からも九七式艦攻の偵察機が出ているだろう。しばらくすれば、巡洋艦と戦艦の水偵も発艦してゆくに違いない。


 攻撃隊は現地時間の6時15分ごろには真珠湾を目指して南下していた。淵田中佐が無線機をホノルルのラジオ放送に合わせると天気予報が聞こえる。ホノルルの天候は雲の多い晴れの予報で北の風10ノット程度で攻撃には問題のない天気だった。ラジオ放送には日本軍の攻撃を示唆するような内容は全く含まれておらず、のんびりと日曜日の音楽が流れていた。


 ……


 日本の艦載機の大編隊は7時過ぎには、オアフ島の北側から接近していた。オアフ島北方のオパナ・ポイントに展開していたアメリカ陸軍のSCR-270レーダーは、2.8メートル波長の電波を発信して近づく航空機があれば、それを探知すべく稼働を開始していた。7日の朝から、レーダーによる監視をしていたロッカード一等兵とエリオット一等兵はスコープに大きな目標が映るのを確認すると、装置の異常を疑った。レーダーに異常がないことを確認するために、アンテナや出力、周波数などを確認した。


あちこちをチェックした結果、2人は故障ではなく実際に大編隊が、オアフ島に北方から接近していると結論づけて、陸軍防空情報センターに連絡した。防空情報センターで、連当番兵からその報告を受けたのは、その日の当直士官であったタイラー中尉だった。彼はその日に十数機のB-17がオアフ島に到着する予定であることを知っていたので、友軍機を探知したのではないかと考えた。


 タイラー中尉が考えている間に、司令部から当直士官宛に電話連絡が入った。

「本日の当直をしているタイラー中尉であります」


 ハワイ管区司令部の士官が話を始める。

「ご苦労、実は少し前に日本から合衆国に宣戦布告が行われた。つまり日本が我が国に戦争を仕掛けたということだ。ハワイも日本からの攻撃対象となる可能性がある。油断しないで、警戒を厳重にしてほしい」


「たった今、オパナ・ポイントのレーダーステーションから編隊探知の報告がありました。北の方向から未確認の編隊がオアフ島に接近していると報告があったのです。日本軍の航空機の可能性もありますが、本日到着予定のB-17の編隊かもしれません」


「アメリカ本土からの機体であれば、東方から来るはずだ。北から接近するのは、たぶん友軍機ではないぞ。君はすぐにレーダーステーションに連絡して、探知の状況を詳しく確認してくれ。確認できたならば、その答えを私に至急連絡するのだ。私はオアフ島の航空部隊に対する空襲警報の準備をしておく。私の名前は司令部参謀のフィリップスだ。君からの連絡を待っているぞ」


 タイラー中尉がレーダーステーションに確認すると、先任であるロッカード一等兵が応対した。

「我々が探知した目標は、先頭の編隊が既に島に近づいていますが、後続の編隊がまだ続いています。レーダーの反射から考えると、これはとんでもない大きな編隊です」


 大編隊という説明から、タイラー中尉は間違いなく日本軍の攻撃部隊だと判断した。

「わかった。引き続き監視を継続してくれ。これはジャップの攻撃隊だ。状況が変われば直ぐに報告してくれ」


 タイラー中尉は、すぐにハワイ管区司令部に、今しがた聞いたばかりの状況を説明した。

「大編隊をレーダーが探知しました。後続編隊がまだ見えないほどの大編隊で、引き続き南下しています」


「了解した。司令部からは直ちに空襲警報を発出する。ジャップの攻撃機に対して、全力で防空戦闘を開始するように命令する」

 既にレーダーが目標を探知してから20分が過ぎていた。


 ……


 日本軍の編隊はまっすぐ南下すると、やがてオアフ島最北端の岬であるカフク岬に達すると西南方向に向きを変えた。北からオアフ島の中央部を縦断することは避けて、西側から回り込むためだ。淵田中佐は、オアフ島の上空に敵機の機影が見えないこと、高射砲の射撃も始まらないことから攻撃の成功を確信した。無線電話で奇襲攻撃を指示する。奇襲と強襲では攻撃の順序が異なるからだ。湾内の艦艇に対しては奇襲の場合には九七艦攻が先に攻撃することとなっていた。


「奇襲攻撃……奇襲攻撃……奇襲攻撃……」


 無線電話の感度が改善したおかげで、信号弾は止めて無線電話で命令することになったのだ。各部隊の隊長は、あらかじめ決められた指揮官機に無線周波数を合わせて指示を聞くことになっていた。奇襲攻撃命令に従って、飛行場を攻撃する急降下爆撃隊と制空戦闘機は編隊から分離してそれぞれの攻撃目標に向かってゆく。


 淵田中佐が奇襲攻撃指示を行った後に、飛行場制圧を任務とした部隊は編隊から分かれて、それぞれの攻撃対象の飛行場に向かった。飛行場の攻撃を任務とする急降下爆撃隊は、真珠湾北方の陸軍のホイラー飛行場、真珠湾内の海軍のフォード島飛行場、真珠湾南岸の陸軍のヒッカム飛行場、東端のカネオヘ飛行場に向かった。雷撃隊と水平爆撃隊はオアフ島の西寄りの地域を南下して、島の南側にある真珠湾を目指した。


 淵田中佐は、特段攻撃を中止するような敵からの攻撃や天候の変化もないことから、ハワイ最西端のカエナ岬が前方に見えてきたところで、「ト連送」により全軍突撃を命令した。


 雷撃隊と水平爆撃隊が真珠湾を目指して南下する間も敵からの迎撃がない。オアフ島南端のバーバーズ岬が見えたところで、時計を確認すると攻撃開始時間まで10分以内となっていた。ここで、淵田中佐は一航艦司令部に向けて、「ワレ奇襲ニ成功セリ」を示す「トラ……トラ……トラ……」を連送した。


 真珠湾の北方のオアフ島中部に位置したホイラー飛行場は、第一次攻撃隊がオアフ島の北側から接近したことから最も近い位置にあった。そのため、淵田機が「トラ・トラ・トラ」を打電した時点で爆撃隊は既にホイラー飛行場の上空に達していた。飛行場の上空から確認すると、飛行場にはなんと戦闘機が列になってきれいに並んでいた。オアフ島のいくつかの基地では航空機の破壊工作を警戒して、警備を行いやすい場所に軍用機を集結させていたのだ。


 レーダーによる日本編隊の探知により、ハワイ管区司令部から空襲警報が発出されて、ホイラー基地は防空体制に移行しようとしていた。一部の戦闘機は既にエンジンをかけてプロペラが回転していた。上空から見ている間に、4機の戦闘機が滑走路端まで移動して、まさに離陸直前の状況になっていた。とにかく我勝ちで離陸しようとしているのだろう。滑走路に向かっている部隊にはP-36ホークとP-40トマホークが混在している。日本軍を迎撃するために陸軍戦闘機がまさに離陸しようとしていた。


 当初の予定では奇襲攻撃の場合には、爆撃の煙が雷撃の邪魔になるので、雷撃隊を先行させることとなっていた。しかし、戦闘機が離陸態勢にあるのを見て、急降下爆撃隊の坂本大尉はすぐに攻撃をすべきだと判断した。飛び立った敵機に零戦が負けるとは思わないが、爆撃隊や雷撃隊に敵機が食らいついたら厄介なことになる。


 坂本大尉は、攻撃隊の指揮官の周波数に無線を合わせると淵田中佐に連絡を行った。

「ホイラー飛行場、敵戦闘機、離陸中。攻撃を要す。敵戦闘機、離陸中。直ちに攻撃を開始する」


 坂本大尉が時間を確認すると7時58分だった。隊長機の九九式艦爆はバンクをすると、真っ逆さまに並べられた戦闘機に向けて、急降下して50番爆弾(500kg)を投下した。エンジン出力を強化した九九式艦爆への更新は、連合艦隊ではまだ完全に終わっていなかったが、空母機動部隊は優先されていた。このため、坂本大尉の中隊には改良された九九式艦爆22型が配備されていたのだ。


 隊長機に続いて、中隊の各機が地上の戦闘機、格納庫、基地の隊舎などを目標として次々と爆撃を行う。戦闘機が並べられていた列線に数発の爆弾を投下して、跡形もないほど破壊した。戦闘機から漏れたガソリンには、火災が発生した。飛行場横の格納庫も目標となった。格納庫の屋根を貫通した爆弾が内部で爆発すると、屋根やドアが四方に吹き飛ぶ。滑走路端で離陸待ちだった戦闘機も爆撃目標となった、4機の列の中央で爆弾が爆発して、2機が瞬時にバラバラになる。弾着から離れた位置にいたP-40も爆風を受けて主翼と胴体がへこんでひっくり返った。爆撃を終えると、爆撃隊は再び低空に降りて、被害の小さな機体や地上の動く目標に銃撃を加え始めた。


 次に急降下爆撃隊が向かったのは海軍機の基地であるカネオヘ基地だった。翔鶴の艦爆隊が飛行艇基地に到着した時、既に出発した機体があるようで、いくつかの係留地は空きとなっていた。しかし、艦爆隊は格納庫とまだ残留していたPBYカタリナ飛行艇を目標と定めて攻撃を行った。九九式艦爆の爆撃と銃撃により、飛行艇基地のめぼしい目標はすべて破壊された。


 ホイラー基地が攻撃されている頃、爆撃隊の隊長である高橋少佐は、ヒッカム飛行場とフォード島飛行場に対する爆撃を命令した。ヒッカム飛行場では、B-17とA-20ハボックをはじめ60機あまりの陸軍機が並んでいるのが見えた。整備中の機体も見える。飛行場に引き出されていた航空機群と格納庫や基地の建物が目標になった。九九式艦爆が急降下爆撃をすると、命中弾を受けた格納庫が爆発する。並べて駐機していたB-17も狙われた。まず1弾が列のやや前方に着弾した。至近弾となった数機のB-17が爆風のあおりを受けて、翼外板が大きくへこんだ。外板の亀裂からガソリンが漏れ始める。爆撃を終えた九九式艦爆が上昇しながら、後部機銃でB-17を射撃すると、簡単にガソリンに引火した。続けて3発の爆弾が駐機された列の左右にそれぞれ着弾すると、残っていた機体もバラバラとなって火災が発生する。一見、無傷の機体も引火したガソリンの炎に包まれてゆく。


 双発機のA-20が中心になって駐機されていたエリアには、高橋隊と共に飛行していた翔鶴戦闘機隊の零戦の一隊が降下してきた。3機の零戦は、噴進弾を装備していた。20機ほどが整然と並んだ爆撃機の列に向けて、零戦が攻撃を開始した。零戦は一列の縦列になって、急降下した。先頭を降下してゆく小隊長の兼子大尉がまず噴進弾を射撃した。2番機は長く空中勤務をしてきた下士官としての腕前を発揮して、小隊長とはやや外れたところを狙って噴進弾を発射した。3番機も意図的にややずらした位置を狙って、噴進弾を発射する。速度をつけた降下攻撃だったため、66発の噴進弾は、比較的直線的に飛翔して爆撃機の列に向かった。最終的に、噴進弾自身が広がって飛行するように調整されていたことと、各機の照準点の違いも加わって、二百メートル四方の範囲に66発が着弾した。駐機してあったほとんどの機体が、着弾範囲内に含まれていた。爆発が連続すると、その一帯は煙で何も見えなくなる。風で爆煙が吹き流されると、大部分の爆撃機は破壊されていた。その直後に、まだ燃え続けている噴進弾の推進薬の炎がガソリンに点火して火災が発生した。被害の小さな機体も炎がなめてゆく。


 この様子を上空で見ていた、高橋少佐は噴進弾の威力に感心していた。

「なるほど、広い範囲を攻撃するにはうまい攻撃法だ。あの2番機は爆撃隊でも十分やっていける腕前だぞ」


 ヒッカム飛行場には、当日の朝に12機のB-17が到着する予定だった。オアフ島に到着したB-17は、長距離飛行のため、ほとんど燃料が残っていなかった。そのため、第一次攻撃隊により空襲警報が出ているにもかかわらず、強引に着陸することを選択した機長たちがいた。日本軍の戦力を過小評価したのだ。


 加賀制空隊の志賀大尉は、爆撃隊の上空警戒のためにヒッカム基地の東側を飛んでいたが、東側から別のB-17が低空飛行してくるのを発見した。しばらく考えて、第2小隊の坂井中尉が率いる小隊に攻撃させることにした。坂井小隊の零戦には噴進弾が搭載されていたのを思い出したのだ。


 バンクで合図をすると、坂井中尉を無線電話で呼んだ。

「こちら志賀……こちら志賀……坂井小隊……爆撃機を攻撃せよ……坂井……爆撃機を攻撃せよ……」


 坂井中尉は、既に眼下を飛行するB-17を発見していた。隊長からの命令の意図もすぐに理解する。発艦前の空母上で、敵機を見たらお荷物を全弾ぶっぱなして、直ぐに身軽になりたいと、中隊長に話していたのだ。


 坂井小隊の3機の零戦は、着陸態勢のB-17に対して後方から接近した。前方をくすんだ緑色の大型機がゆっくりと降下しながら飛行してゆく。坂井中尉と2番機の荻原一飛曹が噴進弾を全弾射撃した。坂井中尉の噴進弾はB-17の機首よりやや前方に向けて飛んでいく。噴進弾の山なり軌道の見越し角が大きすぎたのだ。その様子を見ていた荻原一飛曹は、逆に小さめの見越し角で射撃した。その結果、ほとんどの噴進弾が、B-17より下側を飛んでゆく。しかし、楕円形に広がった噴進弾の数発の飛翔ルートがB-17の尾部と交差した。次の瞬間、垂直尾翼の付け根付近で爆発が発生する。垂直尾翼の面積が半減するような大きな穴が開くと共に、右側の水平尾翼が吹き飛んだ。安定した飛行を維持できなくなったB-17はゆっくりと右翼を下げて、主翼がほぼ垂直になると、そのまま地上に翼が突き刺さるように落ちていった。


 3番機の平山二飛曹は、噴進弾を発射する機会を逃して、小隊の最後尾を飛行していた。すると、右後方に後続のB-17が着陸態勢に入ってくるのを発見した。B-17の上空を360度旋回してゆく。一度、敵機を右に見てやり過ごした後に鋭く右旋回しながら降下した。彼にとっては、初めて間近で見る4発型機だったが、艦内で見せられた写真から、それがB-17だと判別できた。志賀隊長が説明した言葉を思い出す。


「これがB-17だ。空の要塞ともいわれていて、防弾も防御武装も万全なので、多数の命中弾がないと撃墜は困難だろう。オアフ島の陸軍基地に配備されているはずだ。武装が強力なので、うかつに近づくと返り討ちにあうぞ。撃墜できないとからといって、絶対に深追いをするな」


 敵機は速度を落としているようで、あっという間に距離が詰まってくる。接近すると脚を出して、フラップを降ろしているのがわかる。

「こいつなんで、空襲を受けている最中に着陸しようとしているんだ?」


 爆撃機が、攻撃を避けて海上に逃げてゆかない理由がわからない。二飛曹は、B-17の後方で一度高度を下げてから機首を引き起こした。防御機銃を警戒して、斜め後方やや下方から接近していった。下方から見ると腹部にも銃座があるのを発見して、後悔するがもうやり直しはできない。その腹部から後方を向いた機銃の銃口が、ちかちか光って撃たれているのがわかる。あまりに敵機が大きすぎて、距離が正確でないが、負けるものかと自分も13.2mm機銃の引き金を引く。命中したかどうか判然としないが、腹部の機銃座からの射撃は停止した。


 前面の風防から翼がはみ出るほどに近づいた時点で、噴進弾を発射した。近距離で発射された噴進弾はB-17の中央部を包むように飛翔していって、胴体中央部で数発が次々に爆発した。胴体から盛大に破片が飛び散るのが見えるが、火はつかない。それでも胴体中央部をゴッソリと何かが食いちぎったような巨大な穴が開口した。平山機は、そのまま敵機の後ろから上方に抜けてゆく。B-17は、荷重に耐えられなくなった胴体がおかしな角度に曲がって墜落した。後になって、平山二飛曹は、母艦の加賀に帰ってから主翼の外翼部に4発の機銃弾が命中しているのを発見した。


 その時点で、志賀大尉の小隊は、更に後方を低空飛行していた別のB-17を発見していた。B-17の後方、斜め上から攻撃態勢に入る。先頭の志賀大尉が降下により、胴体中央部を狙って、長めの射撃を加える。命中していると思えるが煙も出てこない。胴体の表面で発光と白煙が発生するのに気がついた。13.2mm機銃弾に含まれている炸裂弾が爆発しているのだ。思わず独り言を言ってしまう。

「空の要塞というのも見掛け倒しじゃないんだな。噴進弾でなければ苦労しそうだ」


 志賀大尉が機体をすべらせると、2番機が続けて射撃する。銃弾は、胴体中央部から右翼付け根にかけて命中した。主翼付け根で爆発煙が発生する。燃料タンクから薄く白い霧が噴き出して、それが赤い炎に変わった。そこに3番機が射撃を行う。あっという間に炎が広がってゆく。攻撃を受けたB-17は、左翼付け根と胴体から火を噴きながら、一直線に滑走路の端に滑り込んだ。ドスンと通常ではありえない衝撃で滑走路に着地すると火の出た胴体が中央から折れてしまう。折れた爆撃機の前半部は滑走路上でぐるりと半回転して停止した。しばらくして、なんと折れた胴体の前半部からは搭乗員が飛び出てくるのが見えた。

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