第5話 ギャルに金棒
「……我々がどうしてここに来たか、お分かりか?」
不穏な空気に緊張が走る。
使者は椅子に深く腰掛け大きく息を吐いた。
「……正直、資源が奪えれば万々歳。戦争になれば良い小銭稼ぎになると思っている」
「そうなんだ……」
「だが、我が国は今疲弊している。正直戦争をする余裕もない」
そう吐露すると「なに?」とミロスが声をあげる。
「流行り病だ。帝国中に蔓延している。兵どころか国民まで疲弊していてどうにも首が回らなくなってきた。正直今日も偵察を兼ねていた」
「なんの?」
「奪取し療養地域にするためだ。ここはたしかに土地が良い」
「だよねー、わかるー」
「……だからこそ、その申し出は嬉しかった」
それを聴いた冴子は「オッケー、じゃあ色々話し合ってみるねー」と席を立つ。
「しかし! 本当に信じても良いのか? 一帝国を崩さんと暗躍しているのではないか?」
使者は半信半疑だった。しかし冴子はあっけらかんとしていた。
「なんで?」
「なん、で?」
「困ってるんでしょ?」
「……、ああ」
「そんなことしても良いことなくない?」
「ああ……」
冴子はにこりと笑い「じゃあいいじゃん!」と部屋をあとしにた。
残された使者と三人。クロノスは慌てて冴子を追いかけていった。
ミロスが一歩、使者の前に出た。
「正直、今ならあの帝国を討ち取れると知って心が踊っておる」
「……」
「しかし、弱った相手を討つほど愚かではない。差し出されたその手、しかと預かった。あとは任せろ」
それだけ言うと言葉を待たずに出ていった。
残されたユリウスは対峙する。
「長年、我が国と帝国は緊張状態だった。枯渇した資源を狙うその目、忘れたことはない。しかし同じように我が国は帝国の土地を虎視眈々と狙っていた」
「我々と同じということか」
「ああ。私たちに国境はあるが実際に土地に立てばわかる。隔てるものはない。あるとするならば己の心だ」
使者はユリウスを見上げる。
偏見という大きな溝が国の間に深く刻まれていた。しかしそんなものは実際にはない。ただ寄り添い、言葉を交わせばわかりあえた。冴子はそれを教えてくれた。
※
「姫!」
クロノスが脂汗を滴しながら冴子の前に立ちふさがった。
「今回はうまく事が運んだから良いものの、下手を討てばあそこで殺されていたやもしれぬのですぞ!」
「え、まじ? やばたん」
冴子はおののいた。まさか命の危機に陥っていただなんて思ってもみなかった。しかしこうして生きている。
「まあ、いいじゃん、生きてるし」
ミロスとユリウスも遅れて到着した。
「とりあえず今から大がかりな仕事が増えるな」
「どんどんうちの兵士をつかってくれ! 力が有り余ってる連中ばかりだからな!」
クロノスはようやく落ち着きを取り戻し深く息をついた。
「それならば、まず資材の確保と人員の確認を……その前に帝国側との仔細な打ち合わせをせねば」
「契約はどうなるのです」
ユリウスが訊ねる。口約束だけで書面は交わしていない。
三人に嫌な汗が浮かんだ。
「それなら大丈夫だよ。アタシ録音しといたし。ほら」
そう言って携帯画面を見せる冴子。しかし何がなんだかわからない三人はそれがどういう意味を持つのかわからなかった。
「言質録れたよってこと。やべー、充電切れるから録音停止しなきゃ。てかここ充電できんの?」
言質という言葉に安堵した三人は一息ついた。良くわからないが記録もされているらしい。
「てかさ、別に大丈夫だよ。きっと」
冴子は彼らに言う。あの会話をした冴子だから言えるのかもしれない。
三人は納得し冴子を見る。相変わらず冴子は「充電器忘れた」と嘆いている。
「さあ、仕事に取りかかるか」
「ねえ、アタシなにしたらいい? てか充電器貸してくれない? もう残り一パーセ――
※
――ントなんだけど……あ、切れた。あれ?」
冴子が見回すと見慣れた自室にいた。見慣れたベッド、見慣れた間取り、そして充電の切れた携帯電話。
「えー……、まじ? 立ちながら夢見てた? やば……」
とりあえず、と冴子は携帯の充電ケーブルを探す。
「え? てか、バイト! 応援! 今何時?」
冴子は「ヤバい!」と叫び携行充電器を持つと慌てて部屋を飛び出した。
冴子の右腕にある革のブレスレットの小さな石がキラリと光った。
ギャル、異国の姫になりまして。 鳳濫觴 @ransho_o
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