第29話 地獄の新生活

 拳たち一行は、キーユが用意した今は使われていないという親衛隊の施設にやって来た。

 その施設は元々、親衛隊の寮として使われていた物であり、平和が続いたゴーラ国では徐々に親衛隊の数が減っていき、現在、親衛隊が使っているもう一つの寮で事足りているという。


「おぉ〜立派な建物じゃな〜」


「そっちは室内訓練場だ、集会の時などに使うといい」


「ほぉ〜体育館の様なものか……」


「体育館?」


「いや、コッチの話じゃ案内を続けてくれや」


「そうか、では寮の中を案内しよう」


 拳たち一行はキーユの案内の元、寮の中に入って行った。

 

「ここが大広間だ、幹部会議にでも使うがいい」


「綺麗にしとるんじゃな、タバコの吸い殻が一本も落ちとらん」


「そんなもん床に捨てるか! ちゃんと喫煙所が別にある、タバコはそこで吸ってくれ」


「わ、分かったわい……」


「次は、生活する部屋を案内しよう」


 拳たち一行は居住スペースへと向かった。

 

「ベッドとクローゼット、あとは簡単な料理ならできるキッチンぐらいしかないがな」


「べっど? くろーぜっと? きっちん?」


「つ、使った事がないのか?」


「文化が違うんじゃから、しょうがないじゃろ」


「そ、それは失礼した、ベッドは寝るところ、クローゼットは衣服を仕舞うところ、キッチンというのは……」


「料理っちゅうんじゃから台所じゃろ? まぁ分かったわい、後は使いながら慣れればええ、何人部屋じゃい?」


「一部屋、6人だ」


「そうか、鬼嶋」


「なんじゃい?」


「今までは喧嘩相手じゃっだが、これからは一致団結せなあかんからのぉ、部屋は獄門と髑髏ヶ峰の合同で振り分けようと思うんじゃが」


「……そうじゃな、ワシもその方がええと思う」


「一通り案内はこんな所だ、分からない事があったら聞いてくれ」


「そうか、じゃあ質問ええかの?」


「ワシら、ここの通貨を持っとらんのじゃが……」


「拳たちは、我々ゴーラ国が頼んだ傭兵だ食料や医療、その他、欲しいものがあれば出来る限り支給するつもりだ、とりあえず今必要な物を聞いておくが何かあるかな?」


「タバコ!」「タバコ!」「ヤニ!」「モク!」「タバコ!」


「ウッ……タバコだけでいいのか?」


「あぁ! とりあえず、あるだけ持ってきてくれや」


「わ、分かった」


「出来るだけ早く頼む! あっ! あと酒も……う〜ん……五升ほど」


「分かった、分かった」


 こうして、キーユは拳たちを寮に残して、その場を後にした。


「ヨーシ! 今から部屋割りじゃ! 獄門高校の生徒はワシの前に一列に並べや」


『押忍!』


「髑髏ヶ峰高校はワシの前に並べや」


『押忍!』


 獄門高校の生徒は、拳を先頭に一列に並び、髑髏ヶ峰高校の生徒は鬼嶋を先頭に一列に並び、そして、互いの高校同士が向かい合う形になった。


「獄門高校の生徒、前から三人、一歩前に出ろ」


「「「押忍!」」」


「髑髏ヶ峰高校の生徒も同じ様に三人、一歩前に出ろ」


「「「押忍!」」」


「お前ら六人が同じ部屋の同居人じゃ、日本にいる時は獄門高校と髑髏ヶ峰高校は喧嘩相手じゃったが、ここでは、一致団結をして同じ敵を倒さにゃならん、とりあえずお互い握手せぇ」


「「「……押忍」」」


「文句あるんか!」 


「「「押忍!」」」


 獄門の生徒は気が進まない面持ちで渋々、拳の指示に従ったのだが……

 

「おい、髑髏ヶ峰の方もやらんかい」

 

「なんで、ワシら髑髏ヶ峰の人間がオドレの指示に従わにゃならんのじゃ」


「……まぁ、そんな事言わんとここは一つ頼むわ」


 挑発の様にも取れる、髑髏ヶ峰の態度にいつもの拳であれば、その場で喧嘩沙汰に発展している所であるが、今は一致団結しなければならない。

 拳は両の手をグッと握り、冷静に対処しようと心掛けた。


「総番! こんな舐めた事言われて、なんで下から言うとるんですか!」「そうじゃ、そうじゃ!」「いつでもやっちゃるぞゴラァ!」


 しかし、そこで黙っていないのは獄門の生徒たちである。

 髑髏ヶ峰に対し、売られた喧嘩は必ず買わなければというのが、彼等の正義であり、スローガンであった。

 そんな中で一歩引いている様な態度を見せた我らが総番の姿を見て、イキリ立ってしまうのは無理からぬ事であった。


「やめんか! ゴラァァァァァァァ!!!」


「……総番……なんでじゃ?」


『…………』


「おい……」


 すると鬼嶋が、拳に対し挑発的な態度を取った髑髏ヶ峰の生徒の前に立ちはだかった。


「押忍……」


 ──ドカッ


 そして、鬼嶋はその生徒の頬をぶん殴った。


「オドレ……ワシの顔に泥塗る気かゴラァ!!! 握手したらええんじゃ!!!」 


「押忍! すんませんでしたーーー!!!」


 獄門高校の生と髑髏ヶ峰高校の六人は互いの総番の怒号に気圧され、震えた手で握手を交わした。


「それでええんじゃ……よし、お前らから手前の部屋に順番に入れや」  


「「「「「「…………」」」」」」


「返事は!!!」


「「「「「「お、押忍!」」」」」」


 こうして、喧嘩まではいかなかったものの、握手をしたままガンを飛ばし合う者、握力勝負を仕掛ける者などいたが無事に部屋割りが終了した。


「ふぅ〜〜〜……」


 ──ドカッ! バキッ! ガッシャーン!


「!?」


 皆が部屋に入って数分後にほぼ全ての部屋から、物を壊す音から人間を殴る音が聞こえてきた。


「あぁ〜あぁ〜全く先が思いやられるワイ」


「拳よ、どうするんじゃ?」


 木戸が拳に心配した面持ちで話しかけてきた。


「チッたく、しょうがないのぉ〜……ほっといたらええわい」


「ええんか?」


「とりあえず、今は思いっきり喧嘩させてお互いの腹の中を全部さらけ出させた方がええじゃろ……鬼嶋もそれでええか?」


「別に構わんわい」


「それからな、キーユが酒を持って来たらやっておきたい事があるんじゃ」


「やりたい事……」


 ──1時間後


「おーい、言われた通り酒とタバコを持って来たぞ……な、なんだこれは……」


「お〜ご苦労さん、うひょ〜こんなに持って来てくれたんか」


「拳……どういう事か説明しろ!」


「あ? あぁ〜これはじゃな……」


 ──三十分後


「……彼等の言っていた親衛隊の施設というのはここか?」


「ハッ! シーク様! 守衛の者に確認を取りました所、彼等の宿泊している施設はここでまちがいないかと」


「し、しかし……まるで廃墟ではないか……ハッ! まさか! 魔王国の襲撃が!?」


「ま、まさか!? その様な話しは聞いておりません」


「とりあえず、行ってみるぞ」


 ──廃墟となった施設内


「だ、誰かいないかーーー!!!」


「あぁ……シーク殿」


「キーユ隊長!」


 そこにいたのは、まるで虚無感に包まれた覇気のないキーユがホウキとチリトリでガラスの破片を回収していた。


「キーユ隊長……まさか、魔王国の襲撃が……」


「……いや、奴らが中で喧嘩したらしい……」


「け、喧嘩!? キーユ隊長、ここは元からこの様な施設だったのですか?」


「ハ……ハハッまさか」


(と、という事はたかが喧嘩でこの施設を……)


「か、彼等は今どこに……?」


「あぁ……隣の室内訓練所にいるよ……」


「室内訓練所?」






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