第28話 勝どきを上げよ!!!

 拳は全体を見渡せる少し小高い丘に立ち、心からの叫びを聞かせるのであった。


「今日は、ワシの我儘に付き合ってくれてホンマに心から礼を言うわい!!!」


「アホンダラ! オドレの我儘なんぞ今に始まったわけじゃなかろうが!」「そうじゃ! そうじゃ!」


「フッ……髑髏ヶ峰のもんもよう集まってくれた!」


 拳はまるで地面に額を着けるかのように深々と一礼をした。


「……もう事情は髑髏ヶ峰のもんも鬼嶋から聞いちょると思うが、これから…………戦争に行く訳である!」


『…………』


「皆の心の中にある想いは分っちょる……でも、皆はそれでも腹括って自分自身で決断をしてくれた! 何度も言うが……ホンマにありがとう! ……ちなみにな……ワシが何故、この決断に踏み込んだのか……それは勿論、目の前で助けを求めてる人間を見過ごす事が出来なかった……」


(拳さん……本当にありがとうございます……)


「ちゅうんは建前じゃ!」


(え……?)


「簡単に言えば……八つ当たりじゃ……」


(八つ当たり……?)


「日本が戦争に負けた……ワシは……それが悔しいんじゃ! ……悔しくて……悔しくて……悔しくて……この先の日本の未来を作って行くんわ、ワシら若者じゃ! ワシはこの戦争に勝って……どうじゃと、ワシらはホンマは強いんじゃと! 胸張って、これからの日本を生き抜ける! ……と思いたいんじゃ……以上! これがワシの本音と建前じゃ! オドレらもこの戦争に参加するっちゅう事は各々の中で想う事があるんじゃろう! ワシと似ちょる考えの奴! まったく違う考えの奴! 各々が各々の胸の中でオドレらなりの本音と建前っちゅうのをグッチャグッチャにかき混ぜて、この戦争にみんなで勝つんじゃ!!!」


『しゃっゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ!!!』


「やったるわい!」「大和民族〜バンザ〜イ!!!」

「ぶちのめしたるわい!」


 広場に居た者の士気は絶頂を迎え、そして、拳の隣にいた木戸が大声で音頭をとる。


「ヨッシャーーー!!! 全員! 左手を腰に当てて、右手で拳を作れ! ときの声じゃ!!!」


『おーぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


「えい! えい! おぉぉぉぉぉ!」


『えい! えい! おぉぉぉぉぉ!』


「えい! えい! おぉぉぉぉぉ!」


『えい! えい! おぉぉぉぉぉ!』


「えい! えい! おぉぉぉぉぉ!」


『えい! えい! おぉぉぉぉぉ!』


「ヨッシャ!」「とっとと行こうぜ! 体がうずいちまうわい」


「あの〜……しゅみましぇん……総番……」


 全体の空気が高揚してる中、獄卒高校の力石が手を上げ拳に質問を投げかけた。


「なんじゃい?」


「い、いしぇかいって、どこにあるんでしゅか?」


「…………」


「そういえばそうじゃ」「異世界ってワレ聞いた事あるか?」「いや〜ワシはないのぉ……」「異世界って何県にあるんじゃ?」


「そ、それは……え、えっと〜……えい! えい! おぉぉぉぉぉ!!!」


『えい! えい! おぉぉぉぉぉ!!!』


「サンディ!!!」


「あっ! はい!」


「すぐに出発じゃーーーー!!!」


「え! あっ! はい! それでは皆さんよろしくお願いしまーす」


「えっ!? うわっ! 地面が光っちょるぞ!」「な、なんだこりゃ〜〜〜!!!」「どうなっとるんじゃい!」「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」


「おい! オドレら! 大丈夫じゃ! 光の中から出るな!!! おい! サンディ! まだ異世界に行けんのか!?」


「…………」


「おい! サンディ! 聞いちょるんか!?」


「ちょっと待って下さい! 今やってますから!」


 ──シュッ


 そして、獄卒高校と髑髏ヶ峰高校ならびに、転生者、合わせて約450名の大掛かりの異世界転生に成功したのである。


「うわっ! なんじゃここは!?」「ありゃ!? さっきまで夜じゃったのに昼みたいじゃぞ!?」「なんじゃい? この建物は!? 海外みたいじゃな?」「一体何がどうなっとるんじゃ!?」「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」


「サンディ……とりあえず、泊まれる施設の様な場所はあるんか?」


「施設……ですか? えっと……」


「うちに来るか……」


「え? あっ! キーユ隊長!」


「うちには、普段、使っていない施設が何個かあるからそこを使うといい」


「キーユ隊長、ありがとうございます」


「ほうか、そんじゃまぁ案内頼もうかの……おい! オドレら……」


「キーユ隊長〜〜〜!!!」


「ん? どうした?」


 キーユの部下が遠くから、慌てた様子でこちらに走って来た。


「い、今魔王国ナンバー2のシーク魔王補佐官が大勢の部下を引き連れここゴーラ国に……」


「なに!?」


「ほぉ〜魔王国の若頭様のご入国かい……だったら挨拶しないとのぉ」


「待て拳! まだ民間人の避難が……」


「ヘッ、言っとるじゃろう……挨拶じゃ挨拶……」


「ふ、不安しかない……」


 すると、拳たちの前方から黒のマントを羽織った数百人程の集団が歩み寄って来た。


「拳さん……」


「サンディ……ワシ達はまだドンパチ起こす気はないがのぉ……やっこさんはどう出るか分からんから、とりあえずどっか離れとけや……」


「わ、分かりました……ご、ご武運を……」


 サンディは近くにあったお店に身を隠した。

 そして、魔王軍の集団が拳たちの前で静止した。


「貴様か、男虎拳という男は……」


「ヘヘッ……いかにもワシが男虎拳じゃが」


「先日、魔王国の出した使者に対し乱暴をはたらいたと聞いているが、間違いないか」


「だとしたら、どうするんじゃ?」


「……一緒に魔王国まで来てもらおう」


「なんじゃいワレ!」「ウチの大将連れてってどうするんじゃい!」「やるならここでやっちゃるワイ!」


「待たんかい!!!」


 拳は、その場を鎮める為に、獄門高校の人間を一喝した。


「アホンダラ……こんな所でおっ始めたら、カタギの方々に迷惑じゃろ! ……アンタもそれを望んでるんじゃろ? なぁ……敵方の若頭さんよぉ」


「……何故、そんな事を……」


「……前に会ったアンタんとこの連中は、自分の立場や強さをひけ散らかして相手を屈伏させる……そういったオーラの様な物を放っていたんじゃ……まぁそれがビンビンにコッチに伝わってキレちまったが……アンタからは、そういう物が感じられん……アンタ……本当はこんな事したくないんじゃないんか?」


「……フフッたいした観察眼だ」


「ヘッ……のぅ若頭とお連れの方……どうじゃ? 恐らくワシらと考えは似ているようじゃし……手ぇ組むんわ」


「……それは出来ない」


「ん? どうしてじゃ?」


「そ、それは……」


「30分、時間をやる……それまでに答え出さんかい」


 拳たちは、そういうと親衛隊の施設に向かおうときびすを返した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「心に従えや…………ワシだったら迷わんがな」


「!?」


 こうして、拳たち一行は施設に向かって行った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る