第26話 ちょっと待ったーーー!!!

 ──ゴーラ国(王室)


 今ゴーラ国では、魔王国の使者と国王並びに首脳陣による密談の中でまさしく条約交渉をしている所であった。

 しかし、その条約はゴーラ国としては、とても受け入れ難い魔王国の為だけの条約であった。


「国王、ヘヘッ……いつまで意地を張り続けるおつもりですか?」


「うぅ……うぅぅ」


「もう近隣諸国の皆さんはとっくに魔王国と条約を結んでるんですよ」


「わ、私は……貴様ら魔王国の一方的な条約を結んだ結果……近隣諸国がどんな事になったかを知っているのだ……わ、私は王として」


「そ、そうです! 国王! こんなあまりにも不公平な条約を受け入れる必要はありません」


「受けられないと?」


「そ、それは……」


「国王!」


「いいんですか? 条約を結ばなかった国が更に酷い目に遭っているという状況! 知らない訳ではないですよね〜」


「クッ……外道が……」


「国王! 優しくしているうちに決断した方が身のためだぜ!」「あぁん!」「とっととしろよー!」


 魔王国側の使者達が一斉に声を荒げ出す、すると、王室のドアの外で誰かが警備の者と揉めている声がした。


 ──ドアの外


「き、君は一体誰なんだね? ここは王室だよ? 誰かに許可をもらっているのかね?」


「あぁ? 許可? そんなもん必要なんか?」


「当然じゃないか! 無許可ではここに入れる訳にはいかないな!」


「す、すいません……ホラ拳さん、やっぱりいきなり来るのはまずかったですよ、今日の所は帰りましょう」


「あぁん? サンディがワシを頼ってきたんじゃろうが?」


「そ、それはそうですけど……」


「おぅ! 警備の兄ちゃんよぉ! 今あれじゃろう? 魔王国の使者とか言う奴と条約の交渉しちょるんじゃろがい!」


 ──王室の中


「わ、私の事か……」


 ──ドアの外


「そ、それがどうした?」


「だから、その交渉役に来たっちゅうことよ」


「な、何故君がそんな事をする必要があるのかね」


「だから、ここにいるサンディに頼まれたっちゅうとるだろうが! オドレら腰抜け共に任せられんちゅう事よ」


「け、拳さん! 私、腰抜けだなんてそこまで言ってません! 中にいる国王や首脳陣に聞こえてたらどうするんですか!?」


 ──王室の中


「………………」


 ──ドアの外


「ホレェ! とっとと通さんかい! こうしてる間にも魔王国とかいう、クソ共にいいように条約結ばれてまうぞコラ!」


「き、きみ! そんな相手を刺激するような事を言って中にいる使者に聞こえていたらどうするんだ!」


 ──王室の中


『………………』


 ──ドアの外


「じゃがしいわアホンダラ! とっとと開けんかちゅうとんのじゃ!」


「な、何をするんだ! やめなさい! おい! やめなさい!!! ガハッ!」


 ──王室の中


 ──ドッカァァァァァァン


『う、うわぁ!!!』


 警備していた兵が悲痛な声を上げた刹那に、王室のドアを勢いよくぶち破り、吹っ飛んできた。

 兵は失神しているようで、左頬には殴られた形跡が見受けられた。 


「押忍! 失礼します!」


 拳は、後ろに腕を組み深々と礼をした。


「な、なんだね君は!?」  


「おぅ! あなたが王様ですかいのぉ……」


「そ、そうだが……」


「押忍! 自分はここにいるサンディにより仲介人の依頼を受けた男虎拳ですわい」


 ──サァーーーーーーー……


 サンディの顔色がどんどん青ざめていった。


「男虎拳? ……どこかで聞いたことがある名だが……一体どこかで……あぁ! 君はこの間ラングストンと決闘した」


「おぅ、ワシをしっちょるんですか?」


 拳は笑顔で右手を国王に差し出した。


「……え? な、なにかね?」


「握手」


「え、あ、あぁ……」


(な、なぜかこの男のペースにはまってしまう)


「国王!」


「は、はい……」


「私はあなたの味方です」


 国王は、チラッと先程恐らくこの男にぶっ飛ばされたであろう床で伸びている自分の部下を見た。


「国王!」


 ──ニカッ


「うっ……」


(怖い〜〜〜〜〜〜〜〜〜)


「な、なんなんだ君は!」


「あぁん! 人にものを聞くときはよぉ……オドレから名乗らんかい! ボケェ!!!」


「わ、私は魔王様……ダモクレス様の使いのイゴールという者だ!」


「ワシの名は男虎拳じゃい!」


「お、おのとら? ど、どこの誰だかは知らんが貴様はここの国の者ではないのだろう! 部外者は直ちにこの場から立ち去りなさい!」


「あぁん? だから言っとるじゃろうが? ワシはここにいるサンディから代理人としてここにきたんじゃボケェ!」


「だ、代理人? ば、馬鹿な! 第一そのサンディという娘もただの平民じゃないか!? そんな人間が立てた代理人など……」


「ごちゃごちゃ、じゃがわしいわアホンダラ! いいからその条約の用紙を見せんかい!」


「き、貴様なぞに見せる道理はない!」


「なんでじゃ? 見られたらマズいんか? お天道様に胸張れるような条約じゃないんか? 後めたいもんがあるんか? 国王! ええ、ええ、結ばんでええこんなもん」


「な、なにを言って……」


「国王……腹括らんね……」


「貴様! 勝手なマネは許さんぞ!」


 拳はゆっくりとイゴールの方に顔を向き、そして、歩み寄っていった。


「な、なんだ!? 何をする気だ!」


「じゃがわしいわーーー!!!」


 ──ボッコーーーーーン


「あぎゃ!!!」


『う、うわーーーー』


「て、テメェ! 魔王国の人間に手ぇ出したなぁ!」


「おぅ、それがどうしたんじゃい!」


「ば、馬鹿な奴だ……俺たちに逆らった奴らがどういう事になるか……」


「ヘッそんなもん知るか」


「グッ国王! アンタも覚えておけよ〜」


「えっ!? わ、私はなにも……」


「男虎拳! お前の顔を覚えたからな!」


「おぅ! 絶対忘れるなや! でもまぁ……ワシはオドレの顔なんざすぐ忘れちゃるけどな」


「チッ行くぞ!」


 魔王国の使者たちは、のびたイゴールを担ぎ上げながら退散していった。


「男虎拳!」


「ん?」


「大変な事をしてくれたな!」


 護衛の兵を殴り飛ばし、そして今、誰もが恐れる魔王国の使者をぶん殴り気絶させた。

 大臣の一人が拳に怒りを表すのも当然の事であった。


「大変な事?」


「この状況を見てよくそんな事を言えるな!」


「別に同じ事じゃろ?」


「……同じ事?」


「だって、戦うんじゃから」


「…………え?」


 ──魔王国


「勇者でもない、ただの人間にそこまでされて帰って来たといわけか……」


「は、はい……」


「この魔王国の面汚しめが〜〜〜〜〜!!!」


「ひ、ひぃぃぃぃ、も、申し訳ないありません!」


「フン……シーク! その男虎拳という魔王国に逆らう馬鹿な人間はお前が処理しろ」


「………………はっ」




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