第25話 サンディ……涙の説得

「ヨシ! 右から順に自己紹介していけや」


「押忍! それでは、自分から自己紹介をさせていただきます!」


 木戸の号令で一人の男が前に出た。


「押忍! 自分は第二戦慄中学出身の前田喜三郎と申します! 中学では戦慄中の狂虎きょうこと呼ばれていました! 本日は皆さんに自分からお土産をご用意させて頂きました! 押忍!」


「ほ〜ぅ、なんじゃ土産ちゅんは」


 すると、前田は用意していた紙袋から三箱のタバコを取り出した。


「おぅ! タバコじゃないけぇ!」 「一週間ぶりじゃわい」「ピースじゃ! ピース!」


「前田! わかっとるのぉ〜」


「ヘッへへ押忍!」


「じゃあ、さっそく一本貰おうかのぉ」


 拳は缶の中から一本拝借しタバコを口に持っていき、それに反応して前田が懐にあったマッチで、拳のタバコに火をつけた。


「スゥーーープハァーーーたまらんのぉ」


(きょ、教室で堂々と……)


「ヨシ! 次!」


「押忍! 自分は鬼哭きこく東中学出身の山本大鉄と申します! 中学では鬼哭の酒呑童子と呼ばれていました! 押忍!」


「ほ〜ぅ、酒呑童子っちゅう事は結構飲めるんか?」


「押忍! 自分酒には目がありません」


「どのくらい飲むんじゃ?」


「押忍、日本酒を毎日二升程」


「ヘ〜ぇ……今度飲み比べでもするかのぉ」


「押忍! 是非お願いします!」


(こ、ここにいる人達は、みんな未成年よね……)


「ヨシ! 次!」


「おっしゅ……ひぶんらぁ……毒蝮ちゅうひゃくしゅっしんの……力石一男でしゅ……」


「おい! ちょっと待て!」


「ひゃい?」


 拳は力石という男の異様な雰囲気を見て、咄嗟に質問をぶつけてみた。


「おい……口の中見せてみぃや」


「へ? くちの中でしゅか?」


 力石という男が人差し指で、口を左右に引っ張り大きく口を開けた。


「ウッ……」


 口の中を見たサンディは思わず声を漏らしてしまった。


「ワレ……歯ぁ〜ボロボロやないけぇ……」


「ヘッヘヘッどうもでしゅ」


「まさか……シャブじゃないじゃろな?」


「いや〜シンナーでしゅ」


「シンナー!? どんだけずっとんじゃ!?」


「えっと〜……戦前からだから……」


「戦前!? 戦前いうたらワレいくつじゃ?」


「ん〜と〜……五歳でしゅ」


「おぉ……だいぶ年季が入っとるの……」


「ひぶん、家業がペンキ屋でしゅ……」


「それでか……おい、言っといたるがのぉ……獄門高校ではシャブはもちろんポンもシンナーも禁止じゃからのぉ……」


「ほ、ほんとでしゅか!?」


「おぅ本当じゃ……ええか? ワシに隠れてやっちょったらワレ半殺しにしちゃるからのぉ……」


「ひぇ〜〜〜〜〜……」


「ハッハハハハハハ……それが嫌っ言うんやったら今すぐ辞めるこっちゃ……ヨシ! 次いかんかい」


「押忍!」


「?」


 最後の新入生が前に出た、その新入生はジッと拳の目を鋭い目つきで凝視していた。

 しかし、その目つきは敵意のそれではなく、忠誠心の表れに取れた。


「自分は修羅中学出身! 小野田誠一と申します! 自分は獄門高校総番のお役に立てるよう精進していく次第でありますので、まだまだ未熟者ゆえ、先輩方のご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します、押忍!」


「ほう……この中で一番ええ顔しとるじゃない、のぉ拳」


「…………小野田言うたか?」


「押忍!」


「ワレ……どっかで会ったか?」


「………………いえ」


 力石は目線を一瞬目線を外し、そしてもう一度拳の目を真っ直ぐ見て答えた。


「ほうか……ヨシ! おどれら!!!」


「「「「押忍!!!」」」」


「おどれらは、中学の時にはどんだけブイブイ言わせとったかは知らんがの! 新入生は全員ゴミ以下じゃと思えや!」


「「「「押忍!!!」」」」


「ただしのぉ……その扱いが気に食わんじゃったら、いつでもワシに喧嘩吹っかけてこいや! ワシは威勢のある奴が大好きじゃ」


「「「「押忍!!!」」」」


「ヨッシャ! 新入生全員! 大股ひらけ!」


 ──ビシッ


「歯ぁ〜食いしばれい!!!」


「「「「押忍!!!」」」」


「気合い注入じゃい!」


 ──バチン、バチン、バチン、バチン


「「「「押忍! ありがとうございます!」」」」


(えっ!? 何でここでビンタ? 何でお礼をいっているの!?)


「ヨシ! 新入生挨拶閉幕! 解散!」


「「「「押忍! 失礼します!」」」」


 新入生たちは、拳並びに他の上級生たちに一礼をし、拳の教室を後にした。


「よ〜しサンディ、ワシらも場所かけるかのぉ」


「え!?」


「大事な話があるのと違うか」


「そ、そうですね……場所を変えてもらった方がいいのかもしれません」


 拳とサンディは二人で教室を出て校舎裏に移動した。


「ちょっと汚い所で悪いがの」


「い、いえ全然気にしませんので……ハハハ」


(辺り一面に広がるタバコの吸い殻は、全部ここの生徒が吸ったものかしら……)


「おぅ、所でなんじゃい話っつうのは」


「は、はい……実は…………拳さん! お願いします! 再びゴーラ国に転生して私達を助けて下さい」


「はっ!? どう言う事じゃい?」


「………………」


「け、喧嘩ならいつでもやってもええがのぉ……」


「……喧嘩で治まればいいのですが……」


「あぁ? なんじゃい歯に物が挟まったような言い方しおって、はっきり言わんかいはっきりと」


「す、すみません……実は戦争になりそうなんです」


「!? せ、戦争じゃと……」


「まだ、そうなるとは決まった訳ではないのですが」


「……もう少し詳しく聞かせてくれんか?」


「はい……実はゴーラ国、並びに近隣諸国はここ百年程は戦争もなく平和に過ごして来ました、しかし、先日その近隣諸国で最も力を持っている魔王国の魔王がお亡くなりになりました、そして、その魔王の長兄ダモクレスが魔王国の実権を握り、いままでの魔王国の政治方針をガラリと変え、武力を持って近隣諸国に対し、とても平等とは言い難い乱暴な条約を次々に結んでいきました」


「……その近隣諸国っちゅんは納得しとるんか?」


「ま、まさか! 納得している訳がないじゃないですか」


「じゃあなんで戦わんのじゃ!」


「……戦ったって勝てる訳がない……それぐらい魔王国は絶対的な力を持っているのです……」


「座して死を待つちゅうんか!」


「…………お願いします! 外部の人間である拳さんにこんな事頼むのはお門違いというのは分かっています! でも……でも……どうか……」


 悲鳴にも似た懇願だった……目には薄っすらと涙を滲ませ、こんなにも自分に縋るような弱々しい姿を見たのは初めてであった。


「…………二つ返事で分かったとは言えんが、ちょっと様子を見るくらいじゃったら……」


「……ありがとうございます」


 こうして拳はゴーラ国に偵察する事にした。


 ──ゴーラ国


「ふ〜ん……まだ魔王国っちゅう奴らの影響は出とらんみたいじゃな」


「サンディお姉さま〜」


「ん?」


「マキ? どうしたの?」


「い、今ゴーラ国に魔王国の使いの者が」


「え!?」


「ヘッそりゃ〜話が早くてえぇのぉ〜」























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