第24話 サンディ、獄門高校へ……

 ──カランコロンカラン


「あぁ〜すまないがサンディはいるかな?」


「キーユ隊長?」


「やぁ」


「キーユ隊長、何かご用ですか?」


「うん……実はサンディに頼み事があるんだが……」


「?」


 サンディとキーユはテーブルに着き、キーユは改めてサンディに頼み事を切り出した。


「サンディ……魔王軍の事は知っているかな?」


「はい、もちろんです、何でも先代魔王の長兄である過激派のダモクレスが、現魔王を継承されたと……」


「そうだ……先代魔王の政治に批判的だったダモクレスは力による征服を目論んでいる、実際近隣の諸国は自分達の国に対してとても平等とは言い難い、条約を押し付けられているらしいのだが、長く平和を維持してきた代償……と言っていいのか分からないが……皆、牙を失ってしまい闘うという選択肢がないまま涙を飲んで受け入れてしまっている」


「……悲しい事です……」


「しかし、ここゴーラ国もいずれダモクレスの魔の手が迫ってくる事だろう……対岸の火事だと、何もしない訳にはいかないのだ」


「お、おしゃっている事は分かりますが……それと私に頼み事と何か関係があるのですか?」


「……言っただろう、対岸の火事ではないと、もし、ゴーラ国にダモクレスが侵攻してきた時、我々自警団の戦力では、まるで話にはならないし、国民の何割が立ち上がってくれるのか……」


「……キーユ隊長! 私も聖職者です、人々が苦しむかも知れない状況を黙って見ている事は出来ません、私にできる事があれば何でも言ってください!」


「……ありがとう……そう言って貰えるとこちらとしても頼み事を切り出しやすい……」


「……先程からおっしゃっているその頼み事というのは?」


「……実はな、その魔王軍にぶつけてみたい者達がいるのだ……」


「……ぶつけてみたい者達?」


「……だがそれは、いわば外部の人間で少々心苦しいのだが……」


「外部の人間? ……まさか!?」


「……君もあそこの世界に行って見てきたろ? あの恐れ知らずのバイタリティ、タフネスさ、強靭な精神性、そして、良くも悪くも魔族すら凌ぐ凶暴性、魔王軍に対抗できるのは彼等しか……」


「……私に頼み事というのは、まさか……」


 ──コクン


「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」


 次の日、サンディは拳の世界に訪問する事になった。


(はぁ〜……気が重い……)


 ──シュッ


(と、着いたわ……えっと〜位置的にはこの辺が拳さんのいる所なのだけれど……)


「おぅ! 行ってくるわ! ……ん?」


「ん? あっ……」


 拳の声がしたと思いサンディが振り向くと、木造建てのバラック小屋から出てくる拳の姿があった。


「お〜サンディじゃないの? どうしたんじゃ? 観光か? この辺は観光地と違うど」


「い、いえ、あの……実はですね、拳さんにお話がありまして……その……」


(ん? あっ! そうじゃ!)


「サンディ! 観光じゃったらワシの高校にこいや!」


「え!? いえ、だから観光ではなく、わ、私は拳さんにお話が……」


「ええからええから」


「ち、ちょっと待っ、拳さん〜〜〜〜」


 拳は戸惑っているサンディを無視し、半ば強引に手を引っ張りサンディを自分の通う獄門高校に連れて行ってしまった。


「お〜う、ここじゃ、ここがワシが通っている高校じゃあ」


「…………高校って学舎まなびやの事ですよね?」


「おぅそうじゃ! 当たり前じゃろが?」


「こ……ここが学舎なんですか……」


 サンディの目の前には、禍々まがまがしい雰囲気を漂わせた建造物がそこに立っていた。

 建造物の周りには金網と有刺鉄線が張り巡らされ、よく見てみると、そこには所々に血痕のようなものが付着し、建造物の窓ガラスはそのほとんどが割られ、壁には「殺」「死」「呪」などの夥しい数の落書きが書かれており、無論この世界の文字が分からぬサンディにもその文字の意味する事が良い意味では無い事を十分に感じていた。


「まぁ入ってくれや、話は中で聞いちゃるわい」


「え!? あ、はい……」


 ──廊下


「オザッス!」「オザッス!」「オザッス!」「オザッス!」「オザッス!」「オザッス!」


 拳が通るたびに、前を歩いていた生徒たちが壁際に寄り、手を後ろに組みながら深々と頭を下げて腹の底から声を張り上げ挨拶をしてきた。


「す、すごい……ですね」


「おぅ! ここがワシのクラスじゃ」


 ──ガラガラ


「新入生! 整列〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


「!? な、なにが始まるんですか?」


「押忍! 僭越ながら先程、木戸辰巳副番長より本日の新入生代表挨拶の指揮を任されました! 第二戦慄中学出身の前田喜三郎と申します! それでは我が獄門高校総番長! 男虎拳総番長に挨拶をさせていただきます! スゥーおはようございます!!!」


「「「「おはようございます!!!」」」」


 前田喜三郎の号令により一糸乱れぬ挨拶が拳に向けられた。


(す、凄い迫力と統制……)


「おい……」


「押忍!」


 ──ボッコーーーーーン


「グハッ」


(え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


「アホンダラ!!! 総番が椅子に座ってからだろうが!!!」


「お、押忍! し、失礼しましたーーーー」


(え!? 何で? 何であの人殴られたの……?)


「木戸……まぁ新入生じゃ……最初は大目に見たれや……」


「拳……こういう事は最初が肝心じゃ」


「ヘヘッおっかないのぉ〜」


(ヘヘッて笑ってる拳さんも……)


 拳は教室全体を見渡すように壁際に置いてある椅子に腰掛けた。


「おぅ、よぉ見たら異世界の姉ちゃんじゃないけ」


「ど、どうも……」


「おぅ、なんでかわからんが家の前におったから連れて来たんじゃ」


「か、かわいい……」「おい……見てみぃ……金髪じゃぞ」「総番のスケかのぉ……?」「異世界ちゅんはアメリカの事かいのぉ……」


 新入生達がヒソヒソとざわめき出した。

 テレビもないこの時代である、金髪の美少女を生涯で一度も見たことはないというのは普通であったこの時代。

 思春期真っ只の男子達には横に連れているという事は衝撃的であった。


「ゴラァ!!! 誰が口開けいうたんじゃ!!!」


「「「「押忍!」」」」


「おい拳……何で連れて来たんじゃ……」


「まぁまぁ……金髪のスケが横におったら箔がつくじゃろう……」


「別にオドレのスケじゃないじゃろうが……まぁそんな事じゃろうと思ったわい……」


 木戸も拳の思惑を察して、新入生達にバレないように小さな声で話しかけた。


「前田!!!」


 ──ボコーーーーーン


「ガハッ」


「何ボケッとしとるんじゃい! 客人に椅子出さんかい!」


「お、押忍!」


 前田は急いでサンディに椅子を用意した。


「姉さん! どうぞ!」


「あ、姉さん? えっあっあっど、どうも……」


「よっしゃーーーそれじゃあ一人ずつ自己紹介せいや」


「「「「押忍!!!」」」」


「け、拳さん……これは何の儀式なんですか……」


 サンディは恐る恐る拳に聞いてみた。


「ん? ただの新入生挨拶じゃが? サンディの世界ではやらんのか?」


「た、ただの新入生挨拶……?」










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