第22話 闘いを終えて……
ラングストンの渾身の一撃が繰り出され、会場中に轟音が響き渡った。
「おっと……」
流石の拳もラングストンの全てを乗せた拳を受け、一瞬足元がよろけてしまった。
「クゥーーー……効いたわい、ハッハハ」
「それでも、笑っていられるのだから……君はやっぱり化け物だな……」
「いや〜……こう見えても立っとるのが精一杯じゃ」
「フフフ……とてもそんな風には見えないがな」
「ハッハハハ!」
「……悔しいがなんなだか清々しい気分だ……心に風が通ったような……」
「……ほうか」
「拳……ビックリするかも知れないが僕は本当は勇者にはなりたくはないんだ……」
「え!? 今聞いたか?」「ウッソだろ? いつも自分は天才だと鼻にかけてたラングストンが?」
ラングストンの告白に会場中が少しどよめいた。
「え!? そうだったの? ラングストン……」
「若様が……」
「そんなもんワシは初めから分っちょったよ」
「え!? 初めからって……」
「あの居酒屋の時よ……」
「フフフ……こ、こんな事を言うのはあれだが……僕は悟られないように振る舞っていたのだが……何故分かったのか良かったら理由を聞かせてくれるかい?」
「ハッハハハ! あんなもん第一印象ですぐ分かったわい」
「え!?」
「本当に自信のある奴は……あんな風に己が天才だと周りに対して鼻にかけたりせんわい、あれは周りが自分を天才だと思ってもらいたい、思ってもらわにゃ自分が押しつぶされそうになる、違うか?」
「ウッ……怖かったんだ……僕は弱い男さ……」
「ハッハハハ……人間はみんな怖がりじゃ」
「おい! いつまで話してんだ!」「俺たちは闘いを見に来たんだぞ!」「さっさと再開しろ!」
「じゃがわしいわコラァ! 文句があるんやったら降りてこいやコラァ! いつでもやったんぞボケェ!」
「ヒィ! あんな和やかに笑ってたのに……」
拳はふとあの時の父親の震えた背中を思い出していた。
死への恐怖、残された家族に対する不安……しかし
「でもな……ラングストン」
「?」
「出来るだけ見せるな……それが男ぞ」
「……そうだな、僕は勇者の前に男だったんだ」
「それとな……粋がるにせよ相手選ばんかい……あんな気のいい居酒屋の女将さんや……か弱いサンディみたいな女に粋がったってしょうがないじゃろ」
「ウッ……耳が痛いな……」
「でも、今本音言えたじゃろうが……」
「本音?」
「勇者……別にやりたくないんじゃろ?」
「……」
「今の喧嘩でオドレの背負ってるもん、ぜ〜んぶ取っ払えたっちゅう事よ」
「……」
「もうどうでもええじゃろ?」
「……あぁどうでもいいな」
「プッ! ハッハハハハハハ」
「ハッハハハハハハ…………拳、実は僕……」
──バタンッ
「拳? 拳!!!」
「あぁ! け、拳さん!!!」
「タンカだ! 早く!」
拳はマリオネットの糸が突然パツンッと切れたかの様に前のめりに倒れてしまった。
(うぅ……頭がガンガンするのぉ……ん?)
「目が覚めたみたいね……」
「……ん? アンタ誰じゃい?」
拳が
すると目の前には、美しい黒髪をなびかせ白衣を着た妖艶な女性が椅子に座り、外に植えてある、日本の桜に似た木を遠くに眺めていた。
「あ、あの……」
「やぁ……気がついたんだね」
「……お姉さんは?」
「私? 私は今日ドクターとして呼ばれたクリスと言う者だ……よろしく」
「あ、はぁ……どうも」
「君とラングストンの決闘……見させてもらったよ」
「え? あ、ハハ……」
「凄いじゃないか……あのラングストンにあそこまで闘えるなんて」
「え!? ……グヒヒヒヒヒ……お、お姉さんカッコよかったですかい? ワシ?」
「あぁ……カッコよかったよ」
「シャッアーーーーー!」
拳は思わずガッツポーズを取り喜びを表した。
「と、言いたいところだが……」
「ん?」
「あんな無茶な真似する男は大っ嫌いだ!」
「ファッ!」
「いいかい? 君はここに運ばれて来た時、顔は通常の3倍以上に腫れ上がり、四十度の高熱にうなされ、肋骨は全てグシャグシャ、内臓も破裂していたんだよ君は!」
「ハァ〜……」
「しかも君はわざとラングストンに殴らせてたじゃないか?」
「あん時は……あぁするのがワシの中で一番じゃったかなと思って……ヘッヘヘ」
「私はね……命や体を大切にしない奴は大嫌いだ!」
(……嫌われてしまったかのぉ……しかし、心配してくれたっちゅう事は……もしかして脈あり!)
「し、しかし今は、治ってるみたいじゃけど……」
「それはこの天才である治癒魔導士クリス様が治療したからだよ」
「はぁ……よく分からんけど……そんな重傷じゃったらワシは何日ここに居たんじゃ?」
「何日? ハハッ約三時間さ」
「三時間!?」
「ちなみに治療に掛かった時間はざっと一時間といったところかな」
「…………」
「驚いたかね? これが治癒能力というものさ」
「へ、へぇ〜お姉さんは凄いのぉ〜」
「まぁね」
「いやぁ〜お姉さんみたいな人が、いつもそばにいてくれれば、ワシはいくらでも無茶出来るのぉ〜」
「……君は私の話を聞いてたのかね? それとも私を怒らせたいのかね?」
「へ?」
その後、一応クリスの能力で異常がないか検査をした後、サンディと鬼嶋達がギルドに移動したというので拳も向かう事にした。
「お姉さん、このあと暇かのぉ?」
「何でだい?」
「暇なら一緒に行かんかい?」
「フフフ……悪いね、私はこの後も仕事があるからね」
「そっか……残念じゃのぉ〜」
「フフフ……君とはまたどこかで会えそうな気がするよ」
「え!? ホンマけ!? 絶対会えるかのぉ!」
「ま、まぁその時が来たらまたね」
「ひゃっほーーーーーい!!!」
拳は気がするという不確かな言葉に上機嫌になり足取りも軽くギルドへむかった。
「オッス!」
「拳さん! 良かった〜元気になったんですね」
「おうよ! この通りピンピンじゃい!」
「拳よ〜」「拳!」「「番長お疲れ様です!」」
「おぅ! 見たか! ワシの有志を!」
「ケッ何が有志じゃい……死にはぐったくせによ〜」
「何じゃと!? 鬼嶋〜〜〜〜!」
「おぅ! やるかコラ!」
「おぅ! やれやれ!」「やっちゃれ番長!」「ピィィィィィィィィィィ!!!」
「ち、チョット二人とも……」
すると、奥の方からニンニクの様な食欲のそそる、スパイシーな匂いが拳たちの鼻を刺激した。
「ホラ、皆さん! 今日はマスターからの奢りですので沢山召し上がってくださいね」
「え!? 大将? ホンマけ?」
「あぁ好きなだけ食べて行きなさい」
(フフフ……実は裏でコッソリ拳くんをウチのギルドに登録しておいたお陰でボディック家からファイトマネーがたんまり貰えたからね……それに、ここで暴れたら困るしね)
こうして、宴会が始まり、最終的には四人の中で誰が一番喧嘩が強いかで盛り上がり、店の中がメチャクチャになり宴の幕が降りた。
──魔王国
「残念ながら……魔王様、ご臨終でございます」
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