第21話 素っ裸になれ!
──ボコッ
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「…………」
ラングストンが無防備な拳を一方的に殴り続け、既に10分以上が経過しようとしていた。
「おいおい……あの異世界人もう10分以上も殴られてるぜ……」「こ、これって決闘なのか?」「もういいわよ! もう見たくないわ」
「ア、アンタ達……アイツの友達なんでしょ? こ、こんな馬鹿な事早く止めなさいよ」
「何でじゃ?」
「な、何でって? あの男あのままじゃ死んじゃうじゃないの!」
「心配しとんのか? フフッ意外と優しいんじゃなぁ……」
「フ、フン……あの男が死んだらサンディお姉さまが少〜しだけ悲しむのが嫌なだけよ」
「フン……そうか、しかしワシらが止める義理も権利もないわい」
「何でそうなるのよ……」
「あの闘いは拳の野郎が決めた事じゃ……男が死ぬかもしれん闘いを自ら選んだんじゃ……だったら外野がどうこうするんは野暮っちゅう事よ……ワシらがやる事はただ黙って見守る! それだけじゃ……」
「ハァ? やっぱり野蛮人の思考はやっぱり私には分からないわ……」
「ハァ……ハァ……ハァ……ば、化け物め〜」
拳の顔は腫れ上がり、目の上は紫色に変色し、衣服で見えないものの全身を内出血を起こしており、肋骨は何本も折れてはいるものの、拳は相変わらずにただ殴ってくるラングストンの目を一点に見つめ仁王立ちを決め込んでいるのであった。
「ケッ……根性なしが……」
「クッ……クソがっ!!!」
ラングストンは足元に落ちていた剣を拾い振りかぶった。
「それ使ったらワシの勝ちじゃな!」
「!? グッ……」
「どうしたんじゃ? ん? 使わんのか? 使いたかったら使ってもええぞ? ん?」
「ク、クソ〜……」
「使うんやったら使ってみんかいゴラァ! おぅ! オドレがその長ドスでワシぶった斬っりたけりゃ斬ったらええわい! ワシは逃げたりせんわい! やらんかいコラ!!!」
「クッ……クソが〜〜〜〜!!!」
──バシッ
ラングストンは手にした剣を捨て、再び拳を殴ろうとするが10分以上も連続で殴っているラングストンの拳は弱々しいものになっていた。
だが……拳に思い切りぶつかる事により、自分が背負っていた何かが軽くなっている事に不思議な感覚を覚えていた。
──バタン……
「ハァ……ハァ……ハァ……クソ……何で……何でお前は倒れないんだ……」
──グイッ
「は、離せ……な、何をする!?」
拳はラングストンの髪の毛を引っ張り無理矢理に体を引き起こした。
「立てやコラ〜」
「グッ……や、辞めろ」
「じゃがわしいわい!!!」
──ブァッチーン!!!
「グハッ!」
拳がラングストンの顔に平手打ちを喰らわせた。
「あー! アイツ! ラングストンを殴ったわよ! 自分は殴らないって言ってたじゃない!」
「そうだ! そうだ! 約束が違うぞ! お前の負けだ〜!」
拳の行動を見てすかさず、ラングストンの付き人とエレナが抗議の声を上げた。
「じゃがわしいわい! こんなんが殴ったうちに入るかボケェ! 気合いを入れてやったまでじゃい!」
「な、なんて理不尽なの……」
「オラ! 殴ってみぃや!!!」
「チ、チクショーーー!!!」
──バチン!
「なんじゃそのへっぴり腰は〜〜〜!!!」
──ブァッチーン!
「グハッ」
「オラァ……起きんかい! 本気でこんかい! 本気でーーー!」
「う、うおりゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ!!!」
──ボコーン!!!
「ウッ……フフフ……本気かそれで!!!」
──ブァッチーン!
「おぅ? 本気で来いや! クソボケがぁ……殺すぞコラァ!!!」
「う、うぉ……うぉりゃゃゃゃゃゃゃ」
──バチン
「…………」
──ボッコーン!!!
拳のラングストンに対する指導……? がどんどんエスカレートしてしまい平手打ちではなく、強めの右ストレートを喰らわしてしまった。
──バタン
拳の右ストレートを喰らったラングストンは、全身の力が一気に無くなり、崩れ落ちるように倒れてしまった。
「あぁ〜今のは完全に攻撃よ〜」
「嘘つきめ! 恥を知れ!」
(ふ、不思議だわ……確かに拳さんは能力は使っていないはずなのに……何故? どんどん元気になっているの?)
「ハァ……ハァ……ハァ……フフフフ……こ、これで俺の勝ち……」
「おいサンディ!」
「え!? あっ……はい!」
「バケツに水入れて持ってこい!」
「え!? そ、そんなの何につかうんですか?」
「いいから早よー!」
「え? チョッと……まったくもう!」
──五分後
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「…………」
「ヨイショ! ヨイショ! ……はぁ〜重かった!」
「おぅ……すまんのぉ……」
──バッシャン
「ガハァ! ……ゴホッゴホッゴホッ」
「おぅ……目ぇ覚めたか? おん?」
「ほ、本当に君は強引な奴だな……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「もう限界のようじゃな?」
「へっへへ……僕はとっくの昔に限界だよ……」
「ほうか……限界の割には動けてたじゃないけぇ」
「へっへへ……不思議だな……」
ラングストンは少し照れたようにハニカミゆっくりと立ち上がった。
「フフフ……男の顔になっとるわい」
「男の顔……?」
「ヨシ! 鼻から思いっきり息吸って口から出せ」
「スーーーーーハァーーーーー」
「もう一度じゃ」
「スーーーーーハァーーーーー」
「ヨシ! ラングストン……これで最後の一発じゃ」
「…………」
「全部じゃぞ……お前が全部背中に背負ってきたもんを、ぜーーーーーんぶワシにぶつけてみぃや!」
「…………」
──ギュッ
ラングストンが静かに拳を固めた……
「行くぞ……」
「来いやーーーーー!!!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
──
「母さん? この花なんていう花なの?」
「これはね、沈丁花というのよ」
「へぇ〜」
「匂いを嗅いでみなさい」
「うわ〜いい匂い!」
「…………ラングストン」
「ん? 何、母さん」
「お花は好き?」
「うん! 大好き! ……母さん、僕ね実は……」
「…………ゴホッゴホッ」
──バタンッ
「か、母さん! 大丈夫! しっかりして! だ、誰か! 誰か! お医者さんを呼んで! 早く!」
──ラングストンの母(寝室)
「母さん……」
「あら? ……ラングストン、お見舞いに来てくれたの?」
「……うん」
「……剣の修行は楽しい?」
「……」
「頑張ってね……あなたは立派な勇者になるんでしょ?」
「……母さん」
「ん? な〜に?」
「……実は僕、お花屋さんになりたいんだ……」
「…………」
「……ごめんなさい……」
「ラングストン……」
「……?」
「……最っっっっっっ高じゃない!」
「…………………………フフッ」
──
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「…………」
──ドッゴーーーーーーーン
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