第20話 試合放棄か!? 男虎拳!

「俺が負ける……? こんな奴に……? フッフフフ……そんなハズはない!」


「あぁん? 何をブツブツ言っとるんじゃ?」


「スゥー……ハァーーーーーー」


「?」


 ラングストンが剣を構え集中させる。すると闘技場内に再び霧がかかり始めた。


「おいおい……また訳のわからん事やっとるんか? もういい加減しろや……」


「黙れ! この化け物め! ハァーーーーーー」


 すると今度は全ての霧が段々と人型に形成されていった。


「ん? なんじゃありゃ?」


 そしてその霧は、ラングストンと瓜二つの姿になり、その数は九体程になった。


「うわ! どういう仕掛けなんじゃ?」


「仕掛けではない! 能力だ! 男虎拳! フッフフフ……この俺と同じ剣の腕前を持った人間10人を相手にこれから貴様一人で戦うのだ!」


「……ふ〜ん、理屈はよう分からんが要するに一人じゃあワシには勝てんいう事じゃな」


「クッ……だ、黙れ! 行くぞ!」


 ラングストンとラングストンの形に擬態した霧たちが一斉に拳に襲いかかってきた。しかし……


(威勢のいいわりには、相変わらずおっそいのぉ……)


 人数が増えたとは言え、スローモーションの動きに見えている拳は次々に襲いかかるラングストンの攻撃も意味はなく。

 そして、偽物のラングストン達の攻撃を次々と避けながら徐々に本物のラングストンの前に歩み寄っていった。


「ウッ……馬鹿な!?」


「どんなに敵が増えてもなぁ……まとは一人じゃい!」


 ──ズゴーーーーン


 ラングストンはまたもや、拳の右ストレートを喰らい数メートル先の壁に激突してしまった。

 すると、ラングストンの分身たちも元の霧に戻り、風に吹かれ消えてしまった。


「あ……あぁ……」


 ──ズチャ……


「どうすんじゃ……おぅ? 続けるんか? それとも負け……認めるんか?」


「ま、負け……お、俺が……この俺が?」


 ラングストンは自分の拳をグッと握り体を震わせていた。


「ふ、ふざけるな!!! き、貴様のように何も持っていない者とちがってなぁ! 俺は……俺は……負ける訳にはいかないんだ!!!」


「…………」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!」


 ラングストンは足元に落ちていた剣を拾う事も忘れ、半狂乱になりながら拳に殴りかかっていった。

 一方拳は、顔色を一切変えぬまま前で腕を組み仁王立ちの姿勢を貫かんとしていた。


 ──バゴーン! ボコーン! ズゴーン!


「おいおいなんだアイツ?」「なんで避けないんだ?」「馬鹿じゃねぇのか?」


「拳さん……」


「負ける事は許されないんだ!!!」


 ──バゴーン!


「ハァ……ハァ……ハァ……」


「もう……気ぃ済んだんか?」


「なに?」


「付き合うてやる言うとるんじゃ!」


「な、何を言って……」


「興醒めじゃ……もうオドレと喧嘩する気がなくなった……」


「興醒めだと……何故だ! 戦え!」


「喧嘩はのぉ相手がワシに本気になって闘う、だからワシも相手に対して本気になる、ワシはそんな魂と魂のぶつかる喧嘩が好きなんじゃ……」


「お、俺は本気だぞ!」


「オドレはちゃんと真っ直ぐワシを見てるんか?」


「!? ……な、何を言っているんだ?」


「ケッ……よそ見ばっかしよって……だからよ今からオドレに発破かけちゃるわい……おい! みんなちょっとタンマじゃ!」


「ど、どういう事だ!? そんな事!」


「おぅ! ロドニーの大将! もし来とるんじゃったら降りてきてくれんか?」


 拳は観客席に向かって大声で叫んだ。


「え!? わ、私?」


 観客席に座っていたロドニーが訳のわからぬまま周りの観客たちに小恥ずかしいそうにしながら、ペコペコと頭を下げつつ、闘技場の中に入ってきた。


「チョット、チョット拳くん〜勘弁してよ〜私なんか呼び出してどうしようって言うんだい?」


「悪りぃな大将……実はよ頼みてぇ事があるんよ」


「な、なんだい……? て、手短にしておくれよ」


「……出来るんやったら、ワシの能力とやらを今すぐ消してくれんか?」


「え!? そ、そんな事……」


「出来るんか?」


「い、いや〜私は君に能力を付与した契約者だから、可能ではあるが……」


「ほうか……じゃあやってくれや」


「き、貴様! け、決闘中に能力を消すだと? な、舐めているのか!?」


「じゃがぁしいわ!!! 黙っとれや!」


「け、拳くん……言っておくが今は君の能力でダメージによる痛みは感じないが……もしここで能力を消したら……」


「ヘヘッ……ワシがいいって言っとるんよ」


 拳は両手をロドニーの肩に乗せ、ニヒルに微笑みながら"これはワシの自己責任"と言うように真っ直ぐな眼で懇願した。


「……わ、分かった」


 ロドニーは拳が何を考えているのかは分からないが、拳の眼を見て、好きなようにやらせてやろうと思い、拳の額に手を当て、能力解除の儀を行なった。


「ん? 何が始まるんだ」「あの異世界人また変な事をやってるぞ」「どうした!? 早く再開しろ!」


「おぅ! もうちっと待っちょれ」


 ロドニーが手から出た光が小さくなり、やがて消えていった。


「これで、能力は解除されたよ……け、拳くん!?」


「ヌグッ! ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! フゥ〜フゥ〜フゥ〜……」


「だ、大丈夫なのかい」


「……ヘヘッありがとよ大将……何も問題ないわい」


「ほ、本当なのかい? 本当に……」


「大将……ワシの体はワシが一番良く分かっちょる」


「わ、分かった……でも無理はだめだよ」


「あいよ……」


 そして、ロドニーは拳を心配しつつ観客席に戻っていった。


「待たせたのぉ〜」


「な、何のつもりだ!?」


「言うたじゃろう、オドレに発破かけちゃるって」


「だから、一体なにをする気なんだ!」


「ワシは何もせんよ……」


「は、はぁ〜? 何もしないとはどういう事だ!」


「ラングストンよ……こっからは我慢比べじゃ……ワシは何もせんでここに突っ立っとるからよぉ……オドレはただワシを殴りゃええ」


「はぁ〜!? ど、どういう事だ! 決闘中だぞ! き、貴様何を考えているんだ!」


「ただし! ええかぁ? オドレがワシを殴るその拳に……思いの丈を全部のっけて全力でこい!」


「!?」


「オドレの怒り、悲しみ、情けなさ、全部ワシが受けきっちゃる! そして、ワシに参ったと言わせてみぃや!!!」


「……こ、後悔する事になるぞ……いいんだな!」


「男に二言はないわい!」


「……分かった、スゥ〜〜〜死ねーーー!!!」


 ──バゴーーーーーン


 無能力者の体になった拳は当然殴られた痛みは感じているはずなのだが、ラングストンの顔を一点に見つめ仁王立ちの姿勢を貫いた。


 ──クチュクチュ……ぺッ


 拳は口内の血を地面に吐き出し、顔を上げてニヤリと微笑みながら……


「……全然大した事ないのぉ」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る