第19話 逆転の狼煙!

 観客席で鬼嶋たち四人が起立し、腕を後方に組みながら胸を張り大きな声で何かを歌っている異様な光景にラングストンは一瞬攻撃の手を止めた。


「な、何なんだ? 何をやっているんだ? アイツらは?」


 ──


(あぁ……ワシの人生もここまでか……なんじゃ? 何か聞こえるど……歌!? 歌じゃ……ハハッ随分懐かしい歌じゃのう……しかし、なんだかこう……力が湧いてくるのう…………!?)


「おーい、こっちも手伝ってくれやー」「こりゃひでぇやられ様じゃ……ん? おーいこっちの材木も使えそうじゃぞ!」「あぁ……アンタ! 生きっとたんね!」


 拳は自分の最期を悟り目をつぶった。しかし、どこからか聞いたことのある懐かしい歌が響き渡り、拳は目をそっと開けるとそこには焼け野原の街を復興しようとする人々の姿があった。


(ど、どうなっとるんじゃ!?)


「拳!」


「!? おっちゃん?」


 見上げるとそこにいつも、拳や他の子供たちを、いつも気にかける大工の棟梁がいつもと変わらぬ少しイカつい顔をして、しかし、どこか暖かい笑顔で拳に話しかけてきた。


「何しちょるんじゃ? 今学校はないじゃろう?」


「が、学校?」


「ホレ! ガキ連中がウロチョロしちょったら作業の邪魔じゃ! ガキはこんな所におらんでそこら辺で遊んどればええんじゃ! まったく……」


 拳が復興の作業をよく見てみると、七〜八才ぐらいの幼馴染が大人に混じって復興の手伝いをしていた。


「まったく! あのガキ連中が! ガキはガキらしく遊んどったらええのによぉ……」


 拳はその光景を見てフッとほくそ笑んだ……


「おっちゃん……」


「なんじゃい?」


「ワシも何か手伝うわい!」


 拳は何か吹っ切れたかのようにいつもの悪ガキの笑顔を見せ、復興作業に加わった。


「たっくよ〜お前もか……グスン……馬鹿なクソガキ共が……こんなもんは大人の仕事じゃ……大人の仕事なんじゃ……」


「朝だ夜明けだ潮の息吹き〜うんと吸い込むあかがね色の〜胸に若さの漲る誇り〜海の男の艦隊勤務〜月月火水木金金」


(そうじゃ、そうじゃったわい……ワシらはあの日から歩みを止めんかったんじゃ……そうすりゃきっと)


 ──


「見ろ! なんだか霧がはれてきたぞ」


 四人の歌がきっかけで拳は徐々にラングストンの作ったトラウマを克服しつつあった。

 そして、ラングストンの剣に纏わりついていた霧の塊も小さくなっていった。


「バカな! あんな歌で俺のナイトメアカウンターが負けるはずがない!!!」


 ──


「おぅ! この瓦礫をあっち持ってけばええんか?」


「拳……」


「? ……あっ……あぁ……父ちゃん……」


 振り向くと特攻で戦死したはずの父が立っていた。


「父ちゃん!!!」


 拳の体は喜びで震え、今までの人生においての絶望や悲しみ、ありとあらゆるネガティブな感情が消え失せ大好きな父の胸に全力で飛びこんでいった。


「父ちゃん……ワシずっと会いたかんじゃ……ワシは父ちゃんが死んだ思うて……生きとったんやね! うぅ……うぅ……わーーーーーーーん!!!」


「…………元気しちょったか?」


「おぅ! いつでも元気いっぱいじゃ!」


「ほうか……じゃあもう大丈夫じゃな……」


「? 何がじゃ?」


「拳……なんか忘れとる事ないか?」 


「忘れとる事……あっそういえばワシは決闘の最中で……」


「ハッハハハ……拳、早う帰ってぶっ飛ばしちゃれ」


 拳の視界が真っ白な光に包まれた。


「父ちゃん……父ちゃん! ……ん? ここは?」


「くらえ!」


「うわっ! アレ? なんじゃい」


 拳がマルティプライフィアソードの作り出した煉獄から目覚めたとほぼ同時にラングストンが剣をふりかざし、ナイトメアカウンターを放った。


「うわ! なんなんじゃ!? グッ……ん? なんじゃ? なんともないわい」


「そ……そんなバカな!」


 すると闘技場を漂っていた霧が晴れていった。すでに己のトラウマを克服した拳にはマルティプライフィアソードの効力も意味をなさなくなっていった。


「はぁ〜!? なんで? なんでアンタたちが歌っただけであんな事になるのよ……」


「「「「…………大和魂だ!」」」」


「はぁ〜? 大和魂〜!?」


「一体ワシは何しとったんじゃ? ワシは確かにラングストンと戦っていたはず……うわっ!? な、なんじゃいこりゃ!? わしゃ何でこんなボロボロなんじゃい!」


「クッ! マルティプライフィアソードの煉獄から脱出できたぐらいでいい気になるな!」


「はっ? まるてい……ぷらい……な、何を言うとるんじゃ?」


「ええい! ナイトメアカウンターが使えずとも俺の剣は超一流なのだ! ぶった斬ってくれるわーーー」


「おぅ! なんだかよう分からんがかかってこんかい!!!」


「ぬぉぉぉぉぉぉぉ」


「シャーー……う、うわーーーー!!!」


「な、なんだ? ヒィッ!!!」


 ──バゴーン


 剣を構え迫りくるラングストンに対し、拳も前に出ようと一歩踏み出そうとしたのだが、ダメージを与えられた分だけ身体能力が強化されるという拳の能力が発揮され、拳自身もコントロールが出来ず猛スピードでラングストンに突進していき、そして、それをかわされてしまい壁に激突してしまったのである。


「な、何なんだ今のは……」


「………………」


 高速で壁に激突し、壁にめり込んだ状態のまましばらく動きを見せない拳に観客がざわめきだした。


「し、死んだのか……」「勢いよくぶつかっていったわね……」「まだ動かないぞ……」「え? これで終わり?」


「………………ダハッ」  


「うわ! い、生きてるぞ!」


「フゥ〜〜〜〜死ぬかと思ったわい」


「ば、化け物め……」


「どうした! かかってこんかい!!!」


「い……いい気になるなぁ〜!!!」


「こいや〜〜〜!?」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


「うぉ!?」「は、早い!」「嫌な奴だが、やっぱりラングストンの実力は本物だ!」


「死ね〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


(なんじゃコイツ? なんでこんなにゆっくりなんじゃ?)


 ラングストンは無論、動きが遅い分けではなく、いつも通りの体捌きでありラングストンは腐っても超一流の師範を付け、幼き頃より超一流の剣術の鍛錬をおこなってきたのである。

 むしろ一般の観客からは目にも止まらぬ速さであった。

 しかし、拳の動体視力が能力により爆発的なレベルアップを果たし拳の目にはラングストンの動きがスローモーションの動きに見えたのである。


 ──バシッ


「おどりゃ……舐めとんのか……?」


「!?」


 動きがスローモーションに見える拳はラングストンが剣を振りかざした瞬間に懐に入り込み、手首をしっかりとつかんでみせた。


「このクソボケが〜〜〜〜〜〜!!!」


 ──ボコーン!!!


「グワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 ラングストンは拳の右ストレートをくらい、闘技場の壁際から反対側の壁まで吹っ飛ばされてしまった。


「……ば、馬鹿な……許されない……俺は負けることは許されないのだ……」















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