第18話 煉獄から脱出せよ!!!

 試合開始の合図と同時に威勢よく出で行く拳。

 そして、ラングストンはニヤリと笑い背にした剣を抜き出すと、拳の目の前に濃霧が現れた。


(何じゃこりゃ!? でも……関係ないわい!)


 拳は濃霧を気に留めず、そのままラングストンに突進して行く。


「もらったーーーーー!!!」


 拳は渾身の右ストレートを繰り出した。


 ──スカッ


「ありゃ!?」


 しかし、拳の右ストレートはラングストンの体をすり抜けていった。


(……キーユの奴が使っとった超スピード? しかしそうだとすると風で霧が動くハズじゃ? ……!?)


 気づくとそこに拳が幼い頃に見た、戦前の生まれ育った故郷がそこにあった。


(ど、どうなっとるんじゃ?)


 ──キーーーーーーン


「!?」


 拳の全身に鳥肌がたった。その音は、拳が生涯で最も恐怖する死に神の鎌音かまねであった。


「な、……何で今ビィ公が飛んどるじゃあ!!!!」


 拳の脳裏にあの日の記憶が一気に溢れ出し、そして拳はその場にへたり込んでしまった。


「あっ……あぁ……」


「拳! 何やってるの! 早く走りんしゃい!!!」


 その声を聞いて拳はハッと我に帰えった。その声の主に自分の震えた手を引っ張られ、拳も何も抵抗などないままに拳も走った。走りながら拳は自分の手を引っ張る主の顔を覗き込むと……


(母ちゃん……?)


 するとラングストンの剣に霧が集まっていき、それはどんどん膨らんでいった。


「フフフ……くらえ! ナイトメアカウンター!」


 ラングストンが剣を振り下ろした瞬間その霧の塊が拳に目掛けて飛んで行った。


 ──ズザザーーーーー


「拳!? だ、大丈夫かい?」


「だ、大丈夫じゃい……」


「フフフ……男虎拳! お前は、僕の作った煉獄の中で苦しむがいい」


 拳は何とか空爆から母と防空壕へ逃げ切る事が出来たのであった。


(ハァ……ハァ……一体これはどういう事じゃ? 何でじゃ……もう終わったはずじゃろうが……)


「もう! 終わったはずじゃろうが!!!」 


「くらえ!」


 ──ドカーン……ゴゴゴゴゴ


「!?」


「拳!」


 ──ガコッ


 防空壕の天井の岩が拳の額に直撃した。


「ガハッ」


「拳! あ、頭から血が……」


「何でじゃ……何でじゃ……」


「拳!? しっかりするんよ! 拳!」


 ──


「おい拳! 何やっとるんじゃ! ボーっと突っ立とらんでとっとと攻撃せんかい!」


「フフフ……無理さ僕のマルティプライフィアソード《倍増する恐怖の剣》はターゲットのトラウマを幻惑のなかで増幅させそのマイナスエネルギーを剣に集め攻撃を加える……ハッハハハ僕の作った煉獄の中でもがき苦しめ!!!」


 ──


「あ……あぁ……」


「拳! しっかりするんよ! 拳!」


「!? か……母ちゃん?」


「しっかりしんしゃい!」


「か、母ちゃんよ〜今……今な、何年じゃ?」


「ええ!? 打ちどころが悪かったのかい? 今は昭和二十年だよ」


「!? 昭和二十年……」


 何かを察する様に母は混乱する拳をそっと抱きしめ声をかけた。


「…………拳……大丈夫やからね! 母ちゃんがついとるから」


 ──タッタタタタタ


「なんだ随分暑苦しいなぁ〜」


 拳たちがいる防空壕の中に軍服を身に纏った将校が十名程の部隊を引き連れ入ってきた。


「フ〜今からこの防空壕は我々の部隊が使用する! よってここにいる民間人は速やかに別の防空壕に移動する事!」


「そ、そんな!」「殺生な!」「まだ! 小さい子供もいるんです」


 防空壕にいた民間人が将校の命令に声を上げた。

 この当時、将校の命令は絶対の時代である、しかし、ある者は年老いた親を、またある者はまだ生まれたばかりの乳飲み子を抱えこの防空壕に避難してきた。

 皆、背に腹はかえられぬ思いであった。

 無論、拳の母も……


「ちょっと待ちんしゃい!」


 拳の母が将校の眼前に勇猛な姿勢で立ちはだかったが……その足は微かに震えている様にも見えた。


「アンタそれでも日本の軍人さんなのかい?」


「な、なんだ貴様は!」


「なんだってええでしょうが!? 軍人さんは私たち民間人を守るのが仕事じゃないのかい?」


「お前たちは敵の一人でも殺す力はあるのか? 今この時代では我々軍人の命が最も重いのである!」


「馬鹿なことを言ってんじゃないよ!!! 戦争は何を守る為に戦うんね? 国を守るためじゃ! じゃあその国はなんね……子供たちじゃ! 戦争が終わったあとにその子を守りながら育てるのはただの民間人じゃ! 敵を殺す力はいらん!」


 もう母の足は震えていなかった……


「このアマ……言わせておけば!」


 ──ビシッ


 将校が拳の母を頬を叩き、母は倒れ込んでしまった。


「キャア!!!」


「か、母ちゃん!!! この〜ぶち殺したる!!!」


 咄嗟に拳は鋭い目つきをキッと向け母を殴った将校に殴りかかった。


「フフフ……ソレもう一丁!」


 ラングストンが剣を振り下ろす。


「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!」


「フン……クソガキが!!!」


「ギャッ」


 将校は持っていた拳銃のグリップ部分で拳の頭をカチ割った。


「拳!」


 母は倒れた拳を庇う様にして抱え上げた。


「チッこんちくしょうが……あ……あぁ」


「拳!? 拳! しっかりしんしゃい! 拳!」


(い……意識が……)


「拳!!!」


 現実の拳が三度喰らいまるで眠りにつく様についに倒れてしまった。


「クックククク……ハーハッハハハ! 男虎拳! ざまぁみろ! お前が俺に恥をかかせたからだ! お前は間違えを犯したのだ! この俺は常に完璧な勇者であらねば成らぬ! この俺に恥をかかせたのだ! その報いを今、俺の作り出した煉獄で受けるがいい」


「拳さん……やっぱり無理だったんだわ……ラングストンに勝つなんて……あぁ神よ……これは拳さんを転生した私の罪です……どうか拳さんをお救い下さい」


「残念だけどさすがにラングストン相手じゃアンタたちのお仲間もこれまでね……」


「「「「…………」」」」


 ──


(ん……こ、ここはどこじゃ? 林? まさか……)


「きゃ〜〜〜やめて〜〜〜!!!」


「!?」


「Hey, be quiet! "I'll take you to heaven right now." 《おい大人しくしろ今天国へ連れてってやるぜ》」


 ──ガコッ


「Ouch!《アウチ!》……Who is it! 《だ、誰だ!》」


「フゥー……フゥー……チキショウ……チキショウが〜〜〜!!!」


「……boy? 《少年?》」


「今度こそ……今度こそ!!!」


「Yo, you did it well, you did it well 《よ、よくもやりやがったな》」


(来た! コイツはこの後ワシの手首を掴み顔面にぶち込んでくるんじゃ……だったらコイツがワシの手首を掴もうとする瞬間! !? か、体が動か……)


「さぁもうお終いか!?」


 ラングストンが大の字の拳に対し追い討ちの攻撃を加える。


「ゴフ!!! ど……どうなっとるんじゃ?」


 意識が朦朧とし、体が動かなくなった拳にゆっくりとアメリカ人が歩み寄ってきた。


(チ、チキショウまた……タコ殴りか……)


 ──カチャ


「!?」


 アメリカ人は不敵な笑みを浮かべながら、拳銃を拳の額へと当てた。


(? おかしいわい……こんな展開じゃ……)


「Good Luck 《幸運を》」


 ラングストンの剣に集まった霧は今までの十倍以上の大きさになっていた。


「フフフ……トドメだ!!!」


「「「「朝だ夜明けだ〜潮の息吹〜」」」」


「!?」


































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