第17話 決闘開始!

「あぁ……あのお兄さん達は大丈夫かねぇ……」


「フン! あの人達が勝手にやった事なんだから、お婆さまは気にする必要なんてないですよ!」


「そ、そうなのかねぇ……」


(まったく……お婆さまの為とはいえ、あんな連中に突っかかって行くなんてバッカじゃないの? ……しかもそんな時にビールなんて買う!?)


 ──数十分前


(ん? ……何でビールなんか買ってるのかしら? え? 何で私の方に指を差してるの? え? 私にくれるの? 迷惑料のつもり? フン! 当然よねあんな真似して、私まで変な目で見られたじゃない! でも私お酒飲めないのよねぇ……あっ戻ってきた! あれ? ビールを持って通りすぎちゃったわね……一体どういうつもりなのかしら?)


「あの〜すみません……」


「え!? あっ! はい! 何でしょうか?」


 鬼嶋がビールを買った売り子の女性がマキに話しかけてきた。


「先程、ビールを買われたお客様がですね……」


(ま、まさか……)


「指を差さされまして、あのネェちゃんが払うからとおっしゃってたのですが……」


(キィィィィィィィィィィ……)


 ──


(なんで! 私が! 野蛮人の! ビールを! 払わなきゃ! ならないのよーーーー!!!)


「あっあぁ……大丈夫だったのかい?」


「?」


 マキが老婆の声に反応して、通路側にフッと目線をやると……


「おぅ……ただいま〜」


「うわ!」


 そこには、服はボロボロ、髪は乱れ、腫れあがった顔をした鬼嶋たち四人が立っていた。


「お、お兄さんたち! だ、大丈夫かい!?」


「おぅ! ふぅ〜よっこらショウイチっとヘヘッ話し合いの結果、席を譲ってくれるらしいわい」


「は、話し合い?」


「ウソつけ! 何で話し合いでそんなボロボロになるのよ! ……ところでアンタ! 何で私がアンタの買ったビールを支払わなきゃなんないのよ!」


「あ〜……ありがとのぉ! だってワシ金もっちょらんから……」


「理由になってないじゃない! だったら買うな! そもそもなんであの状況でビールをかったのよ!」


「あ〜それはな……席を譲ってくれたお礼にあげたんよ」


「えぇ……何それ? 本当なの?」


「本当じゃって……なぁ!?」


 そう言いながら鬼嶋は、三人の顔を見た。


「「「プッ……クスクスクス」」」


 三人は下を向きながら吹き出し笑いをしていた。


「!?」


 ──闘技場から少し離れた林の中


「うぅ……うぅ……」


「バ、バケモンだ……」  


 ──闘技場(ラングストンの控え室)


「チッ……」


「ラ、ラングストン! 何をイライラしているの? あんな奴、本来のアナタの実力なら楽勝よ!」


「そ、そうですよ! 奴にかかされた恥を民主の前で何倍にも返してやりましょう!」


「うるさい! 僕の勝利などそんな事は分かりきっている事だ! お前らはここから出て行け!」


「「!?」」


「じ、じゃあ……ラングストン、頑張ってね……」


 エレナと付き人は、苛立ちを抑えきれないでいるラングストンを気にかけながら控え室を出た。


「クソ! 何故だ! 何故、僕は何も持っていない、あんな野蛮人に苛立っているんだ! 僕は地位や権力や金、僕の言う事を何でも聞く召使い……すべて持っているんだ! グッ……」


 ──ラングストン(幼少期)


 ボディック家の中庭で、ラングストンは両親に見守らながら剣術の稽古をしていた。


「ヤーーー!!!」


「あぁ! ……ま、参りました」


「おぉ〜凄いじゃないかラングストン!」  


「ま、まぁね……」


「ラングストン……」


「母さん!」


 ラングストンは稽古を離れて見ていたに、嬉しそうに駆け寄った。


「母さん? 起きていて大丈夫なの?」


「えぇ……今日は体調が良いからお医者様にお願いしたのよ……それにしても、その歳で凄いわ、ラングストン」


「へへへ……」


 ──ボディック家(花壇)


「母さん? この花なんていう花なの?」


「これはね、沈丁花というのよ」


「へぇ〜」


「匂いを嗅いでみなさい」


「うわ〜いい匂い!」


「…………ラングストン」 


「ん? 何、母さん」


「お花は好き?」


「うん! 大好き! ……母さん、僕ね実は……」


「…………ゴホッゴホッ」


 ──バタンッ


「か、母さん! 大丈夫! しっかりして! だ、誰か! 誰か! お医者さんを呼んで! 早く!」


 ──半年後


「かわいそうに」


「まだ、お若いのにねぇ……」


「急に体調が悪化したみたいよ……」


(母さん……)


「母さん……心配しないでくれ! ラングストンは私がこのボディック家の家督を継げれるよう立派な勇者に育ててみせる! ラングストン……父さんと一緒に頑張ろう」


「う……うん」


 ──闘技場(拳の控え室)


「サンディよぉ……露店でてたな」


「ですね」


「……なんか買ってきてくれるか?」


「えぇ!? 何で私がしかも試合前ですよ?」


「ワシ金もっちょらんし、それに腹が減っては戦はできぬちゅうしな」


「まったく……」


 サンディに食べ物を買ってきてもらい、それを食べ終えた拳はベンチに横たわりリラックスしていた。


「ふぅ〜食った食った」


「随分余裕がありますね」


「たかが喧嘩じゃろ?」


「でも先程、控え室に入って行くラングストンを見ましたが……何というか、凄い殺気でしたよ」


「ふ〜ん……喧嘩の前なんじゃからあれぐらい普通じゃろ?」


「そ、そうなんですか?」


「まぁ……奴がワシの事を敵視しちょるんはなんとなく分かるがのぉ」


「それは、拳さんがラングストンにあんな事をするからですよ」


「いや……それだけじゃないじゃろうなぁ……」


「? 他にも理由があるんですか?」


「きっと奴はワシの事が羨ましいじゃろうな……」


「羨ましい? あんなに恵まれているのにですか?」


「…………ま、そんな事はワシにはな〜〜〜んも関係ない! ワシはただ普段通りの喧嘩をするだけ! 気楽なもんじゃ」


 ──闘技場(試合会場)


「ええ〜皆様長らくお待たせ致しました。只今より、選手入場を始めたいと思います。まずは東の方角よりゴーラ国、実力No.1の勇者……ラングストン〜」


 ラングストンのコールの後に会場は大拍手に包まれた。


「何じゃ? あれが拳の対戦相手か? 凄い人気じゃのう?」


「フン! 皆んな気を使ってるんでしょ……」


「ん?」


「西の方角より異世界からの荒くれ者、男虎拳〜」


「よっしゃー! 皆んなお待たせしたのぉ〜イェーイ」


 ──シーン


「ありゃ? どうしたんじゃ? 景気良く盛り上がらんか?」


「ったく、しょうがないのぉ……おいゴラァ! 拳! みっともねぇ真似しやがったら承知せんぞ!」


「拳よ〜ワレは獄門高の代表じゃあ! 気張れよ!」


「番長! そんなオカマ野郎とっとと、ぶちのめしたれ!」


「ヒューーーーイ! 番長かっこいいっス!」


 静寂の中、四人の声だけがこだました。


「試合開始!!!」


「よっしゃーぶちのめしたらぁ!!! ん!?」


「フッフフフ……さぁ苦しむがいい……」






















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