第16話 チンピラ共! そこをどけ!!!

「おい拳よ〜ワシら海外は初めてなんじゃ、はよ案内してくれや」


「おぅ! 悪いがのぉワシは今からここで決闘をやるんじゃ」


「はぁ? 決闘?」


 ──


「ふ〜ん……そのラングストンちゅんはアホと違うか? ただの喧嘩をこんなおおごとにするなんぞ」


「多分、目的は拳さんに圧倒的に勝利して、自分の強さを民衆に知らしめたいという事と、拳さんに恥をかかせる事だと思います」


「ケッ! 逆に恥をかかせちゃるわい!」


「ふ〜ん……面白そうじゃないけぇ〜まぁせいぜい気張れよ」


 ここで拳は選手の控え室に向かい、サンディも拳の付き添いという形で同行した。

 鬼嶋たちとマキは観客席に向かったのだが、もうすでに満杯で空き席を見つけようとウロウロしているとそこに一人の老婆が立ち尽くし、あたりをキョロキョロしていた。


「お婆さまどうなさいました?」


 マキがその老婆に話しかけた。


「いや〜ね……私も早く来れば良かったんだけどね〜席が空いてなくて困ってるのよ……」


 鬼嶋が観客席にいた十人程のチンピラ集団を見つけてニヤッとほくそ笑んだ。


「婆さんよ〜チョット待っとれ」


 鬼嶋は木戸たちにアイコンタクトを取りチンピラ集団の方を見ると木戸たちも何かを察し、四人はそのチンピラ集団の方へと歩み寄った。


(え!? あの野蛮人たち何をする気なの?)


「ヘッヘヘヘ……今日は人が死ぬ所が見れるかもしれないなぁ」


「ヘヘッそうですね親分、あっしは今から興奮してきましたよ」


「ヘッヘヘヘお前ら! この試合賭けようぜ、お前らはあの異世界から来た奴に賭けろよ! 俺はラングストンに賭けるぜ」


「ええーーーー」


「親分それは無いですぜ」


「ガーハッハハハ!」


「お取り込み中すまんの」


 鬼嶋がチンピラ集団の親分らしき男に話しかけた。


「なんだテメェは!」


「俺たちを誰だと思ってんだゴラァ!」


「テメェみてぇな奴がなぁ気安く親分に話しかけていいと思ってるのか! おぉ!」


「まぁそんな凄まんといてくれや……あっちで婆さんが席に座れんで困っちょるんよ……お兄さん達がちぃ〜とばかし詰めて貰えれば婆さん一人ぐらい座れるじゃろ?」


「バカかテメェは!」


「俺たちを誰だと思って話しかけてやがるんだ!」


「チョット……アンタ達……」


 この様子を見ていたマキが、か細く震えた声で前にいる藤原に話しかけた。


「なんすか?」


「なんすかじゃないわよ! アイツ等はね、この辺じゃ有名なギャングチームなのよ!」


「ぎゃんぐちーむ?」


「スリや強盗、噂では人殺しだってやってる様な連中よ……」


「? ……あぁ愚連隊みたいな事っすか?」


「ぐ、愚連隊? なんだかよく分かんないけど、あんな連中はとにかく関わんない方がいいんだからアンタ止めてきなさいよ」


「そんな連中じゃったら益々引きたくないっすね! まぁ雰囲気でそんなような奴等じゃないかなちゅうんは薄々分かるっすけどのぉ……鬼嶋もそれを見越して奴等に吹っかけにいったんじゃないっすか?」


「はぁ〜アンタ達バッカじゃないの?」


「いい加減にしろやゴラァ!!!」


 マキと藤原が話してる時にも当然、鬼嶋も、相手のギャング達も一歩も引かず、遂にギャングのリーダー格の大柄の男がバッと立ち上がり鬼嶋の胸ぐらを掴みながら見下ろしていた。


「しつけぇんだよ……このボケが……ペッ……」


 ──ピチャ


「ヒーヒャッヒャッヒャッヒャ」


「きったね〜」


 リーダー格の男が鬼嶋の頬に唾を吐きかけた。

 鬼嶋は目を逸らさず微動だにせぬまま会話を続けた。


「いや〜お兄さんよぉ……ワシら全員分の席を空けてくれ言うとるんじゃないんよ……婆さん一人分でえぇ言うとるんよ……アンタこの連中の親分なんじゃろうが? 黙ってやってくれりゃアンタの株も上がる思うがのぉ……」


「そんな株なんざいらねぇよ! とっとと失せろ!」


「……やさしゅ言ってるうちにどいてくれや……」


「なんだ〜!? いい加減にしねぇとぶっ殺すぞ!」


 鬼嶋なリーダー格の男が啖呵を切った瞬間に胸ぐらを掴んでいた手をバッと振り払い、今度は鬼嶋がリーダー格の男の胸ぐらを掴み鼻先が触れる程までグイッと引き寄せ鋭い眼光を放ち……


「上等じゃ……クソボケが……」


「!?」


 鬼嶋の一言に座っていたギャングの下っ端達も立ち上がり怒声をあげる


「テメェ!!!」


「誰に喧嘩売ってんのか分かってんだろうな!」


 この状況に周りにいた一般市民もどよめきたった。


「おい……喧嘩だよ……」


「うわぁ……アイツらここら辺で今一番凶悪だって言われてるギャング集団じゃないか……」


「じ、じゃあそんな奴に喧嘩売ってるアイツらはどこのどいつだよ?」


「ん? なんだあの服装は?」


「あぁ……多分この辺の者じゃなく、どこかの田舎者が何も知らないで……可哀想に」


「で、でもよ……よく見るとあの田舎者たちの方が押してるみたいだぞ?」


「ったく……ワシはもっと穏便に済ませたかったのによぉ……」


 木戸たちとマキは思った。


(絶対ウソだろ……)


「コッチが下手に出てりゃいい気になりよって……おぉ? 最初のうちにオドレら全員で足閉じて座りゃこの婆さんぐらい座れたじゃろうが! あぁん! オドレらどうせ大したキン◯マ着いてねぇじゃろうが!」


「あっあ……お兄さんワシの為にそんな事しなくていいんだよ……ほら謝んなどうもスミマセンねぇ〜ワシの事はいいから……」


 老婆は喧嘩の仲裁をしようと、鬼嶋とリーダー格の男の間に割って入った。


「お婆さま! 危ない!」


「クソババァ! 引っ込んでろ!」


「ウワッ」


 リーダー格の男が老婆を突き飛ばした。


「おっと! ……婆さん怪我ないんか?」


「え、えぇまぁ大丈夫だよ……ハハ……」


「婆さんよ〜危ねぇから後ろ行っとれ……」


「そ、そうさせてもらうよ」


「この〜腐れ外道が!!!」


 ──バキッ


「グハッ!」


「お、親分〜〜〜〜〜!!!」


「て、テメェ! とうとう手出しやがったなぁ〜」


「手ぇ出したらなんだっちゅうんじゃ、おぉっ!」


「ヘッ馬鹿が……俺たちギャング団"荒野の赤霧"に逆らった奴等はどうなるか教えてやるぜ!」


「赤霧? どっかの焼酎かそりゃ? あぁん!? 婆さんみてぇな堅気に手ぇ上げる様な仁義もしらねぇサルによぉたっぷり教育してやるわい! ……うら来いや」


「あぁん!? ここでやってやるよ!」


「テメェが用があるんはワシだけじゃろうが!!! ここじゃあ関係ない人間も巻き込むじゃろうが! それとも何か? ヤバくなったら周りの人間に止めてもらいたいんか?」


 すると後ろにいた、木戸が鬼嶋の肩をポンと叩く。


「鬼嶋よぉ〜オドレばっかりええ格好させんぞ……」


「ワシらも混ぜんかい……」


「ヘッヘヘヘ……」


「どいつもこいつも馬鹿にしくさりやがって……上等だぁ〜! 全員ぶっ殺してやる! お前ら行くぞ!」


「ヘイ!」


「あぁ……あ……あ……」


 老婆がゾロゾロと客席から離れるギャング団たちを見てオロオロしている。


「婆さんどうした? 気にせんと座っちょれ」


「お兄さんたち……ほ、本当に大丈夫なのかい?」


 鬼嶋たち四人は顔を見合わせた。


「「「「ダーーーーーハッハハハハハハ」」」」


「あぁ……あ……あ……」


「フッ……婆さんは何も心配せんでえぇ」


 するとそこへ、売店の売り子が通りかかった。


「ビールはいかがでしょうか?」


「………………」






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