第15話 闘技場にて

 ──シュッ


 拳たちは闘技場のそばに転生され、そこには今日の決闘を見ようと大勢の群衆が集まっていた。


(? ここはどこじゃ?)


「おぉ〜外国じゃないけぇ」


「おぉ本当じゃ!」


「どういう事じゃ? ワシらはさっきまで確かに日本にいたはずじゃが?」


「へ……ヘヘッ……ビックリしたじゃろう?」


(え〜〜〜〜!!! なんで落書きの上に乗っただけで異世界に来れるんじゃ!? というか……本当に来れて良かった〜)


「フッ……確かに日本とは違うところらしい」


「鬼嶋よ〜面白そうな所じゃろ? しかし、ワレは妙にあっさりワシの提案に乗ってきたがなんでじゃ?」


「別に大した理由はないワイ……ワシはSF小説が好きでのぉ……面白そうじゃったから乗ってみただけよ」


「SF小説?」


「フン……教養がないのぉ」


「おい拳!」


 木戸が拳の両肩を掴み興奮した状態で拳に問いかけた。


「な、なんじゃい」


「こ、これはどう言う事じゃ!?」


「ヘヘッだからワシの言ったとお……」


「なんでこんな事が出来るんじゃ!?」


「えっ!?」


「説明してくれや!」


「えっと、え〜それは、……ええ〜」


 拳の額にタラリと冷や汗が流れた。


「なっ! 教えてくれや! なっ!」


「う〜ん……ワ、ワシが知るか! そんなもん!」


 拳が逆ギレし理不尽に木戸の頭を小突いた。


「痛えっ! 何すんじゃコラ!」


「チョッ! チョット! 喧嘩は辞めて下さい」


「お! やれやれ〜」


「アッパー! アッパー!」


「煽らないで止めてください!」


「たく……おいオドレら! そこのお嬢ちゃんが困っとるやないけ〜」


「チッ! おいお前らココに来る前の約束覚えちょるだろうな〜」


「グッ……わ、分かっちょるわい」


(ヒッヒヒヒ……こりゃもう一儲け出来るかもしれんのぉ〜)


「お前ら!」


 キーユが拳たちに一喝する。


「!? なんじゃい?」


「もし、騒ぎを起こしたら問答無用で逮捕するぞ! よ〜く肝に銘じておけよ」


「ケッ上等やないけぇ〜」


 警察嫌いの毒島がキーユに対し、グイッと顔を近づけて今にも殴りかかりそうな態度を取った。


「辞めとけや! 分かったわい、なるべく大人しゅうしとくよ」


「番長!」


「まぁ待てや、ワシ一人なら別に構わんが……ワシがお前らを連れてきたんじゃ、ワシはお前らを無事に家に帰す責任があるんじゃ」


「わ、分かったわい……出来るだけ大人しゅうしちょるよ」


「わ、分かったならそれでいい」


(なるべくとか出来るだけと言うのが気になるが)


「隊長〜」


 少し離れた所からキーユの部下が呼びかけてきた。


「おぅ、それではお前たち、私はこれから会場の警備にいってくるから、くれぐれも暴れたりするんじゃないぞ」


「じゃがわしいわい! とっとと行っちまえ!」


「ハァ〜……」


「サンディお姉さま」


 サンディのすぐ後ろから聞き慣れた声がした。


「え? あっマキ!」


「お久しぶりですわ〜サンディお姉さま〜」


「フフフ……ほらマキこんな所で抱きつかないの」


「だってだって……ようやくお姉さまにあえたんですもの」


 再会の喜びを噛み締める様にひと目もはばからず、サンディに抱擁しながら顔を見上げるマキの瞳は少し潤んでいる様にも見えた。


「フフフ……マキ、私も会えて嬉しいわ」


「……ところでお姉さま? あの顔に手を当てて耳を真っ赤にしているこの方達は?」


「え?」


 ──モジモジ


「どうしたのですか?」


「いや〜その女同士が抱きつき合うちゅうのは……そ、そんなもん見せつけられたら……よく分からんがて、照れるじゃろうが!」


(い、意外とウブなんだ……)


「マキ、紹介するわねこの方は男虎拳さんと言って、私が初めてココに召喚させてもらった人と、この方たちは拳さんのご友人です」


「ふ〜んそうなんですか」


 サンディが紹介するも、マキは露骨に興味がございませんとばかりに素っ気ない返事をするのであった。


「さっきサンディの事をお姉さまと呼んでいたが、お嬢ちゃんはサンディの妹さんかい? 仲がいい姉妹なんじゃな」


「ふん! 血は繋がってないんですけど!」


 マキは拳に対し、顔をプイッと曲げて答えた。


「そ、そうなんか? すまんのぉ〜二人は複雑な関係なんか?」


「ハァ〜! そんなんじゃないです! 私は親しみを込めてサンディお姉さまの事をお姉さまと呼んでいるのです!」


「そ、そうなんか? 番長みたいなことなんか?」


「う〜ん……チョット違うと思います」


「チョット! お姉さま!」


「ど、どうしたの?」


「本当にこの人がお姉さまが最初に召喚した人なのですか〜?」


「そ、そうだけれど……」


「お姉さま! 召喚主にとっての召喚者は召喚主のお人柄やその他色々なステータスによって召喚主にふさわしい方が召喚されるのです! 失礼ですけどこんなチンピラの様な見た目でしかも、先程から遠くより観察しておりましたが、まるで野蛮人の様な振る舞い、とても私にはお姉さまにふさわしい方とは思えません」


 マキは自分の中に溜まっていた鬱憤を一気に吐き出した。


「なにを〜このアマ! 好き放題いいよって! ワシのどこがチンピラの野蛮人じゃコラ!」


「えぇぞ〜お嬢ちゃん! もっと言っちゃれ〜」


「あなた達もよ!」


「……」


「コラ、マキなんて事を言うんです! はしたないですよ」


「だって〜」


「そうじゃ! サンディ言ってやれや!」


「拳さん達はそんな人じゃ…………………………」


「…………」


「…………」


 ──ボディック宅


 ラングストンは拳が学生服の手ぶらの状態とは違い、普段の盗賊退治や、モンスター狩りの様なフル装備を身に纏い、会場に向かおうとしていた。


(いよいよだな……男虎拳! 私に恥をかかせた罪を今日こそ償わせてやる……しかし、何故だ? 何故私はここまで奴に固執しているのだ? 勿論、酒場や父の前で恥をかかされたから? しかし……もっと他にも……)


「ラングストン……」


「なんですか? 父さん」


「……いや、その……頑張って来い……必ず勝ってくるんだぞ!」


「……ハハっ勿論です、あんな男には負けません」


「そうか……さすが私の息子だ」


「……では」


「ラングストン!」


「……なんですか? 父さん」


「……い、いや……何でもないんだ、頑張ってこい」


「……それでは行ってきます」


(ラングストン……すまないなぁ……)


 玄関を開けるとボディック家の使用人や付き人、ガールフレンドのエレナが出迎えていた。


「若様、お待ちしておりました」


「ラングストン、いよいよね! あんな野蛮人なんか本当のアナタの実力なら余裕なんだから」


「……フフッ当然さ……?」


 ラングストンがフッと花壇に目をやるとそこに、沈丁花じんちょうけの花がしおれかけていた。


「おい!」


「ハッ! なんでしょうか? ラングストン様」


「アソコの花壇はお前が担当じゃなかったのか?」


「あ……いえ……そ、それはその……」


 ラングストンは名指しした、使用人の首筋に太刀を突きつけた。


「ひぃぃぃ……」


「枯らせたら次はないぞ?」  


「か、かしこまりました……」


(フンッ決闘前に嫌なものを見た……)








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