第13話 再会!

 決闘当日の朝、サンディは拳の世界に向かおうとしていた。


「……それではマスター、拳さんの世界へ行ってきます」


「うむ……その事なんだかなサンディ」


「はい?」

 

「不安ではないかね? 拳くんの所に行くのは」


「えぇまぁ……正直な話、昨晩は眠れませんでした」


「まぁ無理もない……そこでなのだが、ある人にサンディの護衛を頼んでおいたのだ」


「えっ!? そうだったんですか? ありがとうございますマスター、でもある人というのは?」


「私だよ、サンディちゃん」


「キーユ隊長!」


「これで安心してもらえるかな?」


「はい、キーユ隊長が護衛に付いていただけるのでしたら心強いです」


「それなら良かった」


「それではキーユ隊長、この魔法陣にお乗り下さい」


「うむ」


「まずは、拳さんの位置を把握して……居た! ……けれど拳さんの周りに沢山の闘気を感じる……キーユ隊長、少し離れた所に降りて、慎重に行きましょう。何か危ない予感がします……」


「うむ……慌てる必要はない。それでいいと思う」


「それでは……」


 ──シュッ


「着きました……ここが拳さんの暮らしている街」


「う〜ん……どうやら港町のようだね」  


 二人は、拳の地元の街に転生され拳を探すために探索を始めた。

 どこかに拳の事を知っている人はいないかと、辺りを見渡しながら歩いていると焼かれた家がポツンとあり、その前には食べ物や酒が供えられていた。


(戦争の傷跡か……この街の人々も、復興するまでにご苦労なさった事だろう……ナルホド奴の持つ負けん気やハングリー精神はここから来ているのかもしれない)


「キーユ隊長、あそこに人がいます。あの方に拳さんの居場所を聞いてみましょう」


 二人は、家の前で洗濯をしている中年の女性に拳の居場所を知っているか尋ねようとした。


「あの〜すみません、お尋ねしたいのですが……」


「あら、随分可愛らしアメリカ人じゃね? 随分日本語が上手いんだね……うわっ! け、警察もいるじゃないか! な、なんだって言うのさ! あたしゃ何も悪い事しちょらんわい……ヒィ〜」


「ち、違うんです……私達は人を尋ねたいだけなんです……」


「男虎拳さんをご存知ないでしょうか?」


「拳? つ、ついに警察のご厄介になる様な事をしたのかい? 見逃してやっておくれよ〜あの子は父親を特攻で亡くして、母親と二人暮らしなんだよ〜確かにアイツは悪ガキだよ、だけどもし拳が連れて行かれたら、清子さんが不憫で不憫で……」


「い、いえですから私達はそう言うのでは無くてですね」


 警察の様な男とその隣のアメリカ人女性、そしてその警察に何かを懇願している知り合いの女性、この三人の会話を見ていた地元民が話の輪に入ってきた。


「おい、一体どうした! 警察がなんでここにいるんだ?」


「あっ! 棟梁さん、実は拳を探しているみたいなんよ」


「け、拳を!? お巡りさん! あの馬鹿がまだ何かしたんかい? チョット待ってくれや、何をやらかしたのかは知らんが、ワシが必ず更生させちゃる! だから今度ばかりは見逃してやってくれや」


「い、いや私は拳を捕まえに来たという訳ではなくて……」


「ん? なんだなんだ? 警察?」


「どうしたどうした?」


「何か事件か?」


「おぉ拳の奴が何かやったらしいわい」


「なっ! なんじゃと」


「おい! その話詳しく教えてくれや」


「いやだから、違うんです〜〜〜〜」


 数人の地元民に囲まれ、一から十まで説明するハメになってしまったのだが、異世界から来たなどという話は皆チンプンカンプンで結局納得してもらうまで一時間近く掛かってしまった。

 そして肝心な拳の居場所は地元民の一人が他校の生徒と拳たちの高校の生徒が近くにある鬼首がおにくびがはらという空き地で喧嘩をしているという。

 サンディとキーユはその鬼首が原に向かう事にした。


「教えられた、原っぱというのはこの辺のはずなんだがなぁ……獄門高校と餓鬼高校……どうやら高校というのはこの世界の学びまなびやらしいな……」


「おどりゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!」


「!? キーユ隊長、聞きましたか?」


「あぁ山の方から聞こえたな」


「行ってみましょう」


 二人は鬼首が原から少し離れた丘の上で様子を見る事にした。


「なっ!? なんだこれは?」


 そこには、約二千人程の若者たちが手に各々の武器をたずさえて、乱闘騒ぎをしていた。


「おどりゃ〜〜〜ぶっ殺したら〜〜〜」


 ──ガゴッ


「グッ頭が〜〜〜〜」


「ケケケ……」


 ──チチチチチッシュ〜〜〜〜〜〜〜


「ヒャッハ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


「うわ! ダイナマイトじゃ〜〜〜〜!!!」


「伏せろ!!!」


 ──ボカ〜〜〜〜〜〜ン


「あ、あの馬鹿! 血迷いやがって……」


「オラオラオラオラ」


「舐めんなゴラ〜〜〜〜」


 丘の上で見ていたキーユは目の前の光景に息を呑んでいた。


「す、凄まじいな……」


「キーユ隊長……これが子供の喧嘩なんですか?」


「まるで戦争だな……」


「キーユ隊長見てくださいあの人……」


「ん!? おぉ拳じゃないか」


 喧騒の端の方で恐らくは相手の番長を馬乗りになりボコボコにしている拳の姿があった。


「おんどりゃ! 餓鬼高がよ〜獄門高にカチコミなんざ百年早いんじゃボケ!!!」


「ゴフッ……ガハッ……ウグッ……か、勘弁してくれや〜」


「ば、番長がやられた〜引け! 引くんじゃ〜!」


 餓鬼高校は番長がやられた事により蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「ヘッ今度来やがったらぶち殺したるわ! ガ〜ハッハハハ」


「ヘッ大した事のねぇ野郎じゃい」  


「拳よ〜これで獄門高の五連勝じゃい!」


「ガ〜ハッハハハ……もうちっと骨のある奴ぁいないのかいのぉ〜」


「全くじゃい……ん!? 拳、丘の上に誰かコッチを見てるわい……一人は金髪のアメリカ人の女みたいじゃ、もう一人は……警察じゃないけぇ!」


「なんじゃと警察!?」


「拳! ずらかるか?」


「アホンダラ! 警察が怖くて喧嘩なんぞやっとれるかい!!!」


「じゃあどうする?」


「相手はチャカ持っとるからのぉ……まずはゆっくり近づいて距離を詰めるんじゃ……」


 獄門高校千人がサンディとキーユの二人にじわじわと距離を詰め始めた。


「あっ! 拳さん達がコッチを見てますよ、気づいてくれたのかも」


(禍々しいオーラを感じる……警戒はしておくか)


「拳! あの警官、なんだか構えたぞ」


「チッ餓鬼高のバカがとち狂ってダイナマイトなんぞぶっ放したからのぉ……近づいた瞬間に問答無用で撃ってくる可能性があるぞ」


「どうするんじゃ?」


「お前ら、とにかく今持ってる武器えもの捨てるんじゃ」


「ん? 皆さん何か地面に捨ててますね」


「う〜ん……何か武器の様なものにみえるな」


「この土地の風習か何かでしょうか? ん? 両手を上げたまま皆さんコチラに向かって来てます」


「ええかぁ……ワシが合図したら一斉に飛びかかるんじゃ」


(もう少しじゃ……ん?)


「お〜い! 拳さ〜ん」


「サンディ? サンディやないの?」


「拳よ〜あのアメリカのネェちゃんと知り合いか?」


「ええっ!? あのカワイコちゃんが?」


「サンディ! サンディ〜〜〜〜〜!!!」


 サンディに気づいた拳が走りながらサンディに抱きついた。


「えっ? チョット拳さん?」


「会いたかったぞ〜サンディよ〜〜〜〜〜!!!」


「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

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