第12話 実戦を終えて……

模擬試合を終え、一同はギルドに帰ってきた。


「お〜痛ぇぇ……あぁ、まぶたが腫れとる」


「痛みは無くても、体へのダメージは残るみたいだね」


「ま、待ってて下さい。今私の治癒魔法で……」


「ヘッ大袈裟じゃわいこのぐらいの傷、自分でなんとかなるわい」


「え?」


「誰かドス持っとらんか?」


「ドス?」


「う〜ん……短刀の様な小さな刃物じゃ」


ギルドメンバーの一人が拳に刃渡り十センチ程のナイフを拳に渡した。


「こ、これでいいのか?」


「おぅ、ちょっと借りるわい」


すると拳はその渡されたナイフで自分の腫れている瞼に押し当てた。


「えっ! えぇ〜!?」


──ザシュッ


「グッ……ふ〜〜良し、サンディ酒持ってきてくれや」


「お酒ですか?」


「おうよ……とびっきりキッツイのを頼むわ」


サンディは、カウンターから一番度数の強いお酒を持ってきた。


「も、持ってきましたけれど……」


「ヨシ、あっ! これ悪いんじゃが……サンディの払いで……」


「え!?」


拳はポケットの中の布をピッと引っ張り、無邪気な笑顔を見せた。


「い、良いですよ……」


「おっ! それじゃ……グビ……ブッシュ〜〜〜」


拳は、口に含んだ酒を天に向かって吹き出し、その酒が拳の顔にシャワーの様に降ってきた。


「くぅ〜〜〜染みるわい」


(な、なんて原始的な……あれじゃ衛生面も何もないじゃない……)


「魔法でやればもっと楽で安全なのに……」


「よーしサンディ、後はラングストンの決闘まで何もする事がないからのぉ、ワシは一旦帰らせてもらうわい、構わんじゃろ?」


「……ええまぁ、それは構わないですが」


「……あっ! 大将ワシの能力は帰ったらどうなるんじゃ?」


「た……大将? わ、私の事かい? ま、まぁ呼び方はなんでもいいがハハ……ここにいる間だけ魔法の力、まぁその土地の磁場みたいなものかな? それによって魔法や能力が使えるが拳くん達の世界では元々魔法が存在しない世界だから能力は使えなくなると思うよ」


「おぉーそれを聞いて安心したわい、向こうで喧嘩になったら使いたくないからのぉ」


「何故ですか? 使えれば絶対に勝てるのに」


「ヘッそんなもん使わなくったって勝てるわい! それに相手が使えんのにワシだけが使うのは卑怯者のするこっちゃ」


「さっきの模擬試合の時に握手と見せかけて頭突きしましたよね? あれは卑怯じゃないのですか?」


「アレはここを使ったんじゃ! 二つの意味でな」


「はぁ……」


「良し、じゃあ早速じゃがワシを帰してくれ」


「いいですけど、何故そんなに帰りたがるんですか?」


「う〜ん? サンディ〜もしかして寂しんか?」


「いや別に……単純に理由をきいてみたいだけです」


「ヘッつれないのぉ〜……大した理由なんて別にないわい、用が済んだら家に帰るんは普通じゃろ?」


「……まぁそうなんですけど、拳さんの行動はいつもチョット普通じゃないので」


「一体ワシをなんじゃと思っとるんじゃ……あっ! 理由なら一つある」


「な、なんですか?」


「ワシの応援団を連れてきたい! 出来るかの?」


「応援団ってどんな人ですか?」


「う〜ん……舎弟とかかの?」


「舎弟って……拳さんみたいな人たちですか?」


「なんじゃ? その歯に物が挟まったような言い方は?」


「別に深い意味は……」


「大丈夫じゃってぇ……暴れん様にちゃんとワシが言い聞かすから」


「あ、暴れんない様にってやっぱり拳さんの同類じゃないですか」


「同類って……なんか嫌な言い方じゃのぉ……大丈夫じゃってぇ、頼むわ……そうすればワシの士気も上がるしの」


「まぁ……分かりますけど、一体何人ぐらい連れてくるつもりなんですか?」


「う〜んとそうじゃな……千人ぐらい?」


「三人までにして下さい」


「三人じゃあ、チョット少な過ぎやしないか?」


「千人が多すぎるんです」


「……せめて四人にしてくれ」


「……分かりました。それ以上は無理ですよ」


「じゃあ決闘当日はワシはどこで待機しとればええんじゃ?」


「……マスター私は拳さんの所へ行っても魔法は使えるのでしょうか?」 


「それなら大丈夫、魔法の力が存在しない所でもコチラの世界の磁場を一時的に供給できるポーションがあるから、それを飲んでいくといい」


「分かりました。では決闘の当日拳さんの居場所をサーチして迎えに行きますので、拳さんは特に何もしなくて大丈夫です」


「あいよ、じゃあ頼むわ。そういえばワシは元の場所にちゃんと帰れるんか?」


「はい、場所は拳さんがここに来る前に居た所です」


「そうかという事は……誰かワシに手ぬぐいか何か貸してくれや」


「手ぬぐい?」


「手ぬぐいを知らんのか? 金◯を隠す布じゃ」


「拳さん……何をしようとしてるんですか?」


「ん?」


──日本


──ブクブクブク……


(ハグ……ホグ……ヤべッお湯飲んじまった……溺れる〜!)


「プッハーーーーはぁ……はぁ……はぁ……」


(死ぬかと思ったわい……おっここは!? 間違いなく松の湯じゃ本当に帰って来たんじゃ)


「おい、拳坊ワレどっから出てきたんじゃ?」


「おぅ棟梁、いや〜これはその……」


「潜水ごっこか? いくつになってもワレはまだまだガキじゃのぉ」


「ち、違うわい! ワシは……」


(別の世界から来た言うたら、頭がおかしなったと思われるわい……)


「なんじゃ?」


「な、なんでも無いわい!」


(ふ〜それにしても、久々の銭湯は気持ちいいのぉ)


「あっ!」


「おぅ……」


「鬼嶋、ワレも来とったんか?」


「まぁな」


「…………」


「…………」


「おぅ」


「なんじゃ?」


「……やっぱり辞めとくわい」


「……なんじゃ? 気になるじゃないけぇ、早う言えや」


「……こんな話したら頭おかしなったと思われるわい」


最初ハナから出来た頭じゃないじゃろうが」


「な、なんじゃと!」


「早う言えや……のぼせちまうじゃろう」


「じ、実はな……」


「おぅ」


「ワシ異世界に行ってたんじゃ」


「…………」


「…………」


「ワレ……」


「…………」


「頭おかしなったんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る