第11話 あの日……

「ヘッいつまでその強がりが言えるかなっ!」


(あぁ……こりゃマズイのぉ……気持ちよくなってきたわい……)


 ──昭和二一年、男虎拳(八歳)──


「なんじゃありゃ?」


 一人の女性が正気の抜かれた様な表情でフラフラと力なく歩いていた。


「静江〜〜〜!!!」


「お父ちゃん……私……私……」


「あぁ〜〜〜静江〜〜〜可哀想になぁ……可哀想になぁ……」


「あぁ……可哀想に静江ちゃん」


「母ちゃん、静江姉ちゃんどうしたんじゃ? いつもと全然ちがう人みたいじゃ」


「子供はそんな事考えんでもええんよ」


「?」


 翌日、拳とその友人達がいつも集まっている広場で、昨日の事に着いて話をしていた。


「おい、みんな聞いたか?」


「何をじゃ?」


「昨日、静江姉ちゃんの事よ」


「おぅ!? 何か知っとんのか?」


「今日、ここに来る途中に大人たちが話しとるんを聞いたんじゃが……静江姉ちゃんが帰ってくる前の晩にどうやらアメ公に襲われたらしいぞ」


「なっ! なんじゃと!?」


「うえ〜ん、静江姉ちゃん可哀想だよ〜」


「泣くな千代子! ちくしょう……悔しいのぉ……悔しいのぉ……犯人さえ分かりゃワシがぶっ殺しちゃるのによぉ……」


「止めとけや……返り討ちにあって下手したら殺されるど」


「ちくしょう……警察はなにしとるんじゃ!」


「相手がアメ公じゃ手出し出来んのじゃろう」


「ちくしょう! 指を咥えてみとれっちゅんか!」


 日暮れになり、拳たちは帰路に着いた。


「母ちゃんただいま〜……母ちゃん? おらんのか?変じゃのぉ? いつもこの時間なら家におるはずなんじゃが?」


 家の中は静まり返っていた……普段であれば母がすでに家で夕食を作っている時間である。


「ヘッヘヘッ……しょ、しょうがないのぉ……ま、またどこかで近所の母ちゃん達と世間話に花を咲かせてるんじゃろ……ま、まったく困ったもんじゃ……ヘヘッ」


 日もすっかり落ち、さすがに遅すぎると嫌な予感が走った拳は、母の捜索に出た。


「母ちゃん〜どこ行ったんじゃ〜……ヘヘッ……ワシはアホじゃのぉ……こんなひとけの無い所に母ちゃんが……いる訳がないじゃろう……ヘッヘヘッ」


「きゃ〜〜〜やめて〜〜〜!!!」


 すると突然、林の中から聞き覚えのある。

 そして、拳にとっては今一番聞きたくなかった声が聞こえた。


「母ちゃんの声じゃ……」


「Hey, be quiet! "I'll take you to heaven right now." 《おい大人しくしろ今天国へ連れてってやるぜ》」


 声の方に目を向けると、そこに自分の母に大柄のアメリカ人が覆い被さっているのが見えた。


「Ouch!《アウチ!》……Who is it! 《だ、誰だ》」


 アメリカ人が後ろを振り向くと、恐らく自分の頭を殴ったであろう石を持ったまま鬼の如き表情で立っている拳の姿があった。


「……boy? 《少年?》」


「う……うぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 拳は持っていた石を振り上げ、今一度アメリカ人の頭めがけ振り下ろした。


「Yo, you did it well, you did it well 《よ、よくもやりやがったな》」


 しかし、アメリカ人は拳の手首をガシッと掴み思いっきり拳の顔面へパンチを見舞った。


「ゴフッ……ち、ちきしょう……アメ公め〜……」


「け、拳〜〜〜〜!」


「ぶっ殺してやる〜〜〜!!!」


 もう一度、拳はアメリカ人に向かって行ったが今度は押し倒され、マウントポジションをとられてしまった。


「Annoying kid 《鬱陶しいガキだ》」


「グフッ……ゴフッ……ぐはッ……」


(ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……)


 ──ゴーラ国現在──


「トドメだ〜〜〜」


 パッと気がつくとディックのパンチが拳の目の前に迫っていた。


「何!?」


 すると拳はパンチが当たった瞬間、首をディックのパンチに合わせてクルッと受け流し、そのままディックの腕に噛みついた。


「ふぇふぇっ 《フフッ》……ひぇひぇいひゃくへんひゃねょう 《形成逆転じゃのう》」


「この! 離せ! この野郎! 離せ!」


 ディックは噛まれていない手で必死に拳に攻撃を加える。


「きゃたてぇをきゃまれにゃがりゃきゃときょうきぇきもひゃんへんひゃねょう 《片手を噛まれながらだと攻撃も半減じゃのう》」



「チッ! クソが」


「ひょうら、ひょうひた? ここきゃらふぁしをひっきょにゅきゃにゃいきゃきりふぁしはへったいにひゃなしゃんほ 《そうら、どうした? ここからワシを引っこ抜かんかぎりワシは絶対に離さんぞ》」


「グッ……グワ〜〜〜〜!!!」


(コ、コイツ!? 人間の噛む力じゃねぇ……ちきしょう……それに、どんどん力がましてきやがるどうなってんだ!?)


「ふぉれ、ふぉんしゅりゅんひゃい 《ほれ、どうするんじゃい》」


「クッ……クソが〜〜〜!!!」


 その瞬間また地面が泥の様に柔らかくなり、拳は脱出に成功したのである。


「ふぉっしゃー 《ヨッシャー》」


「チッ! チキショ!」


 そして、脱出した勢いで相手の足を掛け、柔道の大外刈りを決め拳が上になる形になるマウントポジションを取った。


「これで、逆転じゃな〜今度はコッチの番じゃい!」


「ま、参った〜〜〜〜!!!」


 拳はディックの顔を避け、地面にパンチを叩きつけた。


 ──ドカ〜ン……メキメキメキ……


 拳のパンチが地面にめり込み、地割れの様なヒビが入った。


「ヒィ……」


「……」


(なっ!? なんじゃこの力は? これは本当にワシの力によるものなんか?)


「それまで〜!」


「ディ、ディックが負けた……」


「な、なんなんだ? 奴のあのパンチは?」


「あんな破壊力……大柄のオーグ並みじゃねぇか」


「……」


(あれが恐らく、拳さんの能力……あの破壊力は拳さんが最初から持っていた力では無いはず……闘いの中で力が増した?)


「拳くん、この模擬試合は君の勝ちだ。いや〜しかし凄い威力のパンチだね〜……恐らくはこれが拳くんの能力によるものだと思うのだが? 何か闘っている中で気づいたものはあったかね?」


「いや〜ワシにもよく分からんが……アイツに殴られている時に、ちっとばかし昔の夢をみていたんじゃ」


「昔の事?」


「あぁ……いい夢とは言えんがの、そして夢から醒めた時、奴の攻撃が目の前に飛んできた。けれど妙にゆっくりに見えた」


(ゆっくり?)


「それと奴にぶん殴られたり、蹴っ飛ばさたりした痛みがどっかに消えてしもうたんじゃ」


「そして、ワシが放った最後の一撃……ありゃワシの本来の力では絶対にありえない」


「……恐らくだが、それが君の能力は敵の攻撃を受けダメージを受ける度に身体的な能力がパワーアップするものなんだと思うよ」


「ふ〜ん」


「ふ〜んって随分反応が薄いねぇ……」


(まぁ……拳くんにとっては自分の能力に興味がないんだろう)


「まっ、それよりも……おい兄ちゃん、終わりじゃ、ワシはもう何にもせんからいつまでもビクビクするなや」


 拳は仰向けになりながら怯えているディックに話しかけた。


「ほら、手伸ばせ」


「ヒィ……」


 ──ブチッ


「アホンダラ!!! 男がいつまでもビクビクすんなや!!!」


「わ〜拳くんちょっと止めなさい! みんな止めるんだ〜〜〜」


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