第9話 ギルドへの訪問

 能力付与に対し、あまり乗り気ではない拳を、なんとか説得して所属のギルドに連れてくる事ができた。

 拳とサンディが入るや否や中にいたギルドメンバーは拳を横目で見ながらヒソヒソと噂話をし始めた。


「おい見ろよサンディの隣にいる男……アレがラングストン頭を酒瓶でかち割った奴じゃないのか?」


「あぁ……それに自警団のキーユ隊長もボコボコにしたらしいぞ」


「なんでもキーユ隊長はボコボコにされた挙句、追い剥ぎ紛いまでされたらしい」


「やべ〜奴だよ……皆んな気をつけろよ」


「ここがサンディの職場か〜……!? なんだか皆んながワシを見ている様に感じるんじゃが?」


「拳さんがラングストンに喧嘩を売ったという噂になってるんですよ」


「ほぉ〜ワシも有名人じゃのう」


 拳は周りの態度を見て自分の強さが知れ渡っていると思い少し誇らしい気持ちになった。


「そんな事で喜ばないで下さい」


 拳とサンディはギルドの受け付けで受付嬢兼ギルドマスターの秘書でもあるキャシーに挨拶をし、マスターの所在を確かめる事にした。


「こんにちは、キャシーさん」


 茶髪のショートカットで細身の体型をしたウェイトレスのような出立ちで、明るい印象を持つ女性が立っていた。


「こんにちは、サンディ……アレ? 隣にいる人が噂の?」


「ええ……まぁ……」


「男虎拳じゃ、ヨロシク」


「こちらこそヨロシク、私はここのギルドの受付兼ギルドマスターの秘書をやっているキャシーです。あなたの事は随分と噂になってるわよ」


「まぁワシとしてはただの喧嘩じゃい」


 拳は、鼻を掻きながら謙遜混じりに話してはいるが、もっと自分の事を話してほしいと言う態度が隠しきれずにいた。


「相手が凄いですもの、ラングストンの剣士としての実力はこの国であのキーユ隊長に肩を並べるぐらいの実力者なんだから、それにまだ能力を付与していないんでしょ?」


「ヘへッあんな奴はよ……喧嘩の実力だけで充分じゃい」


 拳は右腕を曲げピシャンピシャンとその盛り上がった筋肉を叩きながら、得意げな表情をしていた。


「ほとんど不意打ちみたいなものでしたけどね」


「……あっそういえばキーユもワシがボコボコにしたんじゃったのぉ〜」


「え〜〜〜!」


「戦闘の意思が無いキーユ隊長を、頭に血が登って拳さんが止まらなかっただけですよね? あまり調子に乗らないで下さい……」


 一部始終を見ていたサンディはキーユの名誉の為にも拳に対して釘を打っていた。


「よ、余計な事を言わんでええんじゃ」


「はぁ〜……キャシーさん今、マスターは居りますでしょうか?」


「ええ二階のマスター室に居ますよ」


「分かりました。じゃあ拳さんご案内いたします」


「おぅ、じゃまた」


 拳とサンディは紹介もそこそこに、能力付与をしてもらう為にギルドマスターのいる、マスター室に向かった。

 サンディがドアの前で三回ノックをした。


「サンディです。マスターに少しお話が」


「どうぞ」


「失礼します」


「どんなご用件かな? あっサンディもしかして隣にいる子は」


 短髪の口髭を生やした、ダンディズムを漂わせた男が部屋の奥にあるデスクに腰を掛け、書類の整理をしていた。


「ヘヘッそうですワシがあのラングストンの頭をかち割った男虎拳です」


「不意打ちですけどね……」


「いや〜君も思い切った事をするね、私がここでギルドマスターをしている、ロドニーです。よろしく」


「ヘヘッいや〜ただの無鉄砲なだけですわい……でも昨日今日来たワシが言うのも気が引けるが、みんなあのラングストンが気に食わなかったわけじゃろ? 一人で戦う勇気がなければ皆んなでやっちまえば良かったんじゃ」


「ず、随分物騒な事を言うんだな」


「いや〜もしワシの地元に《シマに》あんなんが居たら袋叩きじゃい」


「い、勇ましいんだな……まぁそこに掛けて下さい」


 拳とサンディはロドニーに促され、ソファーに腰掛けた。


「おぅ!? なんじゃいこの椅子は? ふっかふかしとるのぉ」


「あ、あまりはしゃがないで下さい。あのぉ……実はですね、拳さんとラングストンの件で少しご相談がありまして」


「えっチョット待ってくれ私が巻き込まれてる感じなの?」


「いや〜これはワシとアイツの話じゃ、ワシの命に替えても誰にも迷惑はかけませんわい!」


「もう十分私には迷惑がかかってるんですけど……」


「えっ!? そうだったんかい? そりゃ悪かったのぉ」


「調子がいいんだから」


「じ、じゃあ今日はどんな用件なのかな」


「はい……実は三ヶ月後に拳さんとラングストンが決闘する事になりまして」


「け、決闘?」


「はい、そこで拳さんはまだ能力の付与を受けていないので、マスターに能力の付与をしていただけないかと」


「はぁ……」


「ワシは別にいらん言うたんじゃがのぉ」


「いやいやいや……拳くん生身の状態で能力者に挑むのは無謀すぎる」


「ほら、マスターだってこう言ってるでしょ?」


「う〜ん……でもこれを言っても分かってもらえんじゃろうけど」


「なんですか?」


「ワシはそう言う無謀だとか無茶だとかそう言うもんが、なんちゅうかその嫌いじゃないんよ……」


「なにをまた馬鹿な事を言ってるんです! 能力を付与してもらって、少しでも勝率を上げる事は別に悪い事ではないじゃないですか」


「拳くん、私も男だから君の言っている事も分からないではない。でもまぁとりあえず、能力相性を見てみようじゃないか?」


「能力相性ってのは何ですかいのぅ?」


「拳くんにはどの様なタイプの能力が一番力を発揮するか見てみるんだよ、それじゃあジッとしておいてくれ」

 

 ロドニーはそう言うと拳の額に手をかざすと、その手から白い光が発せられた。


「えぇ? 手から、ひ、光が出て……ええ? アンタ大丈夫なのかよ」


「だ、大丈夫だよ、拳くんの体には害はないから」


「拳さん、落ち着いてください」


「だってよ〜手から光がでてるんだぜ……南無阿弥陀……南無阿弥陀」


「ん!? こ、これは……」


「どうしました? マスター」


「おいおいおい……不安になる事言わんでや〜」


 ロドニーの手からスーッと光が消え、ロドニーはそのまま後ろのソファーに座り込んだ。


「ふぅ〜終わったよ」


「ありがとうございます。それで何か分かりましたか?」


「ほ、本当に何ともないんじゃろうな!」


「あぁ……こんな事は初めてなんだが」


「初めて? 初めてとはどういった事なんですか?」


「う〜ん拳くんには……」


「拳さんには?」


「あん?」


「能力の才能が全くない!」


「え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


「ふ〜ん」

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