第8話 喧嘩の醍醐味

「そ、そんな言い方をなさらなくても良いではないですか?」


 サンディの持つ拳へのイメージは良くも悪くも熱血漢であり、拳のまるで突き放した様な言動は以外なもので、少々焦った様子で拳に問いただした。


「サンディよ……なんでワシがアイツの目なんぞ覚まさにゃならんのだ?」


 拳はまるで、素朴な疑問をぶつける少年のようにサンディに問いただした。


「そ、それは……」


 サンディは拳の純粋過ぎる疑問に対して言葉が咄嗟に出てこなかった。


「アイツをぶっ倒してくれと親父さんに言われんでもワシは初めからそのつもりよ、負けるつもりで喧嘩なんぞやらんわい! 親父さんよ……ワシはアイツが気に入らんからやる、アイツはワシが気に入らんからやる……ただそれだけの事じゃ」


 それは咆哮であった。"誰にも二人の喧嘩に入ってくるな"と先程同様、一瞬獣の様な目つきになりボディックに言い放った。


「そ、そうだなコレはただの喧嘩だ……二人だけの世界に私がどうこう言う資格は無い、例え親であっても……」


 ボディックは自分が情けなくなった。赤の他人に息子の成長を委ねている自分に……。


「それにのぉ親父さん……アイツの目を覚まさせるんは、最終的には親父さんの役目じゃない? ワシにはアイツの目を覚まさせるつもりはサラサラないわい、けどな……きっかけだけは作れるかもしれん」


 拳の冷たい対応の中に、ほんの一瞬だけ優しさの欠片の様なものが見えた。


「きっかけ……」


「それから先は親父さんがやるこっちゃ、その結果、アイツが目を覚まそうが、さらに腐ろうがワシに取っては他人事じゃ……」


 しかし、またも拳は突き放すように答えた。


「……ボディックさん、私からもよろしいでしょうか?」


「? あぁ……遠慮なく言ってくれ」


「あの〜息子さん……ラングストンさんとは、真剣に話をされた事はございますか?」


「う〜ん、会話はしている方だとは思うがね」


「そうですか……しかし、先ほどのラングストンさんとボディックさんの会話には壁があったように感じました」


「ワシもそう思ったわい、なんだかアイツは親父さんの前では猫被っとった感じじゃった……」


「そ、そう見えるかね……やはり」

 

 ボディックは自分の父親としての自責の念があるのか、寂しい目をして答えた。


「そらそう見えるわい、あのバカ息子があんな口調になる訳がないわい! ダーハッハハハ……ウッ」


「きっと恐らくそれは……私がラングストンに対して期待をかけ過ぎてしまったのだよ……」


「……やっぱりそんな所ですか」


「まっ、後は親子で先ずは腹割って真剣に話し合う事じゃい、ほいじゃそろそろ帰ろうかの?」


 その後、拳とサンディの二人は屋敷を後にして、帰路を歩いていた。サンディは最後に見せた、ボディックへの対応を見て拳に語りかける。


「拳さん? チョット冷たかったんじゃないんですか?」


「そうかの?」


「でも確かに、これはあの親子が解決する事ですね、拳さんも意外にいろいろと考えるんですね」


 サンディは、途中に見せた拳の獣のような目を見てゾッとしていたが、拳の人間としての暖かさが垣間見る事が出来た事に少しホッとしていた。


「いや〜あそこでワシがああ言ったのは」


「?」


「面倒臭そうだったから、とっとと切り上げたかっただけじゃい」


「…………」


「ヘヘッ……決闘の日が待ち遠しいわい」


 拳は相変わらず緊張感と言うものが全く無く、まるで遠足へ行く少年のように胸を踊らせていた。


「そういえば拳さん、能力はどうするんですか?」


「あっ? 能力?」  


「ま、まさか!? ただの喧嘩の強さだけで闘おうと思っていたんですか?」


「それ以外どうしろっちゅんじゃい? ワシの能力は喧嘩の強さじゃい!」


「キーユ隊長の事を思い出してください」


「キーユ? あぁ最初ここに来た時にワシがボコボコにした奴か」


「……そのキーユ隊長と戦ってみて、違和感みたいなものを感じなかったですか?」


「あぁ〜そういえば……あの時ワシが殴り掛かろうとした時、確実に奴の顔面にぶち当たるタイミングじゃったのに、気がついたら誰もいない空間を殴っちょった」


「それが能力という物です。恐らくキーユ隊長の使った能力は、時間操作タイプだと思います」


「ま〜たチンプンカンプンの話が始まったぞ……とりあえずアレじゃろう? 喧嘩が強くなるんじゃろ?」


 拳はまた、聞き慣れない単語に辟易する想いだった。


「まぁ喧嘩の為の能力だけじゃないのですけど、その理解で大丈夫です」


「だけどよ〜ラングストンが、そんな能力なんぞ持っとるか分からんじゃろが?」


「いいえ、恐らく何かしらの能力を持っていると考えた方がいいでしょう。ラングストンは勇者です。ラングストンやキーユ隊長など、戦う事を生業としている方は必然的に能力を持ってます」


「ふ〜ん……まっワシには必要無いわい」


「そ、そんなバカな事を言わないで下さい。無能力で能力者と戦うのは無謀過ぎます」


 サンディは拳の自信過剰な態度に珍しく強めの語気で拳を制した。


「だってよ〜キーユには勝ったじゃないけ」


「あれは……ほとんど例外です。途中でキーユ隊長は戦う意思はなかったのに、拳さんが攻撃を辞めなかったから……」


「ヘッへへへ……あの時はちーとばかし頭に血が登ってしまってのぉ」


「なんで少し嬉しそうなんですか……とにかく、私のギルドへ行きましょう。そこのマスターが能力を付与して下さります」


「ギルドってなんじゃ?」


「……私の通っている職場の名前です」


「ふ〜ん、変な名前じゃのぉ」


「放っとおいて下さい」


「しかし、ワシはその能力というのは気が進まんのぉ」


「どうしてですか? 今より強くなれるのですよ」


 拳の性格ならば、好印象で乗ってくるであろうと踏んでいたサンディは少々戸惑っていた。


「う〜ん……なんか、反則のような気がするんじゃが……」


「不意打ちに、酒瓶でラングストンの頭を叩き割った人が今更なにを言ってるんですか!」


「だ、だからそれは叩き割る前に一声かけたじゃろうが!」


 どうやら拳は、卑怯だとは思われたくはないらしく、一声かけたと言う事を強調していた。


「一緒です! ……とりあえず付与してもらってから使う、使わないは拳さんが決めればいいじゃないですか!?」


「う〜ん……」


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