第6話 拳の瞳に獣を見た!
「父さん!」
ラングストンは父と拳の和解の成立に待ったをかけた。
「どうした?」
「こ、この男を……許すというのですか?」
「なんじゃい? ケッ! ワシはおどれの親父さんの顔立てて大人しゅうしとったら! おぉ? 喧嘩の続きをやりたい言うんやったらやったろうやないけぇ!!!」
「うわぁ……やっぱり始まった」
「待てー!!!」
二人を制止する様にボディックが大声を上げた。
「ラングストン……私の意見に不服があるのか?」
ボディックがラングストンに対してズイッと体を近づけて凄みのある声で訊ねる。
「くっ……と、父さんがこの男を許すと言うのは百歩譲って良いとしましょう……しかし、私は不意打ちと言う汚い手を使われて大衆の前で大恥をかかされました」
「……一応、一声掛けたぞ?」
「だ、黙れ! 父さん、私に汚名返上の機会を与えて下さい!」
両拳をグッと握りしめ父に必死の形相で懇願するラングストンに対し父ボディックは……
「それでは、お前はどうしたいのだ?」
「この男と戦わせて下さい!」
「上等じゃ! このクソボケが!!!」
ラングストンの戦線布告を聞いた拳は、すぐさまラングストンに襲いかかろうと、自分の座っていた椅子を持ち上げ投げつけようとする。
「今じゃない! 今じゃない! 今じゃない!」
「おどりゃ! やるっつたり、やらんっつたり……どっちじゃコラ!!!」
「お、お前は瞬間湯沸かし機か!? 最後まで聞け」
「はよ言わんかい!」
「け、拳さんがその調子だと話せないでしょ……まずは、その椅子を降ろして……ね」
少しずつ拳に慣れてきたのか、ラングストンの話を聞こうとサンディは拳をなだめ落ち着かせるのであった。
「ゴホン……い、いいかな? 三ヶ月後、中央第一闘技場そこで私とサシで勝負だ!」
「何故、三ヶ月も待たにゃならんのじゃ!? 今ここでやっちゃるよ!」
「この頭を見ろ! い、医者から……全治三ヶ月と言われたのだ……お前も全快の私と戦いたいだろ!」
拳はラングストンから理由を聞くと、おもむろに自分の座っていた椅子に再び手をかけた。
「け、拳さん」
「は、話が通じないのか!?」
「ラングストン……」
「な!? なんのマネだ?」
「これで……ワシの頭をど突つけや……」
「え!?」
「同じ条件でなら文句ないじゃろがい! いいからその椅子でワシの頭をかち割ったらええんじゃい!」
「な!? なんだと?」
なぜ今、そんな事をしてまでここでやりたいか? 自分はやらないとは言ってはいない、三ヶ月後にやると行っているのだから良いではないか? そんな拳の常軌を逸したとも言える提案にラングストンは異様な不気味さを感じ取っていた。
「まぁまぁ、拳くん……そんなにイキリ立たなくてもいいじゃないか?」
混沌とした雰囲気の中、どこか楽しんでさえいる様子のボディックの一声が発せられた。
「親父さんよ〜止めんでくれんか? ここから楽しくなるっちゅうのによ〜」
(く……狂ってる)
拳はまるで新しいおもちゃを見つけた子供の様に、無邪気さを漂わせた笑顔を見せた。ラングストンとサンディはその姿に戦慄を覚えた。
「まぁまぁ、私も子供同士の喧嘩に口出しはしたくはないのだが……私はラングストンが戦闘の稽古などで門番や警備の者との模擬試合は何度か観ているが……他の者、しかも君は異世界から来たのだろう? 是非お互い万全の状態で戦っている所を見てみたいのだが……どうだろう拳くん、私の顔を立てて矛を収めてはくれんかね?」
拳はボディックの提案にゆっくりと、手にしていた椅子を床に降ろし、腕組みをしながら天井を見上げしばし考えにふけった。
そして三分程時間が経過し拳の異質な闘気も鳴りをひそめ、一呼吸した後静かに切り出した。
「……スーハァー……ええよ、歳上の意見は聞かにゃならんし、それにワシは親父さんと喧嘩したいわけじゃないしの」
「フフ……ありがとう」
ようやくピーンと張り詰めていた空気が緩和されていった。
「ハァ〜ようやく落ち着きました〜」
部屋に入ってから、気の休まる瞬間が全く無かったサンディは一気に硬直していた体を弛ませ、大きな安堵の溜め息をついた。
「おぅサンディ……大丈夫か?」
「もう〜誰のせいだと思ってるんですか?」
「ハッハハハ……拳くん、どうだい少し庭でお茶でも、拳くんのお国の話も聞いてみたいし、それにホラ彼女もお疲れの様だ」
「ヘヘッ、じゃあご相伴に預かりますわい」
「はぁ〜」
未だにこの状況を飲み込めていないサンディから緊張の糸が切れたのか力無い返事が漏れ出した。
「ラングストン、お前はどうする?」
拳と父が談笑している事が気に入らないのか、そそくさと部屋を後にするラングストンにボディックは声をかける。
「父さん! 私は後日この男と戦うのです。そんな男とお茶などできません!」
「まぁまぁ……パパもこう言っている事だし」
「な、舐めるな!!!」
──バタン!
「ヘヘッいっちまったわい」
「ハハッヘソを曲げてしまったな……さぁ二人ともコッチヘ」
拳とサンディはボディックに促されて、庭園に案内された。
「どうぞ拳さま、サンディさまハーブティーでございます」
「は、はーぶてぃー? こ、これはなんですか?」
「拳くんは、初めてかね? まぁ香りの良いお茶だよ」
「あっ! お茶ですかい? いや〜ワシはお茶は緑茶と麦茶しか知らんもんで……へぇ〜こんなハイカラなお茶があるんですか? やっぱり海外は凄いのぉ〜」
「だ、だから海外とは少し違うんです」
「ハッハハハ……ところで拳くん、さっきの演技は凄かったね」
「ヘヘッこういうのは慣れっこじゃから」
「え、演技?」
サンディは訳がわからなかった。
「ハッハハハやっぱりサンディには分からんかったか」
「えっ!? どこが演技なのですか?」
「私が当てて見せよう、ズバリ! ラングストンに椅子で殴らせようとした所から演技だったのではないかね?」
「フフ……まぁそんなところじゃ」
「え!? どう言う事ですか?」
「サンディよ……喧嘩はもう始まってるんよ、喧嘩ちゅんはな先に相手をビビらせた方の勝ちなんじゃ、だからワシは狂った演技をしてたんよ、もちろん親父さんに止められた時のあのセリフもな」
「はぁ……」
(あれは演技……だけどあの表情も?)
サンディは拳が演技だと言う事の大部分には納得していた。しかし、拳が演技の中で一瞬覗かせたあの不敵な笑みだけは演技だったのか? と言う微かな疑念を拭いきれずにいた。
「しかし拳くん、あの時もしラングストンが君の頭を殴り、その場で始まっていたらどうしたのかね?」
拳はニヒルに笑いながら、どこか悟ったように答えた。
「まぁ……そん時はそん時ですよ……」
「本当に後先を考えないんですね」
「ハッハハハ……まぁこれでラングストンもワシにはビビったじゃろう、この勝負もらったわいハッハハハ」
(そんなに上手く行くのかしら?)
──ラングストンの自室──
──バタン
(男虎拳……あの眼は本物の狂人だった……魔法も使えない一般人と思って甘く見ていた……油断をしていては逆に私が……ヨシ! 全力でいかせてもらうぞ男虎拳!!!)
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