第4話 ワシは日本代表じゃい!

 拳に頭を割られ血が噴水の如く噴き出し、無言のままテーブルに倒れ込むラングストンの姿を見て、絹を裂くようなエレナの悲鳴が店中に響き渡った。


「ラングストン! ラングストン!」


「大丈夫じゃい、そんぐらいで死にゃせんわい……だってその兄ちゃん、勇者なんじゃろがい!」  


「ア……アンタね……空の瓶で頭を割るって、なんて下品な闘い方なの! しかも不意打ち同然じゃない! 恥を知りなさい! この野蛮人!」


「じゃがぁしゃあ!!! このアマ! わしゃ、そいつの売ってきた喧嘩を買ったまでよ……喧嘩に下品も上品もあるかい!!!」  


「な、なんて言い草なの……」


「おい、そこのデカ物!」


「デ……デカ物!? お、俺の事か?」


「バカタレが! おどれしかおらんじゃろうがい! おどれはそいつの付き人じゃろうがい!?」


「そ、それがどうした? まさか次は俺とやろうてのか?」


 ラングストンの付き人の男が拳に対し臨戦体制を取った。


「バカタレが! とっととそのバカ運び出さんかい! そのネェちゃんに運ばせる気かい!?」


 付き人の男がラングストンを抱き抱えエレナと共に店を後にする。


「早う医者連れてっちゃれ、え〜とこに入ったからのぅ……ハッハハハハ」


「グ〜〜〜き、貴様! 名前はなんと言うんだ!?」


「ワシか? ワシはのぉ……拳じゃ、男虎拳!!!」


「お……男虎拳! 貴様ただでは済まんぞ……覚えてろ!!!」


「そんなもん、すぐ忘れちゃるよ……とっとと失せんかい!!!」


 ラングストンを空の瓶で頭を殴打……このショッキングな状況に店の中にいる客は呆然とし、静まり返っていた。たった一人を除いて。


「ふぅ〜スッキリしたわい、怒って、喧嘩したら更に腹がへったのぉ〜メシが楽しみじゃわい」  


「え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 ラングストンの頭を叩き割った張本人が、呑気に食事を楽しもうとしている事に、店の客はどよめきの声をあげた。


「ア……兄ちゃん!? だ、大丈夫かい?」


 先程、拳に空の瓶を譲った客が話しかけてきた。


「なにが?」


「いやなにがって……相手はラングストンだぞ?」


「ハーハッハハハいや〜あれじゃろ? ただの大地主の馬鹿息子じゃろ? わしゃアイツには何も借りもないわい! ただの喧嘩じゃケ・ン・カ」


「いや〜だからその……復讐とかいろいろ……」


「ハーハッハハハ……そんなもん怖がって喧嘩ができるかい!」


 そんな会話をしていると厨房から女将が料理を運んできた。


「はいよお兄さん! ……ごめんね皆んなアイツには辟易してたんだけど……立場上あまり強く言えなくてさ、でも何だかコッチまでスッキリしちゃったよ……今日は私の奢りだ腹いっぱい食べておくれ」


「イヤッホーイ!!! ありがたいわい、飯がタダで喰えるなんてのぉ……ホラ、サンディもいつまで頭抱えてないでよぉ……」


「はぁ〜〜〜〜〜」


 私はとんでもない男を転生してしまったのでは無いかと自問自答をするサンディであった。

 店での食事を済ませ帰路につく途中でサンディは拳にいくつかの質問をしてみた。


「あなたは何故、すぐ暴力に頼ろうとするのです」


 サンディは少しばかり語気を強めて話を切り出した。元修道士であるサンディにとっては拳の行動は非常識にうつっているのも当然の事であった。


「いや〜ハハッ、まぁそういう性格としか言いようがないんじゃ」


「性格とはいえ、手が出るのが早すぎです。もう少し自問自答し相手の事も考え……」


「自問自答ならしちょるよ……」


「え?」


「自問自答ならしちょる! さっき店にいたあの馬鹿はワシの国の事を馬鹿にしちょったろうが?」


「ええ……まぁ」


「どんな経緯であれ他所の国に来たっちゅう事はワシは自分の国、日本の代表なんじゃい! ……言うたじゃろワシの国は戦争でメチャメチャにされたと」


「ええ……」


 サンディは拳の表情が先程までの陽気さに影が差し込んでいるように見えた。


「ワシはまだ幼かったからのぉ……なぜ戦争がおっぱじまったか、その経緯はようわからん……しかも負け戦同然じゃ」


 少し遠くの方を見つめ、哀愁の入り混じった語り口にサンディは聞き入っていた。


「でもなぁ……負けると分かっていても戦わにゃならん時があるんじゃい……ワシがあの馬鹿を瓶で叩き割った時も、もし避けられていたらワシが返り討ちになったじゃろうな……フフッ……ワシにも流れとるんよ日本男児の血がよぉ……」


「拳さんの戦争で亡くなられた、お父様たちへの想いは伝わりました。ですが……」


「自警団の方々はどうなんですか」


「……ありゃ〜だって」


「謝ってましたよ、キーユ隊長……」


「…………………………」


「…………………………」


 ──ラングストン一行──


「んん……アレ? ここは」


「ラングストン! 気がついたのね」


「なんで僕はお前に抱かれ……あ……頭が割れてる!!!」

 

「ラングストン今は落ち着きましょ……」


「えぇ? な……何があったんだ? え、えぇ?」


 ──拳とサンディ帰路──


「サンディよ……」


「なんですか?」


「ワシは元の所に帰りたいんじゃが、帰れるんじゃろ」


「え!? 帰るんですか? この状況で?」


「そりゃ〜そうじゃろがい、なぜサンディがワシを転生? う〜ん最後までわからんかったわい……をしようとしたのかは分からんが、ワシにはここに長居する理由はないからのぉ〜」


「ちょっと待ってください! ラングストン卿の事はどうするんですか! 責任を取って下さい」


「責任? なんの責任をとらにゃならんのじゃ!?」


「私は貴方を転生した張本人なんです!」


「だらかどうしたんじゃい?」


「要するに、仮ではあるものの私と拳さんはパートナーという事になるんです。はぁ〜きっと私も巻き込まれることに……」


「だーハッハハハ……いやいやいや何でサンディが気にする事があるんじゃい? これはワシとあの馬鹿の喧嘩ぞ? 第一サンディは女じゃろ? 男が女に喧嘩なんか……」


「もう! 拳さんの国ではそうかもしれませんがここではそうなんです!」


 拳は少し長考した後、ある提案をした。


「分かった! 少しワシもやりすぎたわい、あのバ……ラングストンの所に謝りに行くか」


(謝罪して許す様な奴ではないが……奇襲が一番厄介じゃからのぉ、なら正面から行っちゃるわい!)


 サンディは謝罪という意外な言葉が出るとは思わなかったが、不安は勿論の事、残っていた。


「わ……分かりました。ですが謝罪は私がしますので拳さんは黙ってて下さい」


「分かった分かった……ニヒヒ」


「ど……どうしました?」


「パートナーちゅんは、夫婦みたいで照れ臭いのぉ」


「絶対に嫌です!」



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