第44話戦いの果てに。

 いつもと変わらぬ平凡な日々。激戦の疲れもあり、自室にて深い眠りに就いていた俺に突如来客が来た。


「クロムちゃん! お客さんよ!」


 扉をガンガンと叩く音に目を覚まし、ぼやけた視界で時計を見やると時刻は正午を指示していた。やはり久々に力を使いすぎたせいか、かなり体力を消費してしまったらしい。今も体の倦怠感が抜け切れていない。だが来客の対応にこの状態では申し訳ないと思いすぐさま回復魔法・リフレッシュをかけて体の倦怠感を失くして来客の待つ家の外へと足を運ばせた。


 家の扉を開けるとそこには、綺麗な鎧を身に付けた騎士たちが数人、そしてその先頭に白銀の鎧を身に付けた爽やかな男、アルトリア・ドラゴニルが目の前に居た。


「やあ、クロム君! 迎えに来たよ」


 アルトリアが爽やかな笑顔で俺に告げてくる。は? 迎え? 何故? と俺の頭には大量のクエスチョンマークが脳内に浮かんでいた。その反応の無さを怪訝に思ったアルトリアが今回俺の家に訪ねてきた理由を話してくれた。


「今回君を迎えに来た理由は国王様からの命令でね。理由は言わなくても当人なら理解できるはずだとおっしゃっていた」


「あぁ、なるほど。状況は理解した」


「きっと四国祭の優勝を讃えて下さるのだろうな」


「多分な」


 国王からの招集理由、それは間違いなくシャルルとの件だろうと俺は確信していた。だが仮に国王から反対されたとしても俺は相手側からの条件を完璧にこなして見せた。その理由があれば例え国王が相手でも俺は決して怯んだり下手に出たりはしない。何故ならシャルルとの交際を絶対に認めさせるために、お互い対等のテーブルに居座らなければ話を有利に持っていかれてしまうからだ。


「迎え感謝する。ここから先は俺一人で平気だ」


 アルトリアに伝え、一度家に戻り両親に今回の訳を話した。


「二人共、これから王城に行ってくる」


「お、王城⁉ クロムちゃん! 一体何したのよ、私たちに内緒で悪いことしてたの?」


「違う違う、国王から四国祭のことで呼び出されたんだよ」


 俺の話を聞いて、両親は安堵した表情に変わっていた。


 そして王城に向けて転移をした。その姿に未だ俺の家の前に居たアルトリア一行はその光景に顎が外れるかと言わんばかりのリアクションをしていた。


 王城に着いた俺は、大きく聳え立つ門の前に立つ衛兵に声をかけ、王城の中に案内してもらった。


 王城の中を歩きながらおそらくこの王城の中に居る筈のシャルルに通信(テレパシー)をかけた。


「シャルル聞こえるか? 今王城の中に居るんだが、シャルルはどこにいるんだ?」


「クロム! 私は今自室にて待機を命じられていますが、そろそろそちらに向かおうとしている所です」


「そうか、なら王の間で会おう」


 そこで通信を切り、王の間を目指して歩みを進めた。


 歩き続けること暫し、前にも見た、まるで巨人が通るために作られたような大きさの扉が目の前にある。その扉の前で衛兵の男が国王に向けて声を放つ。


「国王様、クロム・ジルキアをお連れしてまいりました!」


 その声に国王は入れと言葉をかけてきて、衛兵の男が大きな扉を開いた。


 王の間に入るとそこにはシャルルの姿も見受けられた。国王は俺から目を逸らさず真っ直ぐに見据えていた。俺も同様に視線を外すことなく国王を見据えていた。


「まずはクロム・ジルキア、此度の四国祭のおいて大儀であった。褒めて遣わす」


「そういう御託は要らない。本題に入ろう」


「き、貴様! 国王陛下に何たる不遜な態度! 死刑に値する!」


 衛兵の男たちが騒ぎ立てるが王は右手を挙げてその声を制した。


「本題に入る。貴様と我が愛娘の交際を私は認めない!」


「な、何故ですかお父様! 話が違います!」


「やはり、愛娘には爵位ある息子とお付き合いをするのが王族としての務めだ。それを履き違えてはいけない」


「王族など関係ありません! 私はクロムと結ばれたいのです!」


「我儘を言うな! これは国王命令だ! 貴様たちの交際は断固として認めん」


 国王とシャルルが言い争い、最後に国王が怒鳴り散らして言い争いに終止符を打った。全く、これだから王族、貴族は好きになれんのだ、結局は権力が必要なのだろう。だが、一つ教えておいてやる。権力ではどうにもならない力の差を……。


「それならシャルルと共にここから逃げることを選んだらどうする?」


「貴様を国家指名手配にして逃げ場を失くすまでだ」


「おいおい、一体誰が俺を止めれるというのだ?」


「そんなもの国を挙げて貴様を捉えるだけだ!」


「国? たかだか一国で俺を止めれるなど馬鹿らしい」


 その言葉を告げて俺は王の間にゲートを開いた。


「来い!」


 一瞬にして王の間に十影雄と影の戦士が現れた。その姿に衛兵はおろか国王でさえも焦りを顔に出していた。


「俺は一人で国を相手にできるがそれでもまだそのような寝ぼけたことを言うのか?」


「……」


 国王は完全に委縮してしまい、先程まで見せていた威厳は遥か彼方へ消え去っていた。昔も今も変わらず爵位ある者たちを完膚なきまでに心をへし折るのはどうにも快感を覚えてしまう。危ない危ない、気を緩めれば顔がにやけてしまう。


 そして俺はシャルルに最後の確認をした。


「シャルル、どうやらそういうことらしいが、お前はどうする?」


「何を馬鹿なことを聞くんですか? そんなの決まっています」


「やめろ! シャルル!」


 国王が最後の力を振り絞り声を荒げたが、シャルルはそれを聞いても尚俺に視線を向けニッコリと微笑みながら言葉を放つ。


「私はクロムと共に生きていきます!」


「いいんだな? この国を相手にしても。俺は敵には容赦しないぞ?」


「はい、構いません。覚悟はできています」


「捕らえろー!」


 国王が叫ぶが衛兵は誰一人身動きが取れていなかった。目の前にある圧倒的な死の恐怖に打ち勝つことができないでいる。


 俺はシャルルに近付きシャルルをお姫様抱っこをして王の間を悠々に歩き王城を後にした。


「クロム、そろそろ下ろして欲しいのですが……。これは流石に恥ずかしすぎます」


「おっと、悪い。ついつい悪ノリが過ぎてしまった」


 シャルルを下ろし、これから先のことを考えていると、不意に俺とシャルルに向けて声がかけられた。


「二人で出てきたってことは王様に認めてもらえたのか?」


 ナグモたちが祝福をするためにわざわざ来てくれたらしいのだが、俺には何故こい

つらがここに居るのか不思議で仕方なかった。だがその疑問もすぐにわかった。


「いえ、お父様には認めてもらえませんでした……。皆さんには祝福して欲しいなどと言っておいて、申し訳ありません」


「え……」


 ナグモたちが絶句していた。無理もない。まさか条件を果たしておいて交際を認めないという暴挙に出るとは誰も思いはしないだろう。だが、その先の話を俺がシャルルに変わり皆に伝えた。


「だから、俺は国王に喧嘩を売って、シャルルと駆け落ちすることにした」


「……はぁ⁉」


 皆の声が重なった。その時の話をすると皆はあーとかはぁーとか納得いっている様子だった。


「ですから皆さんとの学園生活はこれで終わりになってしまいますが、私は皆さんと出会えて本当に楽しかったです。これからは機会があれば必ず会いに行きます」


 その言葉に皆涙を浮かべて抱擁し合っていた。


「爵位を捨てて、駆け落ちするほど愛し合っているってなんだかとても素敵。シャルル様クロムっちと上手くやりなさいよ!」


「駆け落ちなんてズルいわ。そんなことされたら、私の入る余地がないじゃない」


 ワカツキとルミナスがシャルルに別れの言葉を残していた。そんな中以外にも大人びた雰囲気を出していたルイネがまるで小さな子供のように大声で泣き叫んでシャルルに抱き着いていた。


「うわーん! シャルル様―! 行かないで、下さいよー」


 そのルイネをシャルルは大人びた表情でルイネを諭していた。


「ルイネ、そんなに泣かないで? 本日を以て私の護衛兼メイドを解任します。これからは自由に生きなさい。私みたいに恋をしなさい」


 シャルルは最後に皆とまた抱擁をして別れの挨拶を済ませていた。すると、ワカツキとルミナスとルイネが俺の傍に寄り、何やら三人で相談をしている様子だったが何かを決めたのか不意に俺に向かって三人の唇が頬に触れた。


「んなっ⁉」


 いきなりの出来事に流石の俺も驚きの声を上げてしまった。シャルルも驚きのあまり口をポカーンと開けていた。


「へへっ、しばらくクロムっちに会えないなら最後位こういう事しても良いよね?」


「そうね、これで暫くは私たちのことを忘れたりはしないでしょ? これから毎日王女様とキスできるんだから頬に位いいわよね?」


「貴様は必ず私が暗殺してやる、だから今はこれで勘弁してやる」


 全く意味のわからない理由を語られた俺は言葉が出てこず、その場に立ち尽くしていた。それを見兼ねたシャルルは俺の手を取り皆を遠ざけた。


 そこで皆と別れを告げて俺はシャルルをもう一度お姫様抱っこをして飛空魔法・フライで上空に飛び、当てもなく飛び出した。


「クロム、これからどこに行くの?」


「取り敢えず、ここからずっと遠い場所だな。そこで生活の基盤を築く」


「そう、わかったわ」


「不安か?」


「いいえ、あなたと一緒ならどこに居ても安心できるわ」


 これからやることは山積みだ、クシャナス王国の出方次第では本当に国を相手にしなくてはならないし、生活の拠点となる場所も見つけなければならない。それに俺の両親にも折を見て打ち明けなければならない。だが何よりも重要なのはシャルルの安全の確保だ。


「そうか。俺もそうだよ、シャルルが居るから安心できる」


 その言葉を口にしてお互いの唇を合わせた。


「愛してる」


「愛してる」


 二千年の時を経て、最強と謳われた死霊使いは平凡な人生を望み転生した。結果は全く平凡な日々とは無縁の日々を送っていたが、素敵な両親に恵まれ、友と語らい、素敵な女性と恋をした。


 この先もどんな困難が待ち受けているかはわからないが、俺はもう一人じゃない。俺には頼れるパートナーが居る。これから先もシャルルと共にどんな困難も乗り越えて行こう。

                                       了 

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転生した最強の死霊使いは平凡な日々を求めるが…… 橋真 和高 @kazumadaiku

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