第43話最後の戦い(10)
「モード冥王神ハデス」
最後にして最強のモード。この姿は且つての勇者や魔王でも拝むことの無かった姿だ。見たことがあるのはせいぜい十影雄位なものだ。
この状態は普通の半神(デミゴッド)とは別格の状態だ。この状態になった俺は所謂本当の神になっているからだ。もちろん神力もその比にはならないほど強力なものになる。
おそらくだが、奴が扱う謎の現象はオリジンスキルによるものだと仮定する。そしてその権能は魔力に関する何かだろうと定義すると辻褄が合う。
半神の状態では魔法を放つときどうしても魔力と神力が半々の割合になってしまう。だからこの俺の魔法が通用しなかったり、奴の魔法が俺に当たったりという事が起きていた。
だが全てを神力で行使できるようになった俺に果たして効果があるかな?
ウルクの攻撃が俺の目の前に迫っている。それを右手を伸ばし素手で握り潰した。
「んなっ⁉」
ウルクもさぞその光景には驚いていたのだろう。目が飛び出るほど驚愕していた。
今の一撃を以て俺は仮定から確信に変わった。
「お前のオリジンスキルが何かわかったぞ。もう俺にお前の攻撃は効かない」
「ふ、ふざけるな! 僕は魔道王だぞ! 僕が負けるわけないだろ!」
怒鳴るウルクが、魔力を全身に高めている。今までの技を放った時よりも高密度な魔力がウルクの全身に収束されていく。
「これで終わりだ! ラージア・ウル・バースト!」
ウルクの背後から金獅子が顕現し、高密度な魔力砲を放った。その攻撃を真っ向から受け止めるべく、防御魔法を展開して相対した。
「ジ・エグゾダス」
七色の魔力を帯びたバリアがウルクの攻撃とぶつかる。だがウルクの攻撃が俺のバリアに傷を付けることすらできなかった。
「な、なんだと⁉ 君は一体何を……」
「終わりだ、魔道王。最大の敬意を払い全力で倒させてもらう」
そう言って、俺は上空に飛び、右手を前にかざし神力を集める。闇を纏った神力を膨大に膨れ上がらせ、それをまるでリンゴを握り潰すかのように掌を縮めながらその膨大に膨れ上がった神力の球体を小さな球体に変えた。
「アルリオン・ディア・ハデス」
その技をウルクに目掛けて投げ飛ばした。ウルクも防御魔法を使い正面から向かい打った。
「王の盾」
ウルクの手から黄金に輝く巨大な盾が現れた。並大抵の攻撃ならこの盾にかすり傷すらつけることは不可能だ。だがその盾を以てしても俺の攻撃は防げないだろう。
俺の予想通り、ウルクの盾に俺の攻撃がぶつかると、競り合うことなくウルクの最大防御魔法を砕け散らせた。おっと、このままではウルクを殺してしまう。そう思い、俺はウルクに魔法が当たる寸前で威力をかなり弱まらせておいた。
俺の魔法に直撃したウルクは吹き飛び、場外に叩きだされた。
「勝負あり! 勝者クロム・ジルキア!」
大会側の俺の勝利コールが会場内に鳴り響いた。そのコールを聞いた観衆は今大会始まっての最大級の歓声が沸き上がっていた。その歓声にこそばゆさを覚えながら
も、観客席に向かって手を振り大いに喜んだ。俺のクラスメイトも全員が会場に飛び降りてきて、俺を胴上げしてくれた。
「クロム! お前は本当に凄い奴だよ!」
「クロムっち! 優勝おめでとう!」
「貴様にしてはよくやったんじゃないか? その、……おめでとう」
「クロムさん、おめでとうございます! とても格好良かったです! 益々惚れちゃいました」
ナグモたちからの祝いの言葉を受け、綻んだ笑みを見せた。こんなにも大勢に祝われるのは生まれて初めての経験だったので上手く反応が示せないが、心底嬉しかったのは事実だ。
俺の両親の方に視線を向けると、二人共大号泣で少し話しかけづらかった……。
その喧騒の中、シャルルだけは涙を浮かべていた。その姿を見た俺は自然とシャルルの方に赴き、頭を撫でた。
「シャルル、ありがとう。お前の声が思いが俺にしっかりと伝わってきた。シャルルが俺を呼んでくれなければ俺は負けていたと思う」
「……あなたは本当にいつもボロボロなんですから」
シャルルは涙顔のまま俺に向けて笑顔を送ってくれた。本当は今すぐ抱きしめてやりたいが、皆の視線があるのでその気持ちをグッと堪えて、表彰式に赴いた。
表彰式に向かう途中、俺が来るのを待っていたのかウルクが壁に寄りかかり、俺に向けて口を開いた。
「完敗だよ、僕のオリジンスキルを使っても勝てなかったのは初めてだ」
「俺もお前ほどの猛者と戦ったのは初めてだ」
二人顔を合わせながら、握手を交わし激闘に幕を下ろした。
表彰式が終わり、両親といつものメンバーで俺の祝勝会を開いてもらうべく俺の家に向かうことになった。そしてお馴染みの円陣に両親も加わり、またいつもと同じ言い争いが起こり円陣が組まれた。その光景に両親は微笑ましいと言わんばかりの視線を俺に送っていた。今回の俺の両隣にはシャルルとルイネが居た。
こうして長いようで短かった四国祭が終わり、いよいよ国王にシャルルとの交際を認めてもらう日が訪れたのだった。
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