第10話 父へのアンビバレンスな想い

「宗教に関しては以上になりますが、他に何か気になることはありますか?」


――では、最後にお父様に関しての総括をお願いします。それが終わったら一旦休憩を挟みましょう。七篠さん、少しお疲れのようですし。


「分かりました。……愚痴が多くなってしまってすみません。過去の出来事について話すと、どうしても不平不満が多くなってしまいがちです」


ーーいえ、お気になさらず。大変参考になります。


「そう言っていただけると助かります。しかし、父についての総括ですか。難しいですね。当時は憎んでいましたが……」


――当時は、と言うことは今は?


「ある程度は許容しています。父も、彼の母から虐待を受けていたそうですし」


――そうなのですか?


「そのようです。詳しいことは知りませんが、日常的に暴力もあったようです。学校も行かせてもらえず、働きに出て、そのお金も巻き上げられていたそうです」


――なるほど。


「そんな事情もあるので、それに関して今の私から言えることは無いです。当時は憎かったのは間違いないですけどね。……いえ〝当時は〟とか言っていますが、勿論今でも全てキレイに割り切れているわけではないです。実際に今までのインタビューでも、話しながらムカムカモヤモヤする気持ちもありましたし。割り切れている部分も、そうではない部分も同時に存在している感じです。まだら模様と言いますか、そのような感じです」


――そうですか。


「そんな環境で育った父ですので、精神的に未熟だったのでしょう。良い歳して遊び歩いていたのも、幼年期に失われた何かを取り戻そうとしていたのかもしれませんね」


――なるほど。


「というか、自分が当時の父と近い年齢になって分かったのですが、世の中には〝大人〟なんて存在しないと思うんです」


――どういうことですか?


「子供の頃は二十歳ですら大人に感じていましたし、大人や親という存在をある種の上位存在というか、全く違った優れた生き物であるかのように考えていました」


――今は違う?


「はい。まずもって私自身が未熟ですから。歳を取ろうが、大きくなろうが結局中身は何も変わってないです。それで『結局大人だって人間なんだ』って、そんな当然のことにこの年になって気付きました。そして、そう考えてみれば父の諸々も理解はできます。納得は別ですけどね」


――お父様をより深く理解したいとお考えですか?


「分かりません。ですが、父も自営業のプレッシャーに耐えながら、私を育ててくれたのだけは事実ですので。その点に関しては感謝していますし、その分の恩は返すつもりです」


――そうですか。ご立派だと思います。


「いえ、そんなことは決してないです。友人世代は既に家庭を持ち、孫の顔を見せたり、親孝行している方も多いです。そんな中で、未だに過去のことを引きずっている私は決して立派ではないです。ある意味では未だに親離れできていないとすら言えると思います」


――七篠さんは既に自立されているのでは?


「親離れって自立だけを意味するものではないと思うんです。誤解を恐れずに言えば〝親を捨てる〟というか、そういった意味合いも含むと思うんです。親より大事な何かを見つける。そして優先度がそちらに傾き、結果として切り捨てることにもなりうる。それが新しく出来た家族であったり、夢であったり、はたまた自分自身の人生であるかは人によるでしょうが」


――……。


「私の場合はどれでもないです。無関心にはなれず、さりとて今更深く関わるつもりもありません。中途半端で宙ぶらりんな状態です」


――難しいですね。


「難しいです」


――……それでは、一旦休憩にしましょう。


「そうですね。なんだかしんみりとしてしまいましたし」


――それでは、一時間程休憩した後、午後から再開とさせていただきます。

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