祖父とハチクマと私
『列車食堂』
https://kakuyomu.jp/works/16816700429063424924
未曾有の大震災、世界中を襲った恐慌から奇跡とも言える繁栄を遂げ、昭和モダンという文化的に最も華やかな時代を迎えた日本。
そんな頃、津々浦々に洋食を広めたレストランがあったことは、ご存知か?
それは、列車食堂。
長距離列車に連結されて、ホテル並みの料理を提供した、ひとところには留まらぬ小さな食堂。
そこにはひとり、ちょっと変わった若いコックがいたそうな。
ざっくり言えば、そんなお話です。主人公ハチクマのモデルは母方の祖父です。
と、重複する話ばかりで、すみません。
幼少から「お爺さんは『つばめ』のコック」と親戚に聞かされて育ちました。
特急つばめは昭和5年〜18年と、昭和25年〜50年に運行されました。昭和39年、東海道速達列車の座を新たに開業した新幹線に譲り、つばめは西へ西へと追いやられます。
そして大した根拠もなく、祖父がコックとして乗ったのは戦後、新幹線開業前の特急つばめだと勝手に思い込んでいました。
確認のため母に尋ねると「戦前よ〜」と。
何だって!? 伝説の列車じゃねぇか!! 謙遜するなよ!! 一族の自慢だよ!!
ヲタクの話は長いので、特急燕については本編でご覧ください。伝説と謳われた運行開始当初は
「
https://kakuyomu.jp/works/16816700429063424924/episodes/16816927863070390701
にて描いてあります。
脱線しました、鉄道にとっては禁物です、失礼しました。今回語りたいのは、祖父の話です。
繰り返しになって、すみません。祖父が辿った戦前の足跡が、母でさえわからないんです。母と伯母が伝え聞き、調べて判明したことを箇条書きします。
・滋賀県大津市
・明治38年生まれ。
・学校を卒業し、京都の呉服屋で奉公する。
・「東京には美味しいもんがあるはずや!」と、呉服屋を辞める。
・偉い人の紹介で朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)に勤めるが、すぐ辞める。
・以降、風来坊のコックだったらしい。
・特急燕のほか、特急櫻でも働いていたらしい。
・赤坂東洋軒でも働き、豊島園の古城の塔に派遣されていた。特急櫻も昭和12年以前は東洋軒の派遣だった。
・妻、私から見た祖母は島根県松江市出身。目黒雅叙園に勤めていた。
以下は戦後生まれの母の記憶です。
・川崎大師で暮らした。
・横浜鶴見の洋食屋で雇われコックをしていた。かなり昔に閉店。
・「お馬の運動会」と言って、川崎競馬場に母を連れて行った。
・ネルドリップでコーヒーを淹れていたが、待ちきれずネルを握って絞り出した。
・大好物で、よく「
・肺を患って、ほとんど寝ていた。
これらの断片的な情報からハチクマを作り上げました。経歴が実際とは異なり、昭和8年当時で20歳そこそこと若くしたのは、殿下のモデルである朝香宮
正彦王も、とても魅力的な方です。
ちょっと話が逸れます。
歴史物の怖さでありますが、ハチクマは祖父の史実ではないんです。わからないところを創作でつないだ「物語」なんです。
食堂車、列車を襲ったトラブルの数々。ピンチを招き、救った料理の数々。時代の波に呑まれた人々の思い……。
もちろん調べた上で書いていますが創作です。本当にあったか、わかりません。なかった、とも断言出来ません。
これが歴史・時代小説の怖さです。創作を史実と捉えられ、事実が判明して覆る。
だから歴史の授業が嫌いだ、という方もいらっしゃいますね。勉強したことが覆るのは、確かにガッカリしますよね。
しかし私は、創作に導ける隙間が歴史の面白さだと思います。史実にほどよい想像の余地があるからこそ、歴史物を書けるんです。
何故こういう行動に出たのだろう。敗れ去った人々は、どんな人生を歩んだのだろう。描かれなかった人々は、どう思ったのだろう。
また脱線した……いや、これは転線だ。
断片的な祖父のエピソードからキャラクターを形作るには、何で紡ぎ埋め合わせるか。
おこがましい話ですが結局、私なんです。
ハチクマ=祖父の人柄は母から聞いた話を元にしていますが、隙間や不明な点は私で埋めるしかありません。突然突飛な行動に出るところ、ちっとも威厳がなくて計算が苦手なところは、私そのままです。
料理は……物作りは好きですが、手際よくありません。こればかりは腕利きのコックだった祖父のイメージです。
あ! でも「ハヤシライス」のハヤシライスは作りました! あっさりして食感が面白く、コク少なめです。
キャラクターとは実際にせよ理想にせよ、書き手の写し鏡にて分身なんだろうなぁ、というありふれた話で締めくくりたいと思います。
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