夢みる機械
鈴音
あの時のお話
これは、むかーしむかしに滅びたひとつの国と、その国で作られた機械のお話…
「おばーちゃん!!いつものお話して!」
「いつもの…?あぁ、あのお話ね、わかったわ、ちょっと待っててね、いまアップルパイが焼けるから」
「うん!!」
ここは過去に滅んだとされる王国の跡地、建物は焼け、人々は遠くの地に逃げ、ここにあるのは過去の繁栄を想起するような森の木々だけです。そんな森の中に、ぽつんとすこし寂しげな家がたっています。
「はぁい、パイが焼けたよー」
「やったぁ!!おばーちゃんのパイ大好き!」
「ふふふ、そう言ってくれると嬉しいわぁ」
「いただきまーす!!」
「はい、めしあがれー」
その家に住むのは、元気いっぱいで若々しいおばあちゃんで、たまに森の外の街に住む一人の女の子がおばあちゃんに荷物を届けるのと一緒に、遊びに来るのでした。
「ん…おばーちゃん!それじゃあお話聞かせて!」
「はいはい、このお話を好きだって言ってくれるのはあなただけだったわねぇ…」
「えぇー?この話の良さがわかんないなんて、つまらない人もいるんだなぁ」
「ふふ、まあどんなお話も人を選ぶからね、それじゃ、始めるよ」
「うん!!」
むかーしむかしのこの辺りには、とっても繁栄したひとつの王国がありました。その国はとっても便利な機械と、優しい王様がみんなを支え、人々も機械に全てを任せず、自分たちでできることは積極的にやろうと、そうして手を取り合って生活していました。
人々は傷つき、汚れた機械を磨いてピカピカにし、機械はそうして自分たちを気遣ってくれる人々のために、辛くて大変な仕事を頑張りました。機械たちは、痛みや、寒さや、暑さを感じなくても、心があり、人々の温かさで、いつまでも頑張り続けてくれました。
そして、この国を語る上で忘れられないのは、みんなを守り、国をまとめあげた、王様です。王様は、この国で初めて心を持つ機械を作り、人々と機械に、共に助け合い、仲間としてこの国で生きようと言い、人々も、機械達もその王様がとっても大好きでした。
ですが、そんなある日のこと、一人の機械は思いました。
(私達は…なんで人間じゃないんだろう)
その機械は、子供たちを家族から預かり、仕事で忙しい人のために子供が立派に育つよう、一生懸命に働いていました。しかし、その機械は、そんなふうに考えてしまい、ついには、王様にその疑問をぶつけてしまいました。
「王様、王様、私はなんで、人ではなく、機械なのですか?」
王様は、答えました。
「それはな、それは、私が人を作ることが出来ないからだ」
「人を作れない?私たちを作れたのに?」
「そうだ、私は完璧ではない、私が作れるのは、暖かい心を持つ、冷たい機械の体だけだ」
その機械は、王様のその答えを聞き、酷く悲しみました。
(私は、人になれない、子供たちのお世話しかできない、ただの機械なんだ)
しかし、機械は、悲しむことしか出来ませんでした。人になれなかったこと、それ以上に人を愛していたからです。
人になりたかった機械が、流すことの出来ない涙に溺れる中、王様もまた、頭を悩ませていました。
(私は、今のままじゃ、みんなを幸せにできない、守ることが出来ない…)
王様の仕事は、壊れてしまった機械を治すこと、この仕事は王様にしかできないことでした、そして、あの機械の言葉は、王様が集中して仕事が出来なくなるほど、深く深く、心を沈ませてしまいました。
そうして、王様と機械は、その思いにどんどん心を蝕まれ、いつもの仕事にも手がつかず、休むことが多くなってしまい、国内の異変に気づくことが出来ませんでした。
王様が、機会を作ることしか出来ないと、改めて思い知らされたその後から、少しづつ国内の機械はおかしくなってしまいました。あるものは悪さをする人を叱れず、あるものは泣く人に声をかけられず、また、ある機械は人の食べ物を無理やり食べようとし、そのからだを壊してしまう。そんなことまで起きてしまいました。
人々も、だんだんその異常に気づき、機械を止めようとしましたが、機械を触り、いじることが出来るのは王様だけ、でも、王様は最近休みがちで、機械を止めることができません。そして、ついに事件は起きました。
ひとつの機械が、家族のためにご飯作ろうと、火をつけたところで、彼は、その火に自ら飛び込み、そして、ついにはその家に、火がついてしまいました。
その家から広がった火は、ほかの家々も巻き込んで火の粉を増し、その熱で、おかしくなっていなかった機械も狂い始め、ついには国が全て、焼けてしまいました。
王様は、日に日に重くなるその身を引きずり、国民を逃がすために駆けずり回り、人間になりたかった機械は、泣き叫ぶ子供達を抱え、国の外へ向かい…
その国に残ったのは、いくつもの焼け焦げ、溶けた機械たちの残骸のみ、人間になりたかった機械は、子供たちを助けた、唯一の生き残りの機械ではありましたが、人々は機械を恐れ、彼を眠らせてしまいました。
「…そして、その機械の体は、彼らがまた新しい国を作るための、礎となって、今も私たちの国を、守っているのです。おしまい」
「おばーちゃん、いっつも思うけど、これは本当のお話なの?」
「そうだよー、だって、私はこの事件を、間近で見て、だからこそ、こんなところで暮らしているんだからね」
「へぇー…だからそんなに詳しいんだ!
あ!あと、王様はどこに行ったの?」
「んー?王様はね、今もこの国のどこかにいるかも、って話だよ」
「そうなの!?じゃあ、見つけたらお話聞かせてくれるかな!」
「そうだねぇ、きっと、話してくれると思うよ」
…人間になりたいと、夢見た機械は最後まで人の為にと生き、王様も、そんな彼女をまた、人間にしてあげるためにはどうすればいいのか、今もこの国で、考えているようです。
夢みる機械 鈴音 @mesolem
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