第1話 夢のチケット

「…と、えと、絵都!おい、聞いているのか?」

はっと僕の意識が現実に引き戻される。

わりぃ、聞いてなかった。

「お前、コンクールの締め切りがいくら近いからといったってそう根を詰める必要はないいんじゃないか?」

そう。作曲コンクールまであと3ヵ月。このコンクールで受賞できれば、僕は晴れて立派な作曲家の仲間入りとなる。ただ、困ったことにアイデアが全く浮かばない。どんな曲にするか、方向性すら決まってない。この時期にその状況はかなりやばい。このコンクールを諦めて、次に向けて頑張るのが妥当だろう。しかも僕の作る曲はクラシック音楽。このご時世にクラシック音楽の作曲家になるだなんて、狭き門である。ただ、僕は諦めることはできなかった。次のコンクールの時点では、僕は大学を卒業している。僕は卒業までに受賞し、作曲家デビューする、という約束で親に学費を払ってもらってる。もし、受賞できなければ僕は卒業後、音楽とは全く関係のない企業に勤め学費も親に返すことになっている。それだけはなんとしても避けなければいけない。

玲音れお、僕が今どんな状況なのかわかるだろ?僕はこのコンクールに懸けるしかないんだよ!」

ちょっときつい口調になってしまった。玲音は音大に入学してからできた1番の大親友で、バイオリンがとても上手い。ただ、彼の家はお世辞にも裕福とは言い難く、学費を稼ぐためいくつものバイトを掛け持ちしている。

「だからといって、ずっと難しい顔で考えてもいいアイデアは浮かんでこないぞ。」

…確かにそうかもしれない。じゃあ、どうすれば?

「じゃじゃーん!これ、何だと思う?」

そう言って取り出したのは

「これ、今話題の播磨純はりますみが主役のオペラのチケットじゃないか!しかも、SS席だと!?」

播磨純は世界的に有名なソプラノ歌手で年齢はなんと、僕と同じ22歳!若くして世界で活躍する彼女の歌は前から一度、生で聴いてみたいと思っていた。

「これで気分転換するといい。今の君に必要なのは気分転換さ!」

確かにそうかもしれない。ただ、このチケットはどうやって手に入れたんだ?

「これは君のためだけに用意したんだよ。僕はついこの間プロデビューすることが決まってね。その時にこのチケットをもらったんだ。ただ、これは僕より君が観たほうがいいと思ってね。」

「…本当にいいのか?」

「もちろん!ただ、急がないと公演終了間近なんだ。僕は日程的にも行けなさそうだからというのもあって君に譲ろうと思ったんだ。」

僕はなんと良い友を持ったのだろう。この恩は一生忘れない。絶対に。

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幻想 皐月ゆず @satsuki_yuzu

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