ワスレナグサ

シオン

ワスレナグサ

 教室では数人のグループを作って机を囲んでいた。箸を持つ者もいればパンを片手にしている者もいる。要は今はお昼休みで皆でご飯を食べていた。

 私の目の前にはパンにかじりついている女の子が一人。名前は丹内 明日香。天真爛漫で一緒にいて楽しい友人だ。

「ゆーちゃんお弁当食べないの?」

「うん……食べるよ」

 ゆーちゃんと呼ばれた私は力無く笑う。今の私にとって、この子だけが唯一の友人だったりする。


 以前から明日香は女子グループからいじめを受けていた。性格は明るく男女分け隔てなく接して、人気者だった。しかしそれは男子限定の話だった。

 距離の近い彼女は多くの男子を大いに勘違いさせた。それが女子には気に入らなかったらしく、そしてカースト上位の女子の彼氏が明日香と仲良くなったことがいじめへと発展させた。

 彼女達は明日香を無視したり、意地の悪い攻撃的な言葉をぶつけてきた。続いて人格攻撃などのモラルハラスメント、明日香の風評被害を広げるなどして徹底的に明日香を追い詰めた。日に日に彼女から笑顔は消えて、居場所も奪われていった。


 そして私は何を思ったのか、彼女に声をかけてしまった。クラスの女子は主犯を除き明日香を無視した。この集団で悪目立ちしたくない、自分も標的にされたくない。皆そうだった。私もそうだった。

 しかし、あるとき思ったのだ。これでいいのか。大勢の人間がよってたかった個人を迫害する。そんなことがこの日本であっていいのかと。つまり私はちっぽけな正義感と大いなる勇気で彼女に手を差し伸べたのだ。


 今思えばただ一時のテンションに身を任せただけで、結果何も変わらず、私もシカト対象に追加されただけだった。今更後悔しても遅かった。


 しかしクラスとの繋がりと引き換えに私は明日香と仲良くなった。いや、私は仲良くなったつもりはない。勝手に向こうが懐いてきて、私は彼女以外に話す相手がいなくなったので彼女とつるむしかなくなっただけだ。

 明日香は美味しそうにパンを食べている。この子はこれで良いのだろうか?私しか相手してもらえず、ずっと一人で残りの学校生活を過ごさないといけないなんて。

 なんで無邪気なこの子が悪意のある人に迫害されて縮こまって生きないといけないんだろう。

「ねぇゆーちゃん」

 彼女は笑いかけてくる。私は返事をする。

「明日は学校サボって遊びに行こうよ。二人だけで、楽しくさ」

「……うん、それがいいね」

 私は笑った。そうだね。一人なのは私も一緒だ。なら、二人でいた方が寂しさも紛れるかな。


 私は自分の弁当に手をつけた。明日は学校に行かなくていいと思うと、少し心が軽くなった気がした。

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