29 御者のホースメン
29 御者のホースメン
その後、エイトさんがアウトゾンデルックに行くというので、流れ的に僕を含めた他のメンバーも一緒に行くことになる。
レインさんとママリアさんは装備を整えるための時間が欲しいということだったので、待っている間、僕もギルドから大きなリュックサックを借りて必要になりそうなものを中に詰めた。
エントランスにあるソファスペースで落ち合って、いよいよ出発。
両開きの玄関扉をエイトさんが両手でずばんと押し開き、広々としたポーチに歩み出た。
屋敷は小高い丘の上の頂上に建っているようで、まわりは森が切り開かれた平原になっており見張らしがいい。
見上げると暗雲、その下には世界でいちばん大きな文字が浮いていた。
アウトゾンデルック
フロア1 ルーム2 デンテス
あと4日11時間02分
さらに視線を落として目の前の平原を見渡すと、中庭を兼ねた訓練場があった。
基礎体力を鍛えるためのアスレチック、剣術練習用の人形、弓術や魔術の練習用の的などが設置されている。
「さすがSSSランクギルドだけあって、設備がしっかりしてるなぁ……!」
珍しくてついキョロキョロあたりを見回していると、大型の馬車が土煙をあげながら走ってくるのが目に入る。
その馬車は僕がいままで見たなかでいちばん大きく、家に車輪が付いているのかと錯覚しそうになるほどだった。
家を牽引しているのは大柄でたくましい身体つきの4頭の馬で、あれならどんな所でも走っていけそうだなと思う。
しかし、見物できたのはそこまでだった。
その馬車は猛スピードのうえに、僕らの近くまで来ているのにぜんぜん減速する気配がない。
僕は危機感に煽り立てられていたけど、他のメンバーは対岸の暴れ馬でも眺めているかのように平然としている。
「に……逃げ……! うわぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?!?」
馬車は僕の悲鳴とともにドリフトをかます。
横滑りする家は砂嵐を巻き起こすほどのすさまじい勢いがあり、まるで家が台風で吹き飛ばされているみたいだった。
やがて馬車は僕らの目の前ピッタリに横付けして停まったんだけど、勢いあまって家の扉は全開になっていて、さらにいまにもこちらに倒れてきそうなほどの片輪になっていた。
僕は今度こそヤバいと思ったんだけど、他のメンバーは隣国の地震を双眼鏡で眺めているかのように平然としている。
「た……倒れ……! うわぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?!?」
しかし馬車はギリギリで体勢を立て直し、ガッシャンと揺れながら四輪に戻っていた。
それがショーの始まりであるかのように、威勢のいい声がする。
「ホースメンのクエスト直行便、ただいま到着っ! 命の惜しくないヤツは乗った乗ったぁ!」
馬車の先頭にある御者席には、いかにもカウボーイといったいでたちの男の人がいた。
どうやら、この馬車でアウトゾンデルックまで連れて行ってもらえるらしい。
さすがSSSランクギルド、至れり尽くせりだ。
エイトさんとシトラスさんとレインさんはさっさと馬車に乗り込む。
ママリアさんはホースメンさんにきちんと頭を下げるどころか、馬たちにまで挨拶をしていた。
僕はめずらしくてつい馬車をあちこち見回していたんだけど、エイトさんにどやしつけられて慌てて馬車に飛び乗る。
馬車の中は、豪華な冒険者控室のようになっていた。
武器のメンテナンスルームやアイテム庫、食事が取れるスペースなどが完備されており、さらには簡易シャワーやベッドまである。
グッドマックスにもいちおう馬車はあったけど、僕らザコは乗せてもらえなくて徒歩だった。
それどころか馬がわりにさせられることもあって、冒険者の乗る馬車を引っ張ったこともある。
少しでもへばろうものならムチで叩かれ、目的地に着くまでに傷だらけになったものだ。
だからこんなちゃんとした馬車に、ちゃんと乗るのは生まれて初めてのこと。
出発してからの道中があまりにも快適だったので、僕は感激っぱなしで、みんなから笑われてしまった。
アウトゾンデルックはかなり近い場所にあるらしく、さらにパワフルな馬車のおかげで30分足らずで着いた。
聞くところによるとクリアスカイの本拠地となっている屋敷は、アウトゾンデルックの場所に合わせて借りたものらしい。
そして僕は伝説の
最初に入ったのは裏口からだったし、出るときは気絶していたから、ちゃんと入るのはこれが初めてのことだ。
アウトゾンデルックは魔王の第2の根城とも呼ばれているので、魔王城のように見るからに禍々しい外見をしているのだろうと思ったんだけど、岩山の中腹にあるごくごく普通の洞窟だった。
そういえば聞いたことがある。
アウトゾンデルックは新たに生まれるものではなく、この世界のどこかにある洞窟の入口を借り、異次元に繋がっているのだと。
今回はこのなんの変哲もない岩山の洞窟が、アウトゾンデルックとして選ばれたというわけだ。
洞窟のまわりの土地は整備されており、軍隊のキャンプのようになっていた。
誤って入ってしまうことを防ぐためなのか、それともモンスターが出てくるのを防ぐためなのか、兵士らしき人たちが大勢いる。
僕らの乗っている馬車がキャンプに入っていくと、兵士の間に明らかな緊張が走った。
馬車のまわりに集まってきて直立不動になり、エイトさんたちが馬車を降りると一斉に敬礼をする。
そうだ、なんたってみんなは魔王を倒したというSSSランクギルドの冒険者なんだ。
屋敷のなかではみんなフランクな感じだったので忘れていたけど、世間一般では世界を救った勇者なんだ。
僕はいまさらながらに場違い感というか、居心地の悪さをのようなものを感じてしまう。
そのせいかちょっと緊張しちゃったんだけど、他のメンバーはいつもと変わりがないようだった。
兵士が一列にならんだ花道を、エイトさんはスラム街のボスのように堂々と歩いていく。
シトラスさんは「初めてかい? 力抜いて、ねっ?」とフリンジのリボンで兵士のお尻を撫でたりしていた。
レインさんは無反応で、ママリアさんは「お疲れ様です」と周囲に頭を下げている。
僕はそのあとを、黙ったままついていく。
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