28 作戦会議1-2
28 作戦会議1-2
「いえ、話としてはこれで終わりですよ」「なんだとぉ!?」
胸ぐらを掴もうとするエイトさんを、ロートルフさんはするりとかわす。
「ああ、もう一点ありました。フロア2からは、さらに心を砕きにくるらしいです」
ロートルフさんは急に神妙な面持ちになり、メンバーひとりひとりの顔を見ながら続けた。
「ある国の、アウトゾンデルック攻略に関する極秘資料の一部を目にしたんですよ。フロア2の攻略にあたった兵士たちは身体の負傷よりも、心の負傷を訴える者が多くいたそうです。新兵が初めての戦場などで心的外傷を患うことがありますが、歴戦の者たちですらアウトゾンデルックには正気を奪われてしまうそうです」
「心的外傷には、治癒やポーションが通用しません……」と不安そうなママリアさん。
「ええ、それらも厄介な点ですね。さらに極秘資料には、フロア2に挑んだ兵士たちは、自ら命を絶つ者や、仲間を襲う者が後をたたなかったと書かれていました」
「へぇ、なんか楽しそう。自殺とか仲間割れとかっていいよねっ、なんかドロドロしててさ」とお気楽なシトラスさん。
「どちらもいいものではないと思うんですけどねぇ。いずれにしてもフロア2以降、アウトゾンデルックは肉体だけでなく精神にも攻撃を仕掛けてくると思ってください。原因がわかれば対処のしようはあると思いますので、少しでも違和感を感じたら深入りはせず、すぐに引き返して戻ってくるようにしてくださいね」
「わかった。自殺も仲間割れも、俺がさせない」と静かなる闘志を燃やすレインさん。
「ってかそんなクソメンタル野郎がいたら、俺様が速攻でぶちのめしてやるよ」
エイトさんはもう話はすんだとばかりに、手と犬耳をパタパタさせながら会議室から出ていこうとする。
シトラスさんは「でもエイトってば、俺たちに攻撃できないじゃん」とからかいながら後を追っていた。
「あ、待ってください、最後にもうひとつ……」
「「まだなにかあんのかよ!?」」
同時に振り返ったエイトさんとシトラスさんに「経験値の分配はすんでますか?」とロートルフさん。
その指摘に、エイトさんは「あ」と革ジャンのポケットに手を突っ込む。
取りだしたのは、青く光る水晶瓶だった。
あれは『エクスペリエンスボトル』。
モンスターを倒すと、ドロップアイテムとしてモンスターに応じた素材が拾えるほかに、レベルアップに必要な『経験値』というものが得られる。
ギルドに所属している冒険者の場合、
その後、ギルド長立ち会いのもと、探索での活躍の度合を加味し、メンバーに経験値を分配するんだ。
エイトさんはさも面倒くさそうに、頭をボリボリ掻いていた。
「ったく、分配なんてうざってぇなぁ。ぜんぶ早いもの勝ちでいいじゃねぇかよ」
「バカだねぇ。そんなことしたら前衛職のエイトや俺が独り占めできちゃうじゃん。もっとも、エイトもいっこも取れないと思うけど」
「なんだとぉ!? じゃあいまここで中身をぶちまけてやっから、試してみるかぁ!?」
「おふたりとも、おやめください。あの時はみんなでがんばったことですし、早くアウトゾンデルックに向かいたいのでしたら、今回の分配は均等ということにしてはいかがですか?」
平等の女神みたいなママリアさんの提案により、エクスペリエンスボトルの中身は均等に分け合うことになった。
エイトさんはボトルを開栓すると、目分量でみんなの手に経験値の素である光のしずくを注いでいる。
僕はその様子を、他人事のように見ていたんだけど、エイトさんは最後に僕の前にやってきて、
「ほらよ、ちっと多めだけど、残りはぜんぶテメェにやるよ」
僕の頭上で、エイトさんは瓶をひっくり返していた。
「僕も?」と返す間もなく頭に光のしずくが降り注ぎ、宙に浮くほどの高揚感を味わう。
「う……うそ……!? な、なに、この感じ……!? ち……力が、メキメキと……!」
レベルが1アップすると、頭のなかで祝福の鐘の音が1回だけ鳴る。
しかしいま僕の頭のなかでは、まるで鐘突き堂にいたずらっ子が忍び込んだかのように、リンゴンリンゴン鳴り止まなかった。
やがて目の前に、黄金の数字が浮かび上がる。
レベル 16 ⇒ 516
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
500ものレベルアップに、僕は思わず絶叫する。
僕だけじゃなく、その場にいたレインさん以外の全員が、口をあんぐりさせていた。
ママリアさんは育ちがいいのか、開いた口を両手で押えて上品に驚いている。
「ぼ……ボンドさんって、レベル……16……だったのですか……!?」
「マジかよっ!? レベル16って、俺様がクソ赤ん坊の頃のレベルじゃねーか!」
「たったのレベル16で、ステータスが倍になるエンチャントをしてたなんて、ヤバくない!?」
「おやおや、クリアスカイの冒険者のレベルは最低でも1000なんですけど……ちょっと早まっちゃいましたかねぇ」
レインさんは無表情のまま「守れるかな」とつぶやく。
僕はレベル500オーバーしたことに驚いていたんだけど、みんなは逆に僕のレベルの低さに驚いているようだった。
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