24 クリアスカイに入りたい
24 クリアスカイに入りたい
「……で……できた……! ダマスカスソード……! 一点の曇りもねぇ、完璧なヤツが……!」
まわりにいた職人たちはやりきった表情で剣を見上げていたが、やがて次々と崩れ落ち、そのまま眠りに落ちていく。
親方は、剣を掲げたま鼻ちょうちんを膨らませていた。
エイトさんもドラムに突っ伏すように大いびきをかき、その足元ではシトラスさんが丸まっている。
レインさんはダマスカス鋼に埋もれ、心なしか幸せそうな顔で眠っていた。
たったいま出勤したのであろう、私服姿のミス・ケアレスさんが工房に入ってきて「ふわあっ!?」と飛びあがっていた。
「しゅ、集団自殺ですぅっ!?」
そんなわけはないんだけど、僕ももう疲れ果てていて、苦笑しか出てこない。
かわりにママリアさんが「おはようございます、ミス・ケアレスさん」と応対してくれた。
「みなさん徹夜仕事でお疲れみたいです。なにか掛けるものを持ってきていただけませんか?」
「か……かしこまりですぅ! 調理場に、昨日の残りのカレーが……!」
「あ、いえ、お待ちください。ごはんに掛けるものじゃなくて、お布団とかそっちの……」
ママリアさんが止めるのも聞かず、ぴゃっと工房から出ていこうとするミス・ケアレスさん。
しかしさっそくなにもないところで躓いていて、助けようとしていたママリアさんもろとも転倒。
子猫の姉妹のように、スッテンコロリンと床に転がっていた。
「す、すみませぇ~ん! 私ったらまた転んじゃいましたぁ~!」
「いいんですよ、それよりもおケガがなくて良かったです。また転んじゃうといけませんから、いっしょにお布団を取りに参りましょうか」
ふたりは手を取り合うようにして立ち上がり、仲良し姉妹のように工房を出ていく。
その背中を見送っていた僕は、いまさらながらに思い出す。
グッドマックスではギルドの冒険者と、それ以外の職員の間には大きな隔たりがあったことを。
朝、ギルドで会っても挨拶するのは職員だけで、冒険者は挨拶すら返さない。でも職員が挨拶しなかったら大変な目に遭わされる。
冒険者が職員の仕事を手伝うなんて絶対にありえない話で、職員が転んで冒険者を巻き込んだりしようものなら、職員は刺されても文句は言えなかった。
しかし、クリアスカイは違う。
職員は冒険者を想い、冒険者は職員をいたわり、支え合っている。
もちろん身分や立場の差はあるし、決して仲良しというわけじゃないけど……少なくとも、足を引っ張っりあったりなんかしてない。
そうだ、クリアスカイはひとつなんだ。
みんなで、力を合わせて戦っているんだ。
「ふぁ~あ」
気の抜けたアクビが聞こえたので見ると、いつのまにか僕のそばにはロートルフさんが立っていた。
いかにも高価そうな剣が入っていそうな、金の刺繍が施された布包みを手にしている。
しかも布包みには魔法の封印らしき羊皮紙が巻かれていたので、中に入っているのは高価どころか世界に名だたる業物なのかもしれない。
中身が気になったけど、まずは挨拶をする。
「おはようございます、ロートルフさん!」
「おはようございます。回り道はどうでしたか?」
そう言われて、僕は本来の目的であった
しかし、いますぐにでも走り出したいような焦燥感は消え失せていた。
もちろん本音を言えば、いまからでもアウトゾンデルックに飛んでいきたい。
でも大切な人を本気で助けたいのなら、そんなことをしちゃダメなんだ。
僕はロートルフさんに土下座をした。
「お願いします! 僕を、クリアスカイのザコとして働かせてください!」
「えっ、ザコですか? それは困りましたねぇ……」
ロートルフさんはしばらく悩むように呻いたあと「それは無理ですねぇ」と申し訳なさそうに漏らした。
僕は床に伏したまま打ちのめされる。
SSSランクギルドのクリアスカイは、きっとザコも超優秀なんだろう。
僕みたいなFランクを追い出されたような役立たずじゃ、試験すら受けさせてもらえないのか……!
でも、僕は食い下がった。
「お……お願いします! 荷物持ちでオトリでもなんでもします! どんな罠でも、すすんで引っかかりますから!」
「そう言われても、無理なものは無理なんですよ。ウチにはザコなんて役割はありませんから。ウチにいるのはすべて正規メンバーだけです」
「えっ……? じゃあ、荷物持ちとかオトリはどうしてるんですか?」
「荷物は自分で持ちます。冒険者たるもの、自分の荷物は自分で管理するものですからね。あとオトリは現地判断に任せていて、必要であればメンバーの誰かがやっているみたいですね」
「そ、そんな……!?」
それは僕にとって、まったくの予想外の答えだった。
それでも僕は食い下がる。
「じゃ、じゃあ……! お試しで、僕をザコとして使ってください! お役に立ってみせます! もちろん無給でかまいません! 少しの残り物さえもらえば、それで……!」
しかし、さらに想像を絶する言葉がロートルフさんの口から放たれた。
「う~ん、困りましたねぇ……。さっき廊下でミス・ケアレスさんとすれ違ったとき、ボンドくんを正規メンバーに登録するように頼んでおいたんですけど……」
「ええっ!? ぼ……僕を、正規メンバーに……!?」
「はい。でも取り消したほうが良さそうですねぇ。そこまでザコがやりたいのであれば……」
「いっ、いいえ! せ……正規メンバーでいいです! で……でも、本当に……本当に、いいんですか!? 普通は、試験とかあるんじゃ……!?」
僕はとうてい信じられなかった。
Fランクギルドですら正規メンバーになれなかった僕が、SSSランクギルドに入れるなんて……!
僕はすっかり震えていたけど、ロートルフさんは孫狼を見るおじいちゃん狼のように穏やかな表情。
おじいちゃん狼は、僕のまわりで倒れているギルド員たちを見回していた。
「試験なんていりませんよ。ボンドくんが認められたことは、みんなの寝顔を見てればわかります」
ふとエイトさんが寝返りを打ち、ドラムから落ちて僕のそばにゴロンと転がる。
口をむにゃむにゃさせながら、寝言をつぶやいていた。
「よし……ボンド……俺様にエンチャントだ……」
で、でも……それでもまだ、信じられない……。
僕は徹夜仕事で疲れていて、夢と現実の区別がつかなくなってるんじゃないかと思い、ほっぺたをつねってみた。
痛がる僕をよそに、ロートルフさんは大あくびをしながら工房から出ていこうとする。
「ふぁ~あ、私もいっしょにひと眠りしたいところですけど、そろそろ出かけないといけないんですよね。留守番よろしくお願いします」
「あ……はい、わかりました! それで、どちらへ?」
「ワールドウエイトですよ。昨日もなんやかんやあって呼び出しをすっぽかしちゃったんですよね。とうとう軍隊まで来ちゃったんで、そろそろ行ったほうがいいいかなと思いまして」
「え……ええっ!? まだ行ってなかったんですかぁ~~~~っ!?!?」
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