5話 国王殺害事件の全貌
物語は8年前に遡る――
――レグニア王国王城。
その日はやけに暑く、じめじめとした気持ち悪い空気が漂う日だった。
「外はあんなに暑いのにここは丁度いい温度……。いやぁ〜流石王城だな! なぁケイ」
「そうだなーうん。すごいなー」
「おいおいおい! なんだその面倒くさそうな態度は」
「お前が転移魔法使えばここまで来るのに苦労しなかったのになー」
「ははは。そんな魔法使ったらすぐ体力がなくなっちゃうだろうが。体力を消耗して、いざというときどうするんだい? 全く。バカかいケ、イ、く、ん?」
「黙れ!! 消耗してんなら俺が守ってやんだよ!!」
「あっ、そ、そう……」
二人して足音一つない聞こえない王城で子供のように喚いたが、突然自分は何言ってんだ? と恥ずかしさに負け黙り込んでしまった。
恥ずかしく距離を取りながら歩いているその姿は、暇していた警備員達にとっていい暇つぶしになる光景だった。
「何だよあいつら。はっはっ!」
「お〜いお手て繋いで歩けるかなぁ?」
「…………こっち来いよ。笑われてんだろ」
ケイはレンに命令され反射的に突っぱねようとしたが、周りからの視線を気にしていたので何も言わず、元の位置に戻った。
おっ仲直りしたか? と警備員達がほっと肩をおろしていたのは、当の二人には伝わることはない。
「なぁ今更だが、ここに招待されるのなんて俺ら凄ぇよな」
「そりゃあ一国の象徴でもある王城に招待されたんだから凄いに決まってるだろ」
「いやいや……そんなことわかるんだけどさ。ほら、こういう国から呼ばれるのって俺たちみたいな半端な奴じゃなくて勇者アルキドルとか、豪傑のガズとかそっち系の人達が呼ばれるもんだと思ってたからさ」
「……そう考えるとなんで呼ばれたのか不思議だな。他の人と比べ、これといった偉業を成し遂げたわけじゃないしな」
ケイの疑問にレンは深く首を縦に振った。
「だろだろ? まぁけど、俺が世界一の魔法使いってようやく世間が認め始めた証拠なのかっな!」
「いやお前昨日俺の精神魔法をもろに食らって、ピザゴミ箱に捨ててただろ」
「は? なにそれ聞いてないんだけど」
「教えてないんだから知ってるはずもないだろ」
「ふざっ……」
「レン。丁度王室に着いたぞ」
「丁度じゃねぇわ」
レンは初対面である王様の前では、いい感じの男を演じたいと思っていたのて深呼吸をして喉の調子を整えた。
なんで呼ばれたのか考えないようにしてたけど、俺のことを呼ぶだなんて嫌な予感しかしない。
そう考えていたのはレンだけではない。
隣で髪の毛を整えているケイも、なにか悪いことでもしちゃったのかな……? と、不安で仕方なかった。
「よし。行こ」
「あぁ」
二人とも心の中にもやもやを抱えながら、歯を食いしばり満を持して部屋の中に入った。
「ズズズ……。おぉ〜。この奥深い味わい、飲んだあともなお続く紅茶の風味、そしてなにより、不快に思わない程度の上品な香り。……流石国王様。ここまでいいものは初めてでございます」
「いやそれ繁華街で適当に買わせたやつだから」
ドカーン! と紅茶をこぼさないように頭を机に叩きつけたのは他でもない、長ったらしくそれらしい嘘を並べていたがそれがすべて嘘だと一瞬で見破られたレンだ。
「馬鹿が気に入られたいからって嘘つくからこういうことになるんだ」
「うっせぇな。俺の中じゃこの紅茶は凄いんだよ。凄い」
「じゃあどこがどう凄いのか100文字以上150文字以内で表してみろ」
「何だよさっきから。いちいち突っかかってくんじゃねぇよ! 国王様の前だろうが!」
「ふっ。そんなだからお前はいつもアルキドル達から面倒がられてるんだぞ」
「え、え、そ、そうなの?」
「あぁ」
「え、あ、し、知らなかった……」
「はっはっはっ!!」
レンが衝撃の事実を目の当たりにし落ち込んでいる最中、国王は空気を読まず大爆笑した。
「いやいや笑ってすまないね。君達のことは風の噂で度々耳に入ってきていたけど、まさかここまで面白いとは思わなかった……。一国の王の前で言い合いを始めたのなんて、君達が初めてだよ」
笑いを堪えながら話しているがレンとケイには、舐めてんじゃねぇぞこの野郎!! と言われているとしか捉えることができなかった。
やべぇ。
このままじゃ首チョンパされちゃうよ……。
「ごめ……」
「と、まぁそんなことはどうでもいい」
謝ろうとしたら遮られた。
先程までにこやかな顔で笑っていた国王の顔が引き締まり、一瞬で空気が緊張で包まれた。
「んん。早速本題に入るのだが……我のことを殺してくれんか?」
何言ってんだこの人。
もしかして初対面の俺達のことを試しているのか……?
国王様の顔を伺うことしかできないレンとは逆に、ケイが口を開いた。
「それは具体的にどういうことですか? こんなこと国王様に言うのは間違っていると思うんですけど……。死にてぇんなら自殺しろよ」
「いやいやいや。そういうんじゃなくて。この聞いた誰もが涙する悲劇を話すには、2年前。まだ我が何も知らなかった頃に遡る……」
「簡潔にお願いします」
「あ、はい。えっと、2年前アーツという男に呪いをかけられちゃって、それを解呪するには他人に殺されないといけなくて、うむ。そんな感じだ」
何やら凄いことを語ろうとしていたのに、ケイに止められてあっさり言いなりになって……。
それでいいのか国王。
「なるほど。呼び出した理由はなんとなくわかった。どうするレン?」
「え? ん? あ。えっと……俺達はこれから人を助ける仕事をしようとしてるから、最初の客としていいんじゃない? 殺すのは嫌だけど」
「助ける? ある地域では歩く災害という異名で呼ばれ恐れられている君達が?」
「あのね、国王様。人っていうのは成長するもんなんだ。その証拠に数年前魔法の開発のため一国を滅ぼした俺が王城に呼ばれるまでになってるしなっ!」
「呼んだの我だけど」
「それは知らん」
この国王、ちょっと話してみてわかったんだが死を全く恐れていない。
表情、目の動き、声の音程、体を動かす動作。そのすべてが人間の素の動き。
まるで人間に忠実に作られたロボットのようだ。
「あっ、そうだ。もし本当に君たちが助ける仕事をするのなら一つ頼まれてくれないか?」
「内容と金次第だが……」
「我は王だ。金など心配する必要などない。肝心の内容なのだが……。――世界屈指の魔法使いの二人に、世界を救ってほしい」
「やべ。言い忘れてたんだけど、俺達が救うのは100じゃなくて1の方なんだ。悪いがそういう話は勇者あたりにしてくれ」
「世界を救うという突拍子もない言葉に困惑するもの無理がない。だが、我が頼むのは単純明快! その有り余る魔法の力で世界に恵みを与えてほしいという、どこぞの物語みたいに魔王を倒してこいとかいう、無茶なことじゃないぞ」
ダメだ。
この爺さん聞く耳持ってねぇ。
「はいはいわかりました……。その世界を救うっつうのはいつか必ずするから、呪いの方進めていい?」
「うむ。よかろう」
なんで「よかろう」だけちょっとダンディな声なんだよ。絶対王の中で決め台詞にしてるじゃん。
「おいレン。どうするつもりだ?」
レンが頭の中で長々と国王にツッコミを入れていると、一切動かないことを心配したケイが声をかけた。
初めての仕事なんだからちゃんとしないと……。
パシッとほっぺたを叩いて気合を入れた。
「そうだな。多分、こいつの殺したら発動する系の呪いは大体魂に呪いの元凶となる刻みがあるはずだ。だからまずそれを確認したいんだけど……。ケイ、いけるか?」
「もちろん」
ケイは刻みを魂に確認するため、国王が認識できないほどのスピードで精神を乗っ取った。
ガクンと体から力が抜け、直後意味がわからず立ち上がる姿は誰が見ても滑稽に思えるだろう。
「確かに魂の奥底に刻みを確認できた……。けど、これはレン。お前の魔法の腕があったとしてもどうしようもできない」
「どうなってんだ?」
「魂が無いんだよ。こいつは」
「え?」
レンは思ってもいない言葉に、驚きを隠せなかった。
「正確に言うと、元の魂の形がないんだ。形は人工物。中は本物にめちゃくちゃ似ている魂、って言ったところだな。……どうする? こんな代物、お前の手に余るぞ」
ケイは国王が動揺することを避けてか、小声で聞いてきた。
手に余るのなんて最初から覚悟はしている。
もし失敗してしまったら……と、最悪の場合を想定し顔が真っ青になったレンだがグッと奥歯を噛み締め、俺ならやれる、と何度も心のなかで唱え、顔色はもとに戻った。
「これは初仕事だ。最初から仕事を放り投げることなんて、そんなことしねぇよ。バチッと解呪していいスタートを決めてやるぜっとストリーム」
「その語尾クソダサいからかな」
レンは何を言っているのかわからずおどおどしている国王の前で足を止まった。
魂の刻みを解呪する、か……。
こりゃもし失敗したら国王殺害の罪で死刑になんじゃねぇの?
最初の仕事がこんなヤバいやつだなんて最悪だわ。
「我のこと殺さずに助けると、君は本当にそうするつもりか?」
「あぁ。人を殺すのなんてもう懲り懲りだからな。殺した後のあの虚無感と言ったら、もう最悪だぜ?」
「ふぅ〜ん。そうなのか」
「そうなんだよ」
ざっと外から見た感じ、直接魔法を使っても問題なさそうだ。
流石国王様と言うべきなのか。
それとも不用心と言うべきなのか。
面倒くさいから何とも言わなくていいや。
「はい。まぁ、じゃあこれから刻み取るわ。先に言っとくが、もし体に違和感があっても拒否するんなよ。それ俺の魔法だから」
「う〜む。どんと来い!」
レンは国王の言葉を聞いて、丁度昨日完成した魂専用の魔法を放った。
たまたま昨日気分で創った魔法がこんなところで役に立つなんて、運命っていう言葉を信じるのならそれ以外考えられない……。
いやもっと明るい路線の方がいいか?
と、そんなふうに新しいポエムを考えながら放つ数本の帯状の魔法は、にゅるにゅると何の障害に当たることなく魂を包み込むことに成功した。
したが、レンの顔は曇った。
「なんだこの歪な刻みは……。ていうか、こいつの魂生きてんのか?」
「そりゃさっき精神に乗り移ることができたんだから、生きてるに決まってるじゃないか? ちょっと国王様? この馬鹿になんか言ってやってくださいよ」
「…………」
ケイの言葉に、国王は返事をせず体一つ動かさなかった。
「こいつ死んでるぞ。いや、でも魂が……」
レンはらしくもなく冷静に事を分析していた。
それもこれも、最初から感じていた違和感を払拭するため。
魂の内部構造、肉体的疲労の分析などなど。
今使うことができる、ありとあらゆる魔法を駆使した結果ある一つの結論に至った。
「国王が死んだのは約2年前。どんな死に方をしたのかは知らねぇが、一瞬でズガーンってやられてる。あと俺達が今喋ってたのは亡霊とかじゃなくて、人工魂の中に僅かに残っていた国王本人に間違いない」
「あぁ、なるほど。だから体を乗っ取れたのか」
「ま、そんなところだ。……あ〜あ。なんか面倒くさそうな奴に絡まれちゃったなぁ〜。もうこんなところ帰らね?」
「仕事はどうする」
「どうするって、んなの無理だろ。この爺さん死んでんだから。金貰えなくてなぁ〜にが仕事だ。ほら帰るぞ」
「そうか……。せっかくの初仕事だったのに、失敗に終わるのか。後味悪いが、お前が決めた決断だ。俺はそれに従う」
こいつ俺が食いつくことをピンポイントで言いやがる。
「はぁ。わかったわかった。世界に恵みだっけ? それをやればいいんでしょ」
「し、仕事をするのか!?」
なんだそのニートがバイトを始めようとチラシを見ているときに、たまたま鉢合わせた友達みたいなリアクション。
そんなのされると逆にやりずらいじゃん。
「するから早く帰ろうぜ」
「へーい。あ、上着忘れ……」
かくしてレン達が去った後、国王の死体が発見され、臣下や身内が悲しみ合い、悲しみ合い、悲しみ合い……少し経つと犯人探しになり、誰々が恨みを持っていたり……や、誰々が実は裏で……などと、日々様々な黒い噂が絶えなかった王城である一人の男がケイが置き忘れた上着を見つけ、二人の間に国王殺害の罪が被せられるまでそう時間はかからなかった。
遊び屋〜本気で遊ぶ楽しさ、忘れてない?〜 でずな @Dezuna
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