4話 因縁
「わぁ〜! レン様レン様! 今日はどんなお遊びをするんでしょうか?
レンは抱きつく勢いで迫ってきた少女に鼻を伸ばしそうになったが、思わず一歩後ろに下がった。
抱きつくことができず、むすぅと柔らかそうなほっぺを膨らませている紅色の鮮やかな髪の少女は、ここレグニア王国女王の一人娘、レグニア・シシルベル。
この少女とレン達は、遊び屋を始める前からのかねてからの知り合いで、王城から出ることができないシシルベルにとって唯一の友達である。
「おい。なんでよりにもよって逃げる場所に指定したのが王城なんだ。自由に転移できるんだから、ここ以外のところにしろよ」
ケイはシシルベルに聞こえないよう、レンの耳もとで囁いた。
「そりゃあもちろんここに指定したのは一番安全だからだ」
……ここは王城。
言われてみればいくらあのジジィが追いかけたくても追いかけれない場所、なのか。
ケイはレンの咄嗟の頭の切れた判断に素直に感心した。
「安全なのはわかるんだが……。ここにも他の面倒な奴らがいるだろうが」
「あぁ〜面倒なのはケイ、お前だよお前。せっかく助けてやったのにねっちねっちねっちねっち……あんたは文句しか言えないクソ人間なんですか? あぁん?」
「文句じゃなく事実を言ったまでだ」
「そうですか。事実ねぇ〜。それなら俺がここに転移したのはこれから姫様と遊ぶためだ。仕事にいちいち口出ししてくるんじゃねぇ!」
「はぁ、そう。もう好きにやってくれ。俺はここでお前達のことを眺めてることにする」
「そーしとけそーしとけ。ちょもっと後ろに行けよ。しっしっ」
レンの塩対応にムカついたが、こんなところで喧嘩を始めたときにはそれが最期だと思い、大人しく後ろに下がった。
部屋の出入り口で仁王立ちしているのは、手でリンゴを簡単に潰せそうなガタイのいいスーツ姿の男三人組。
窓が2つにベットが一つ、ソファが一つに……と部屋の中にあるもはなにも変わってないみたいだな。
「レン様! レン様!」
「わかってますよ。お姫様。ちょぉ〜っとお待ち下さい」
おかしい。
今姫様にせがまれたとき、氷の巨大な滑り台を創ろうとしたのだが……魔法が発動しなかった。
「あっ言い忘れてたのですが、以前お母様のお言葉でお部屋に魔法阻害をかけさせて頂きました」
それをもっと早く言ってくれぇ〜。
ガーンと効果音がなりそうなほど落ち込んでいるレンと対照的に、シルルベルはえへっというドジっ子のような声が出そうなほどお茶目な顔をした。
魔法が使えなくなるってなると、準備してたもの全部なくなっちゃうな……。
視線でケイに助けを求めたが、ちょっと前のことを根に持っていたらしく一瞬で断られた。
もしやこれって遊び屋史上、最もピンチな瞬間なんじゃね?
レンはようやく自分が置かれた状況に気付いた。
「おぉ〜いレン! まだかぁ〜?」
「チッ。あとちょっとかな」
「えぇ〜。このままじゃお姫様退屈しちゃうよ?」
「いえいえ! 全然退屈なんてしてませ、ふぁ〜……」
レンはこのタイミングで大胆に欠伸をする姫様のことを見て流石肝っ玉がすわってるな……と感じた。
「暇そうだし、早速始めるか!」
「も、もう新しい遊びを思いついたのですか!?」
「あぁもちろん」
嘘である。
レンは慕ってくれている姫様の信頼をなくすまいと堂々嘘をついた。
まぁ進んでいくうちに思いつくっしょ。
などという、楽観的に考えとともに。
「さてまず最初に……」
時間稼ぎのために、ソファを動かそうとしたがそのものが部屋からなくなっていた。
「あれ? ソファ、さっきここにあったよね?」
「はい。私、レン様達が来るまで寛いでいたのであったはずなんですが……。なくなってますね」
どうやらソファがなくなったのは俺の勘違いじゃないらしい。
「あれ!? ベットもなくなってます!!」
「本当だ……。ケイお前なくなったとき見てたか?」
「知ら〜ん」
全く役に立たない奴だ。
レンは奥でだらしなく座っているケイに唾を吐き、頭の中に「?」だけが残っている中、姫様の方に振り向いたが、目の前にいたのはダンディな恰好なおじさんだった。
「あぁん? なんでてめぇが……」
レンの睨みつける瞳に反応し、ニヤリと笑うその姿は、悪魔を体現するかのように邪悪で、恐怖を感じさせるものだった。
「久しぶりの再会に殺意剥き出しとは、あまり気分が優れないな」
「全く嬉しくねぇ再会だからな」
「……あの、あなた一体誰なんですか? レン様達のご友人ならば喜んで歓迎するんですけど……」
「ある意味、友人と言ってもいい仲さ。なんたって君達とは長い付き合いだからな」
「付き合いが長いからって友人になるわけねぇだろ。姫様。こいつは敵です。今すぐお逃げください!」
「て、て、て、敵!? ちょっとあなた達!」
「「はっ!!」」
姫はスカートに足を引っ掛けて、転びながらもSP達を呼んですぐさま部屋を退出した。
「お前があの子の父親を殺したというのは教えていないのだな」
目細め見下ろしてきた。
「殺したんじゃねぇっていつも言ってんだろうが!」
「レン。あまり感情的になるな。いつも言ってるだろ」
「っ……。ごめん」
少し落ち着こうかと思っていると、タイミングよくケイが前に出てくれた。
「よぉ厄介ジジィ。さっき一緒にいた新しい
「必要ない……。これは、俺とお前らの因縁だ」
「あのさ、何でもかんでもかっこいい言葉使えばいいと思ってんじゃねぇよ。あんたみたいなジジィが臭い言葉使ってると、なんかこっちが恥ずかしくなるんだわ」
「お前がどうかこ思おうが、どうでもいい。だかそうな……不快な思いにっていたのなら、それはそれで好都合だ」
先制攻撃を仕掛けたのは男の方だった。
ケイの足元めがけ放ったのは、地面から植物が生える魔法。
戦いにおいてあまり実用性のない魔法だが、これは奇襲するのに最も効果的だと言われている攻撃だ。
ケイは振りかざした手に意識が持っていかれ、一瞬で足をツタでぐるぐる巻きにされ動けなくなった。
やばいか……?
すかさず加勢しようとしたレンだが、植物の動きを見てそれは杞憂だと安堵した。
「やはり、精神攻撃に優れるお前の前にあの子達を連れてこなくて正解だった」
男が目を向ける先にあるのは、余裕の笑みを浮かべているケイと、ケイのことを守るように動いている植物達。
「こんな魔法初めて見たが、どうやら俺の前じゃ無力らしい。敵が悪かったと思うんだな。……まぁお前に、次なんて言う甘ったるい言葉なんてないが」
ケイが手を振りかざすと、守りに徹してた植物達は一転しすべて男の方へニョロニョロと向かっていった。
このままだと丸腰のジジィが死ぬ。
レンは後ろから冷静にそう判断したが、心は真逆の「ケイが死ぬ」という警告を鳴らしてきた。
魔法を操っているケイに負け筋なんて見えない。
けど、昔から俺の本能が間違ってたことなんてない。
自分を信じるか、ケイのことを信じるか……。
レンが2つの選択を強いられている中。
「ドカァン」
男がふざけた顔で指を前に向け、放った言葉。その言葉と連動するかのように、植物達がケイがいる方向から爆発を起こしていった。
レンは花火のような鼓膜が破れそうな音を直で聞き、飛び散る火の粉を避けることもせず肌に受け続けた。
爆発が止んだのは、男がふざけた言葉を放った数十秒のことだった。
「ふむ。少し爆散力が少なかったか」
煙が晴れ、相対するはレンとダンディなおじさん。
「はぁはぁ……」
「やはり生きているな」
肌の感覚がない。
体全体の感覚がない。
目が痛い。喉が痛い。耳が痛い。
こんな怪我を負うのは4年ぶりだな……。
前回と同じ、王城での怪我なんて運命感じてしまう。
「……ふむ。その息遣いを見るに君は今、爆発のど真ん中にいた男を強制転移した。どうだ? 間違ってるか?」
「黙れクソジジィ……。てめぇのせいで、服が、台無しじゃねぇか……。一張羅なんだぞ」
「それは悪いことをしてしまったのかもしれない。だがそれはこちらにも言えるセリフだ。なんせ、国王を殺したのだから」
このジジィの事が未だによくわからない。
前から俺のことを殺そうとしている理由は話の内容からするに、国王絡みのことなのだろう。
殺す理由がわかっても、わからないことがある。
「ジジィ。お前、何の組織に入ってやがる」
「知らん。そんなことどうでもいい。……今するべきは、君と私の4年前からの因縁を断ち切る殺し合いだ。そうは思わないか?」
「そんな物騒なこと思うわけねぇだろ」
はぐらかされ、話をすり替えられた。
この先は自分で調べろってか?
「まぁ君の意見など端からどうでもいい」
だったら聞くんじゃねぇよ。
「はぁ。殺し合いね」
レンはため息を吐き、脱力し面倒くさそうに男を見据えた。
外見は強者のそれだが、内心は汗ダラダラである。
もしかして、この男は最初から俺に強制転移魔法を使うように仕向け、後にする殺し合いのために体力を削ることが目的だったんじゃ……。
「殺し合いをするのに、お互いの名前を知らないなんて味が悪い。……私はバルズ。君は?」
決闘をするときのルールを持ち込むあたり、意外と律儀なやつなんだな。
「レイだ」
「はは……。4年かけようやく名前を知れた。さぁ始め……いや、違う。まだ私には知らなければならないことがある」
バルズは突然血相を変え、レイのことを睨みつけた。
「君を、殺す前に一つだけ聞きたいことがある。……それは、君が、君達が王城でまだご健在であった国王様と、何を喋っていたのか、だ。教えてくれ。それを知らなければ私は君のことを……」
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