最終話 キミのことが、好きです

 〇校舎裏(放課後、夕方)


 SE:チャイムの音。


 ◆先に待つ千夏のもとへ、キミがやってくる。



 あ、やっときた。

 遅いぞー。ずーっと待ってたんだからね?

 可愛い女の子を放置するなんてひどいヤツだなー、キミは。


 罰として、頭わしゃわしゃの刑じゃー!

 あっはっは、髪ぼっさぼさ! 風の強い日に坂道ダッシュしたみたい!


 ぬはは、ごめんってー。

 はい、鏡。身だしなみ、チェックしたまえ。


 ……ん? なんで笑ってるの?


 演技しているときよりも、素の千夏のほうが魅力的だって?


 なんだそれー。私の演技力がなかったってかー? それとも甘えんぼの彼女なんて似合わないと申すかー?


 え? 今のほうが可愛い……そ、そっか。ありがと。


 キミは……素の私のほうが好き?

 ……ほんとに? 嬉しいな、えへへ。


 ね、ねえ……今のセリフ、もう一回言ってくれない?


 い、いーじゃんかぁ! キミは気にしなくていいの!


 ……その言葉は、勇気が出るおまじないみたいなものだから。

 お願い。好きって言って?


 うん……ありがとう。

 おかげで勇気がわいてきた。


 あのさ。今日はキミに言いたいことがあって呼び出したの。

 驚かないで聞いてね。


 私、キミのことが好きなの。


 ううん、違うよ。

 これは演技じゃない。本心だよ。幼い頃から、ずっとキミが好きだったの。


 だけど、勇気が出なくてずっと言えなかった。フラれたら気まずくなって、もうキミのそばにいられなくなるかもしれない……そう考えたら、怖くなっちゃって。


 私は意気地がないから、言葉以外の方法で猛アピールしていたんだけど……キミは鈍感だから、私の気持ちに気づかなかった。


 そんなとき、キミから恋愛に関する相談を受けた。


 これはチャンスだ。この件を口実にキミをドキドキさせて、私に恋してもらおう……私はそう思った。


 でも、なかなか上手くいかなかったよね。

 それもそのはずだよ。どれだけ頑張っても、すべて『演技』なんだもん。


 あれはキミをドキドキさせようと背伸びした幻の彼女。そりゃ多少はドキドキしてくれたと思うけど、幻の女の子には恋できないよね。


 だから、もう恋人ごっこはいらない。

 キミのことをそばでずっと見てきた『本当の私』で想いをぶつけたいの。


 あらためて、告白します。


 キミのことが好きです。

 今のままじゃ嫌だから、幼馴染以上の関係になりたいです。

 恋人に、なってくれませんか?



 ◆しばらく間がある。



 ……え?

 こちらこそお願いしますって……ほんとにいいの?


 ……どどっ、どうしよう!

 すごく嬉しいけど、半信半疑でパニックなんだけどぉぉ……!


 だって、だって!


 キミは鈍感だから、私のアピールに気づいてないはずじゃ……というか、恋もしたことないんだよね? どうしてOKしてくれたの?


 気づいたって、何に?


 ……自分のために一生懸命がんばってくれる幼馴染の姿に、ドキッとした?

 明るくて健気な千夏にドキドキしている……これが恋なのかも。そう思ったの?


 な、なにさー。急にそんなこと言われたら、こっちもドキドキするじゃんか……めっちゃ嬉しいんですけど。


 あのさ……私のこと、どこが好きなの?


 ご、ごめん! なんか恥ずかしい質問しちゃったね!

 今のナシ! 忘れて!


 なっ……明るく笑顔が可愛いくて、ときどき甘えんぼなところって……ば、ばか! 恥ずかしいこと言うなし!


 うっ。まぁたしかに私が『言って』って頼んだよ?

 でも、いきなりそんな嬉しいこと言われたら、もっと好きになっちゃうじゃんか。


 んなっ……もっと好きになってほしいとか言うなぁー!


 あー、顔熱い。

 なんなの? 付き合った途端、急に惚気るのやめてくれる?


 ……え?

 わ、私もキミのこと好きなところ言わないとダメなの?


 いや、でもそういうのを女の子に言わせるのはどうかと思うなー、私は。付き合いの長いキミなら、言わなくてもわかるでしょ……はい。わっかりましたー。言いますよ。言えばいいんでしょ。


 そ、その……キミの優しいところが好きです。


 いつも私がワガママ言ったり、無茶ブリしても、キミはなんだかんだ言って付き合ってくれるでしょ?


 キミはいつも私の味方でいてくれる。

 隣で笑って私を包み込んでくれる。

 そういう優しいキミのことを好きになったの。


 キミが笑ってくれるたびに、ああ、やっぱり好きだなって。

 この人とお付き合いしたいなって。

 そんなふうに考えていましたです、はい。

 は、恥ずかしいな。あはは……。


 あれ? もしかして、照れてるー?

 ふふっ。やっぱり可愛いなぁ、キミは。


 ねえ。

 これからはさ……もっとドキドキさせてあげる。

 私のことで頭いっぱいにさせちゃうから。覚悟しておいてね?


 ……うん? もしかして、またえっちなこと考えてる?

 ふふっ。イケナイ彼氏だなー。キミも男の子なんだね。


 そういうのは、いつかまたお泊りデートしたときに……ね?


 な、なーんてね!

 ごめん、調子に乗り過ぎた! 今のは演技だから! 冗談だよ、じょーだん!


 わ、笑うなー!


 ううっ。からかうつもりだったのに墓穴を掘ってしまった……え? そういうところも可愛い? いや絶対ばかにしてるでしょ……あ、ほら! また笑った!


 んもう、キミったら……ふふっ。あはははっ!



 SE:千夏の笑い声。次第にフェードアウト。



 ねね、一緒に帰ろ?


 え、新しい格ゲー買ったの? マジかー、やるやる!

 んじゃ、今からキミの家に行こー。


 へへーん。またぼっこぼこにしちゃうからねー。

 はいはい、罰ゲームありね。いいですよ? どうせ勝つのは私ですし?

 今日は負けないって? すごい自信だなぁ。


 じゃあ、私が勝ったら……いっぱい甘えちゃおっかな。


 たくさんおねだりして、ドキドキさせちゃうから。

 私の好き好き攻撃はすごいよー?


 ふふっ。ま、キミもせいぜい頑張ってねー。


 じゃあ、行こうか。

 あ、最後にいい?


 私と付き合ってくれて……告白する勇気をくれて、ありがとう。


 キミのこと、大好きだよ。


(完)

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幼馴染の彼とあまーい恋人ごっこをする話 ~いちゃいちゃ必至のシチュエーションで迎え撃ち、恋を知らないキミを振り向かせるまで~ 上村夏樹 @montgomery

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