夜の貴族は、孤独な令嬢を愛する

ことはゆう(元藤咲一弥)

夜の貴族は、孤独な令嬢を愛する




 私は両親からの愛情を貰った記憶があまりない。

 妹が生まれてから特にそうだ。

 両親は妹ばかりを愛した、そんな私を哀れんだ祖父母は私を見てくれた。


 祖父母と両親の溝が決定的になったのは、私の婚約者を妹が奪った事。

 咎めない両親に憤る祖父母。

 家での居場所がない私は祖父母と暮らすようになった──



「クリスや、今日は夜会に行ったらどうかね? 馬鹿達は家でパーティーをしてるらしいから、会うことはないよ」

 御祖母様の言葉に、私は少し思案して頷いた。

「分かりました、御祖母様がそうおっしゃるなら」

「可哀想なクリス、馬鹿な男を紹介し、そして奪う妹ばかりを溺愛する両親、我が息子夫婦を許さないでおくれ」

「御祖母様」

「そうそう、とっておきのドレスを用意したんだ、それを着て行くといい」

 御祖母様はそう言って月色のドレスを私に見せてくださいました。

「わぁ……!」

「それを着てお行きなさい」

「はい、御祖母様」



 そして夜会、妹夫婦が普段居座っている為か居心地が少し悪かったです。

 私の悪口ばかり言っているのでしょう。

 ひそひそと話し声が聞こえ、嫌になり帰ろうかと思ったそのとき。



 真っ黒な髪に、赤い目の「夜の貴族」たる御方が私に近づいてきました。

「……あの、何でしょうか?」

「美しい」

「え?」

「クリス・エトランゼ嬢ですね。やはり実際に見て良かったと思います。今日の夜会に来てくださり感謝です」

 その御方はそう言って私の手の甲に口づけをしました。

「私の名はダリウス・エダー。クリス嬢、どうか私と婚約してください」

 信じられない言葉に、私は戸惑い、慌てて逃げてしまいました。


 どうしても、信じられなかったのです。

 その御方お言葉が。



 夜会の次の日の朝、祖母が大慌てで私を起こしました。

「御祖母様、どうしたのですか?」

「クリス! あのエダー家の嫡男が貴方を婚約者にしたいって文が来たのよ!」

 息荒げに言う御祖母様対し、私は何も言えません。

「ああ、そうよね……婚約者を奪われたんだものね……」

「……」

「でも、今回は大丈夫よ! あの人もそういってるわ!!」

「御祖父様も?」

「ええ、だから今日の夜、お招きしましょう?」

「……分かりました」

 前向きな御祖母様と異なり、私は後ろ向きのままでした。



 エミリオ・カインスト。

 婚約者として私に紹介された男。

 かわいげの無い私より妹を取った男。

 皆が妹を優先する場所。



 その時の傷がまだ、癒えてないのです。



「ようこそいらっしゃいました、ダリウス・エダー様……」

「そのように頭を下げなくても良いのです、エトランゼ殿」

 祖父に、挨拶をするあの時の御方、ダリウス様。

「改めて始めまして、クリス。私はダリウス・エダー、ダリウスと呼んでください」

「ダリウス、様」

「ああ、やはり私が見込んだ通りの人だ、君は」

 唇から「夜の貴族」たる牙が見えておりました。

 笑っておられました。

「クリス、我が血族にどうか」

「ですが、そうしたら御祖母様達が……」

「いいんだよ、クリス。幸せになっておくれ」

「そうだよ、クリス。どうか永い時を幸せに。今度こそ、幸せに」

 御祖母様と御祖父様のお言葉。



──そうよね、幸せになってもいいわよね?──



 私の心が呟く。

「ダリウス様、どうかこの身の血の一滴まで愛してください」

「勿論だとも、私の婚約者──いや、私の花嫁、私の愛しい妻」

 ダリウス様の牙が私の喉に食い込みました。





 夜会──ダリウス様とともに行くと人々は蒼白い肌の私達に驚きを隠せていないようでした。

 そう、妹夫婦も。


「初めまして、カインスト男爵殿。こちらは私の妻、クリス。美しいだろう?」

 ダリウス様がエミリオにそう挨拶しました。

 エミリオは真っ青になっています。


 だって、エミリオの家はダリウス様が事業に出資していらっしゃるのだもの。

 半分以上を。


 ダリウス様の言葉に、エミリオは顔を青ざめさせています。

 となりにいる不出来な私の妹は何が起きてるかさっぱりの状態。


 本当、馬鹿な子。


「──という訳で、カインスト男爵殿、貴殿の事業への出資は今後取りやめる、事情は他の者たちにも説明済みだから探すのが大変だろうが頑張ってくれ給え!」

「そ、そんな!」

「あなたぁ、私の家の資産ではダメなの?」

「不可能よ、マリアンヌ」

 私がきっぱりと言います。

「だって、貴方の家の財産のほとんどは、私が継いだのだもの。お父様は名ばかりの男爵殿、せいぜい仲良くするのね?」

「おねぇさま、ひどいわ。私が何をしたっていうの?」

「何をした? 貴方達は私に何をしたのか何も分かってなかったのね」

 私は鼻で妹を笑います。

「貴方様、行きましょう。こんな愚者達と付き合ってる暇はありませんわ」

「ああ、勿論だクリス」

 私はダリウス様と夜会を後にしようとした時、妹が「水」を私にかけようとしてきたのをダリウス様が防ぎました。

「邪水……こんな物をもちあるいて……許されると思っているとは」

 ダリウス様が怒りのこもった声をはっし、妹を見ます。


 妹は悲鳴を上げて尻餅をつきました。


「お姉様が悪い! 独り幸せになろうとするお姉様が悪い!」

 駄々っ子のように言う妹に、私は侮蔑の視線を投げつけます。

「私の幸せを、散々奪ったのは貴方達でしょう? エミリオは元々私の婚約者だったのに、貴方が奪った、全ては──」


「貴方達への罰」


 そう言ってダリウス様とともに夜会を後にしました。





「ダリウス様、おけがは?」

「私は永く生きているからこれくらい平気だとも、それよりも君が浴びなくて良かったよクリス」

「ありがとうございます、私のような者を守っていただき」

「妻を守るのは夫として当然さ」

「ありがとうございます……」

 ダリウス様のお言葉に涙が止まりませんでした。

「さぁ、愚者共を罰しようか」

「はい、ダリウス様」

 私は微笑んで頷きました。





 まず、御祖父様と御祖母様は隠居地に向かいダリウス様の庇護の元隠居となりました。

 その間、御祖父様とのやりとりで、エトランゼ家の財宝──資産などは全て私のものに。


 お父様とお母様の住んでいた屋敷も私の物になり、私は両親を追い出しました。


『親不孝者!』

『愛さなかった貴方達に言われる筋合いはないわ』


 ダリウス様は、妻に危害を加えようとした女の親と言うことで、裁判をおこし、産んだだけの親は労働所送りになりました。

 妹は刑務所行き「夜の貴族」を傷つけようとした罰として、一生刑務所で過ごす事になりました。


 逃げようとしたりしたけど、連れて行かれました。


『助けてお姉様!』

『私を傷つけようとした貴方をどうして私が助けなければならないの?』


 そう言って妹が連れて行かれるのを見てました。


 エミリオは自主的に労働所へ、事業はダメになり、妻がしたことの重大さから進んで労働所へと入ったそうです。





「ダリウス様」

「どうしたんだい、クリス」

「私、今とても幸せです」

「私もだよ、クリス」

 満月の晩私達はそう言って口づけをして夜を愛するようになりました。





 人で無くなったけれども、私は人としての幸せを手に入れました。

 ずっと続く幸せを……──








END 

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夜の貴族は、孤独な令嬢を愛する ことはゆう(元藤咲一弥) @scarlet02

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