冷たい幼馴染
あああ~……やってしまったぁぁ……!
コンビニで買ったパンを朝ごはん代わりにかじりながら、僕は先ほどの詩音への接し方にさっそく後悔していた。なんだよ、もう行くなんて、寂しがり屋な彼女に一番言っちゃいけなかった言葉なのに……
自分でもちょっと重い幼馴染を持っていることは自覚している。でも、両親の無関心さのせいで愛情表現ができない彼女を支えると一度決めたのに、それを覆すなんて……一度捨てられた猫をもう一度捨てるような罪悪感が胸の大半を占めて、僕は頭を抱えた。
後できちんと謝ろう。そう思うけど、でも、あの表情を思い出すたびに心臓が尋常じゃないほどバクバクと音を立てて、会話をするのもままならない。それほど僕も詩音のことを意識しているっていうのは、ちょっとわかってほしい……あんな遠慮ゼロの距離感でいられたら、こっちも我慢できないことはわかってくれないと……
少しムッとしながら僕は最近お気に入りのミントガムを口に放り込んだ。すぅっと広がる清涼感にしばし浸っていると、後ろから僕の名前を呼ぶ声がした。
「お~い、颯~!」
「あ、竹田」
振り返るとそこにはクラスメートの竹田俊介の姿があった。思いっきり茶髪に染めてピアスも何個も明けている彼は、見た目はヤンキーのそれだが、根はやさしくて頼れる男子であった。凛としたたたずまいに思わず涙腺が緩む。
「……たけだぁ~……ずび」
「うおぉ!?なに、どした?なんでないてんだよ……もしや、まぁた詩音ちゃんとすれ違ったのかよ?」
「!っ……流石竹田……お前本当に何でもわかるなぁ……」
「まぁ、お前ら毎週毎週すれ違ってるもんな……主に、思いのすれ違いで」
「……そうなんだよ……今日は、なんだかいつもよりかわいく見えちゃって……」
「おうおう、お熱いことで。まあ、そんだけ詩音ちゃんのこと大事にしてるっつーのが、向こうに伝わってないのか?難儀だねぇ」
僕のガムをさりげなく口に放りながらやれやれと首を振った竹田は、ぴんと人差し指を立てた。
「この竹田さまが、とっておきの方法を伝授してやろう」
「!ほんとか!恩に着る!」
「……こんなに単純なのになぁ……今度うまく言いくるめてご飯奢らせよーk……———ごほんごほんっ、それはだなぁ……」
「それは……?」
「これから詩音ちゃんが話しかけてきたら、語尾に全部好きってつけるんだ!」
「は、はぁ!?」
「不安定な詩音ちゃんを支えるのが仕事って言うなら、これくらいしないと。さ、さっそく練習だ。まずは俺を詩音ちゃんだと思って、さぁ!」
どや顔で僕に顎を突き出してくる竹田。正直詩音とは尊さがかけ離れすぎていてやる気に慣れないのだが……
「おい、聞こえてるぞ」
「!ああ、すまない……」
襟を正して竹田に向き合ってみる。なんだかんだ一番ぼくたちの問題に向き合ってくれるのは竹田だもんなぁ……
「なあ武田、いつもありがとう。好きだよ」
「きもっ」
竹田に告白した瞬間、俺の後ろを通っていた黒髪美女がさらっと毒を吐いてきた。
「っおぉ、速水……朝からきつくない?」
「べ、つ、に!詩音ちゃんを傷付けるやつには、別にいくら言ってもいいでしょぉ!?」
「おいおい奏、颯だけが悪いって訳じゃないんだから、今回のは……」
「何?詩音ちゃんを傷つけた時点で、100%!悪いのは颯でしょ」
ぷりぷりと怒り口調で竹田と言い合ってるのは、高校で詩音と知り合い、それから毎日のように溺愛している自称親友・速水奏だ。黒髪ストレートを腰まで流し、きりっとした目元にグレー味の強い瞳でにらまれるとまぁおっかない。こういう時はさっと頭を下げてしまうのに限る……
「すみませんでした!」
「……かっこわる」
ぽつり、と小さな声が僕の耳届き、先ほどの奏よりも冷たく重いとげが心に刺さった気がした。慌てて顔を上げると、そこには詩音の姿があった。
「!……しお……」
「っ——————奏ちゃん、いこ」
「うん!……じゃぁね、颯、俊介」
声をかけようとした瞬間、ふいと視線をそらされてしまう。思わず固まった僕の視線から逃れるように、奏の背中に隠れる詩音。ぽつりとつぶやいた詩音は、頼られたことに一気に上機嫌になった奏に連れられて、先に教室に向かってしまった。
「……」
「あ、あまりのショックに颯が固まっちまった」
目の前で竹田がひらひらと手を振っているが、ショックすぎて何も考えることができなかった。
……し、詩音が……僕のこと……
そのあとの一日、授業が耳に入らなかったのは言うまでもなかった……
もういいかい?——まあだだよ!じれったい幼馴染が僕に種明かしをしてくれるまでのストーリー 成瀬 栞 @naruse-siori
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