2、すれ違う幼馴染

 さらさらと、布の擦れる音が部屋を満たす。甘酸っぱい雰囲気に打ちのめされそうな僕と、必死にボタンを取り外す詩音の温度差が、唯一均衡を保っているようにも思えた。


「……んっ……、人のボタンって、案外取りにくい、んだね……」

「そうだね。僕も外そうか?」

「だめ!これは、私が、外すの!」


  必死な彼女の表情をいとおしいと思いながら、されるがままにパジャマを脱がしてもらう。

 でも、さきほどから、彼女の紅葉のように小さくて可愛らしい手が、意識してないんだろうけど、僕の胸を撫でて少々くすぐったい。


「んっふ……」


 思わず変な声が漏れてしまい、それに気が付いた詩音が見る見るうちに真っ赤に染まる。


「ごめ、ん!」


「いや、いいんだ!気にしないでくれ、詩音!」

 詩音がぱっと手をのけたから、思わずその手を握り返してしまった。


「ふわぁぁぁぁ!?」


 突然のことに驚いたのか、詩音は僕の手を振り払う。そして、その拍子に体重の軽

い彼女の重心がぐらりと傾いだ。


「詩音!」


 慌てて手を伸ばして彼女の頭を支える。だけど勢い余って彼女を押し倒すことになってしまった。


 さらりと彼女の長い髪が床に流れて、光を反射して淡く光る。僕と詩音の荒い息がまじりあって、熱っぽくうるんだ瞳が重なって……はっと気が付いた時にはお互い顔が真っ赤になっていた。耳の隣に心臓があるんじゃないかってぐらいどくどくと鼓動がうるさい。


「颯、君……?」

「ああ。ごめん詩音!」


 ばっと飛びのいてシャツのボタンに手をかける。


「あ……」


 そのあとでゆっくり身を起こした詩音が悲しげな表情を浮かべていたが、流石に僕も平常心で接することができなかった。


「……僕、もう行くから」


 無意識のうちに声が固くなる。彼女が僕の服を着せたがっているのはひしひしと感じていたけれど、これ以上彼女に触れられていてはおかしくなりそうで。仕方ない、そう自分に言い訳を重ねて僕は部屋を飛び出した。

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