雨宿り

ツヨシ

第1話

仕事を終えてアパートに帰ると、アパートの入り口で女が立っていた。

若い女だ。

聞けばこの雨がおさまるまで、アパートの軒下で雨宿りをしているのだそうだ。

確かに豪雨と言っていい雨が降っている。

俺は自分が持っている傘を女に貸した。

柄のデザインがかなり変わっている、一種のネタ的なものだ。

女は最初断ったが、古いし持っているのが少し恥ずかしいデザインだからと言うと、笑顔で受け取ってくれた。

そして女は去った。

名前も知らない。

ところが次の朝、ニュースを見ていると、トップニュースは引き逃げ事件だった。

夕べ女が車にはねられて死亡したと言う。

車はそのまま立ち去った。

なんとなく見ていた俺はあるものに目がいった。

女も車もいない現場。

そこにいるパトカーの横に、俺が昨日女に渡した傘が転がっていたのだ。

俺は、昨日の女が事故死したことを知った。

傘を貸しただけの間柄だが、それでも俺は悲しみを覚えた。

その日、仕事を終えて帰ると、アパートの俺の部屋の前に、女に貸した傘が置いてあった。

――返してくれなくてもよかったのに。

その日以来、その傘は俺にとって大切なものになった。


       終

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雨宿り ツヨシ @kunkunkonkon

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