タンチョウヅルの恩返し 〜恩返しの相手がイケオジすぎて、顔が真っ赤になっちゃうんですけど!?〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

タンチョウヅルの恩返し

 むかーしむかし、あるところに、ダンディで彫りの深い顔立ちとエロティックな細い指を持ったイケオジがおりました。

 とある大雪の日のことです。イケオジはスポーツジムでたっぷりと汗をかいた帰り、罠にかかった一羽のタンチョウヅルを見つけました。

 イケオジはイケオジなので、ツルを助けてあげることにしました。


「じっとしていてください、可憐なツルさん。僕がすぐに、そのいけない罠をほどいてあげますよ」


 イケオジはツルの足元にかがみ、そこに絡みつく罠をエロティックな細い指で、絹糸をほどくように丁寧に外してゆきました。

 ジム帰りのイケオジの体からはたくましい男の汗が香り高く立ち込め、また集中するイケオジの口からは熱い吐息が漏れて、冷気で白く塊になってツルの体にまとわりつきました。

 ここでタンチョウヅルについて説明すると、漢字では丹頂鶴と書き、頭のてっぺんが赤いのが特徴です。

 でもこのツルの顔が赤いのは、それだけではなさそうです。ちなみにメスです。


「さあ、罠が外れました。オオカミに食べられたりしないよう、気をつけてお帰りなさい、ツルさん」


 イケオジはツルに向けて、彫りの深いダンディな顔をくしゃりと笑顔にして、輝くような白い歯を見せました。

 ツルは真っ赤になって顔を隠しながら、逃げるように飛び去っていきました。

 イケオジは満足そうに笑みを深めて、帰路につきました。


 その日の晩、イケオジがサラダに岩塩とオリーブオイルをかけていると、扉をトントンとノックする音が響きました。

 こんな雪の夜に来客でしょうか。イケオジは不思議に思いながらも、イケオジなので紳士的に扉を開けて出迎えました。

 するとそこには、年若い女性が、何やら顔を真っ赤にしてもじもじしてたたずんでおりました。


「あっあっあのっ、わたし、この雪で道に迷ってしまって、しばらく、おうちに置いていただけませんでしょうか……! お礼に、ななな、なんでもしますのでっ!」


 それを聞いて、イケオジはにっこりと微笑みかけました。


「それはそれはお困りでしょう。どうぞお礼など気にせず、おくつろぎください。こんな枯れたオジサンの一人暮らしですので、お嬢さんには居心地のよくない場所かもしれませんが」


「いえっ、むしろ大好物……じゃなくてっ、すみません、お邪魔しますっ……ひゃわぁ〜!?」


 どんがらがっしゃ〜ん、女性は家に踏み込んだ途端、足を踏み外して盛大に転んで、サラダを倒して頭からオリーブオイルをかぶりました。


「ごごごごめんなさいごめんなさい! わたし、足をケガしちゃって、それでうまく歩けなくて!」


「それはいけない、すぐに手当てをしましょう。ケガが治るまで、ずっとこの家にいていいですよ」


「はわ、はぅわ……!」


 イケオジのエロティックな細い指が彼女の足に触れて手当てをする感触と、ずっと家にいていいという言葉に、女性はますます顔を赤くしました。

 イケオジはケガの具合や諸々から「あ、この人さっきのタンチョウヅルだ」と勘づきましたが、イケオジなので奥ゆかしく黙っていることにしました。


 こうして、イケオジとタンチョウヅルの女性の、ひとつ屋根の生活が始まりました。


「あのっ、ひとつお部屋を貸してください! それで、絶対に中をのぞかないでもらえませんか!」


 女性は部屋にこもって、何やら黙々と作業をしたかと思えば。


「あのっ、わたし、セーター編みました! 毎日寒いので、おじさんにちょっとでもあったかくなってもらいたいので!」


「ありがとう。やあ、これは暖かいですね。柄も入っていてかわいらしいですね、カッパの柄だ」


「ツルです……いいですわたし不器用なので……いじいじ」


 イケオジと女性は、日々楽しく過ごしました。


「サラダに岩塩、かけてみますか?」


「は、はいっ! 岩塩をゴリゴリするやつ、初めて使います! ゴリゴリゴリ……ぎゃわーっ回す場所間違えてフタが外れましたーっ!?」


 ずっとイケオジ一人だった家は、タンチョウヅルの彼女が来たことではなやかに、にぎやかになりました。

 イケオジはそんな日々を、楽しく思いました。


 そんなある日のこと。

 イケオジは彼女の手編みのセーターを着て買い物に行き、そして帰ってくると。


「ぎゃわわ〜〜!?」


 どんがらがっしゃ〜ん、彼女がいつもこもっている部屋から、大きな音がしました。


「大丈夫ですか!?」


 イケオジは一瞬、彼女に部屋をのぞかないでと言われたことを思い出しました。

 しかし彼はイケオジなので、真っ先に彼女がケガをしていないか心配になり、言いつけを破って部屋の戸を開けてしまいました。


「あっ」


 そこでは彼女がすっ転んで、棚を倒して編み物道具やら何やら一面にぶちまけた光景が広がっていました。

 しかしそれより目を引くのは、彼女が着ているのがイケオジと同じ、カッパ柄……もといツル柄のセーター、つまりペアルックなことでした。


「あわ……あわわ……はわわわわ〜!?」


 彼女は真っ赤に赤面しました。


「みみみ見られました〜!? こっそり同じ柄のセーター編んでペアルックにしてたの、バレてしまいました〜!? もう恥ずかしくてこの家にいられません〜!!」


 泣いて家を出ようとする彼女を、イケオジはエロティックな細い指で、優しくつかんで引き止めました。


「よかったです。実はおみやげを買ってきたんですが、僕の独りよがりでいやがられてしまわないかと、不安だったんです」


「えっ……?」


 きょとんとする彼女に、イケオジは包みを差し出し、開いてみせました。

 中身はアロハシャツの、ペアルックでした。


「僕も、ペアルックを着たいと思っていたんです。そしてケガが治るまでと言わず、冬が過ぎて夏になっても、この家に住んでほしいと思っています」


「は、はぇぇ……?」


 理解が追いつかないツルの彼女の手を、イケオジは優しく手に取り、白い歯を輝かせて微笑みました。


「これから毎朝、僕のサラダに、岩塩とオリーブオイルをかけてくれませんか?」


 彼女は、目を丸くしました。

 そしてイケオジのその言葉がプロポーズだと理解すると、顔一面どころか頭のてっぺんまで、真っ赤になりました。


「はわ、はわわわ、はぅあぅわ〜〜!?」


 彼女があんまりにも赤面するので、部屋の温度がぐんぐん上昇し、ハワイのように暑くなりました。

 イケオジはセーターでは暑いので、アロハシャツに着替えました。

 袖からたくましい二の腕が露出し、襟元からセクシーな胸元がちらりと見えたりして、ツルの彼女はさらに赤面して熱くなり、するとイケオジの露出がますます上がり、またしても彼女の熱が上がるという永久機関が完成し、二人は末永く幸せに、アツアツに暮らしました。

 めでたし、めでたし。

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