第3回目 時間
時間はあっというまに過ぎていくぞ。
修了式を終えた後のことだった。担任から脅し文句が脳裏をよぎる。
この教室には二種類の人種がいた。
これから起きるであろう様々なイベントにドキドキしている奴ととっとと早く家に帰りたい奴だ。
碌に話を聞いていない。右から左へ受け流される。
これからの予定で頭がいっぱいだ。
「ちゃんと来たな」
「自分で言ったからには約束は守らねえとな。しばらく頼むぜ」
次の日、八坂悠人と西之谷皐月は開館と同時に図書館へ駈け込んで、席を陣取った。
新聞を読みに来た老人や課題図書を借りに来た小中学生など、朝からにぎわっていた。
「みんな真面目なのな」とサツキはその様子を見て漏らしていた。
デートしてるような奴らと比べたら、朝から宿題をしにきている自分たちは十分真面目だ。決して目の敵にしているわけではない。
自分だけ取り残されていたことを恨んでいるわけではない。
悠人は何度も自分に言い聞かせる。
宿題を終わらせた後、ファミレスで休憩していた。
ここも家族連れでにぎわっており、楽しそうな声が響いている。
脳みそをフル回転させたからか、二人の間に沈黙が下りていた。
「どこもかしこも人だらけだな」
「楽しそうでいいなー、どいつもこいつも」
「いい加減あきらめろって。流れに乗れなかったお前が悪いんだから」
変な声を出しながら、テーブルに突っ伏した。
友人に裏切られたのがよほど悔しいらしい。
「夏休みは一瞬で終わるし。そのくせやらなきゃいけないことはたくさんあるし。
どう考えてもバランスがおかしいよ~」
悠斗は背もたれによりかかった。駄々をこねる子どもみたいだ。
「お前はいいよな、やりたいこといっぱいあるんだろ。
十分に人生満喫してるよ」
「……別にそういうわけじゃないけどな」
彼の表情がふっと真顔になる。
そうはいうが、ついこの間、絶望に頭を砕かれたばかりだ。
どうしようもできない絶望感がのしかかる。
自分じゃない誰かの顔を思い浮かんでしまう。
「アタシもなんか始めよっかなー。
夏休みくらい充実に過ごしてみたいもんだ」
詳しい事情は聴いていない。
学校が逃げ場になっていたことを考えると、楽しくはなかったんだろうな。
「工作でもやるか? これでも得意だぜ」
「お前、そういうの好きそうだもんな。
どうせ、変なピンボールとか作ってたんだろ?」
「……何で分かるんだよ」
「マジで作ってたのかよ」
皐月はあきれた様にため息をついた。
いい年こいた大人が遊びたいだけ 長月瓦礫 @debrisbottle00
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