最強と歩む異世界ライフ〜未知と過ごす第二の人生譚〜

銀河 宇宙

第1話

 友人が少ないと学校はつまらない。


 毎日登校する場所であるからこそ、楽しく生活できる環境にする必要がある。


 その目的を果たすのに一番有効的なのが友達作りだ。


 しかし、俺には友人と呼べる存在が一人もいない。コミュニケーション能力が壊滅的なわけではない。


 幼少の頃のトラウマが原因だと思う。


「アハハ! あんた本気で言ってんの?」


「本気に決まってるっしょ。こんな事冗談でも言えないし」


「ただのバカじゃん!」


 朝登校すると、俺の席の近くで話す、女子グループの話し声が嫌でも聞こえてくる。


 別にうるさいなどとは思わない。むしろ学校は彼女たちのように、友人と楽しく会話をする場所であると理解しているからだ。


 しかし、問題はそこじゃない。


「げっ……絢斗来たじゃん」


「マリ、声出てるって!」


「別に良くない? 聞かれたところで何もないし」


 神崎絢斗。それが俺の名前だ。


 ちなみにマリと呼ばれた女子は鈴木麻里奈。俺の幼馴染である。容姿は整っていて、校則ギリギリの制服の着こなしや髪を染めるなど、優等生とは言えない女子。


 彼女は悪気なく俺に聞こえるように愚痴を零すが、そう言われた俺の心はズタボロだ。


 しかし、言い返すことはしない……。


 故に、こんな状況はずっと続いている。


「ちーす。何の話をしてんの?」


 チャラい男の集団がこちらに向かってくる。


「おはよう、しばっち。昨日の話をしてただけよ」


 麻里奈の友人が「しばっち」と呼ぶ男は、整髪料で髪を整えているイケメン。俺たちの学校は整髪料禁止だが、平気で使用するような奴。


「マリったら、バイト先でトラブル起こしたらしいのよ。それも他人に言えないようなやつ」


「何それ! めっちゃ気になるじゃん。マリ、教えてくれよ」


「他人に言えないって言ったでしょ」


「でも話したんだろ?」


「女子トークよ。男子には言わない」


 麻里奈はしばっちのお願いを断る。


「まあいいか。それよりさ、今日カラオケ行かね? 男子のグループと女子のグループで」


「いいね、面白そう」


 俺の席の近くで話す男女のグループ。言わずもがな、彼ら、彼女らはスクールカースト最上位の人間だ。


 麻里奈とは小さい頃は仲が良かったが、今じゃ全く話さない。いや、話さないと言うのは語弊がある。何せ先ほどのように、彼女が俺の悪口を言ってくるので嫌でも耳にする。


 しかし、それは会話とは言わないだろう。だから話さなくなったと言うのは嘘ではない。


 彼らの遊びの話を徐々に進んでいき、盛り上がりつつある。


 俺には関係のない話なので、朝礼が始まるまでトイレにでも行こうと席を立つと……。


「神崎、お前も来るか?」


「え?」


 突然の事で、反応が遅れた。それよりも、しばっちと呼ばれる男子が俺を誘った?


「え、えーと……」


「ハハ! なにキョドってんだよ! 来るか来ないかだけだろ」


 それが難しいのだ。何故なら、今日初めて話したかもしれん奴に誘われたのだ。誰だってこうなるだろう。


 まあ、彼らのような人間はならないのかもしれないが。


 俺が行くかどうか悩んでいると、来ればいいと言ってくる男子がいる。


 正直気が乗らないが、ここで断って空気を悪くする方がいたたまれない。無難に了承する事にした。


 俺が了承をすると、麻里奈が嫌な表情を見せる。いつまでもここに居ては気分が悪くなるので、俺はトイレを目指した。


 教室を出る時、微かに話し声が聞こえた気がする。それはしばっちの声。


「神崎が来るとなれば、テキトーな罰ゲームでもやって、あいつに奢らせられるぜ!」


「アハハ! お前サイテーだな!」



 ◇



 放課後になった。


 予定通りカラオケを目指して歩いていた。


 参加者はかなりの人数で、十人は超えている。これだけの人数が騒ぎながら歩いていては迷惑な気もするが、俺が止める事はしない。


 学校の最寄駅に着くと、人や車が多い。しかしカラオケはここにあるので仕方がない。


 カラオケに向かう道中で俺は一言も話さなかった。


 一つ気がかりな事があるとすれば、麻里奈の存在だ。何度か俺を窺うようにチラチラと視線を送ってきた。


 それだけ俺の事が嫌いなのだろう。やっぱり帰ってしまおうか……そう思った瞬間。


『逃げろ!』


 遠くから叫び声が聞こえて来た。


 気が付けば、俺の側で歩いていたクラスメイトは一人もいない。みんな逃げたのだ。


 俺だけが残される形となり、ようやく状況を察した。しかし、察した瞬間にはもう遅い。


 トラックの衝突音と人々の悲鳴が鳴り響く。


 不思議と悲鳴は小さくなっていく……いや、俺の耳がおかしくなっているだけかもしれない。


 腕を動かそうにも、まともに動かせない。視線を向けて見ると、腕は潰されていた。


 俺が轢かれたのだ。辺りを見ても倒れているのは俺だけ。クラスメイトは逃げる事に成功したらしい。


「絢斗……絢斗!」


 麻里奈の声がする。視線を向ければ、泣きっ面の麻里奈と目が合う。


 俺の事が嫌いとは言え、流石に心配してくれているのだろう。


 だが、俺は彼女に何も言えない。だんだんと意識が薄れていくのだ。


 俺は察した。


 今日死ぬのだと……。


 走馬灯なんてものは見れやしない。


 結果を言えば、つまらない人生だった。今日だって、陽キャグループの財布にされるために呼ばれたようだし。


 ある意味惨めな思いをしなずに済んだなと思う。


 それでも、家族に会えなくなるのは寂しい。


 どうか、先に逝く俺を許してほしい。


 そして、来世があるのならば、俺が生きやすい人生をくださいと誰に聞こえるもなく、心の内で願った。


 

 ◇



 目を覚ました。意識がある。


 俺は助かったのだろうか?


 一瞬そんな疑問が生じたが、一瞬でそうではない事に気付く。


 俺は誰かに支えられているようだ。その誰かとは嫌でも視界に入る。


「この子の名は、ノア。ノア・ヴェルナよ」


 美しい銀の髪の女性が、ノアと呼ぶ。おそらく俺の名前なのだろう。


「無事に生まれてきてくれてありがとう」


 女性の近くにいる黒髪の男性がそう告げた。


 二人のセリフから察するに、新しい命が誕生したのだろう。


 そしてその新しい命とは間違いなく俺の事だ。


 どうやら俺は前世の記憶を持ったまま生まれたらしい。


 実にありがたい事だ。生きやすい来世を願ったが、記憶がなければ俺とは別人。


 記憶があるなら今度こそ楽しく過ごせるかもしれない。


 こうして俺の新たな人生が幕を開けた。

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